アフターダーク

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村上 春樹
講談社 2006-09-16

by G-Tools

中学生か高校生くらいのときに村上春樹の本を読み始めて、8割くらい読んだ気がする。単行本では買わないけど
文庫本になったら買っていて、今回も文庫になったんで買って読んだ。
書評ではかなりひどく書かれているみたい。普通に読むと確かにそういう感想を持つかもしれない気がした。
場面場面とか表現の仕方とかそういうのに重点を置いて読むと、かなり良い作品だと思う。


「僕」という一人称じゃなかったので、最初ちょっと戸惑った。
それから無意識のうちにミステリっぽい前提で読んでしまったので、終わったときに
伏線放置はひどいんじゃない?と感じた。でも読み返してみると、ミステリじゃないんだから
こういうのもありかと思った。むしろ日常はこっちに近いし、これはこれでまとまってる。
ディテールをじっくり読んでみると、表現がすごくうまいと感じた。

それからベルトコンベアに載せられて、機械で首をぽきぽき折られて、機械で羽をむしられるの

このぽきぽきって表現がすごくリアルでいい。だって「ぽきぽき」だよ。
鶏の首の骨を折る音でぽきぽきをセレクトしたところがすごいと思う。

でも君はろくに口もきかず、ずっとプールに入って、育ち盛りのイルカみたいに泳いでいた。

この作品で一番気に入ったのはこれ。「育ち盛りのイルカみたいに」というところ。
俺の頭からこの比喩は、まず間違いなく出てこないだろうな。育ち盛りのイルカなんて
見たことないし、話にも聞いたことないけど、ガンガン泳いでるイメージはけっこうリアルに
出てくる。そこを表現として使うところがすばらしいと思った。

「普通の人は考えない。僕は考える」

さらっと書いているけど、なんか良い表現。
。の前後の文字数とか関係あるんだろうか。

落ちたばかりの涙は、血液のように温かい。体内のぬくもりをまだ残している。

論理的に考えたら血液のようにっていわれても、血液が限定されてないから意味不明。
でもなんとなくわかる気がするこの表現が非常に良い気がした。
場面がかなりリアルに浮かぶ文章ってのはすごいと思う。
そういうわけで、普通に読むならお勧めしないけど、細部をじっくり読むなら良い作品。