銃・病原菌・鉄

4794210051銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
ジャレド ダイアモンド Jared Diamond 倉骨 彰
草思社 2000-09

by G-Tools

2000年に出た本。一万三千年にわたる人類史の謎と題して
非常に壮大な試みをしている本で、非常に面白かった。
なぜインカ帝国がスペインを征服するのではなく、スペインがインカ帝国を征服したのか。
家畜にしやすい動物としにくい動物の違いは何なのか。環境が歴史にどんな影響を与えたのか。
そういうことを1つ1つ丹念に書いてまとめているのがこの本。
さらっと読める本じゃないから厚い本が読めない人にはお勧めできないけど
そうじゃない人なら読むといろいろ得られるものがあると思う。


特にアナロジーを意識したつもりはないけど、歴史っていうのは非常に応用しやすい形式なので、
現代なら何にあてはまるのかということなど、いろいろと考えてしまった。そのプロセスも面白い。
マオリ族とモリオリ族の話が非常に興味深かった。
ポリネシアの同じ祖先を持つのだが、チャタム島に行ったモリオリ族は、持ってきた作物が
育たなかったために狩猟採集生活に戻り、島のキャパが小さかったので、
人口過剰からくるいさかいを減らすために戦いを放棄したらしい。
強力な統率力や組織力に欠ける非好戦的な少数部族になったそうだ。
一方マオリ族は、農業に適したニュージーランド北島で、余剰作物ができたので
族長や兵士たちを養うことができた。近隣部族間の衝突もしばしばあった。
500年接触がなかったが、1835年11月19日武装したマオリ族がチャタム島に上陸し、
大挙してモリオリ族を襲い、数日のうちに数百人殺し、多くを食べてしまったとのこと。
マオリ族は単に慣習に従って行動したまでだという。
まだ百数十年しか経ってないので非常にリアルに感じる。
現代でも、国とか会社とかのアナロジーをいろいろと考えるとちょっと怖い。


スペインのピサロ率いる160人程度の軍が、なぜインカ帝国の皇帝アタワルパの8万人の軍に勝てたのか。
情報がなかった。そして、病原菌に対する免疫がなかった。このあたりが重要かと思う。
アステカ帝国が滅ぼされたことを知らず、スペイン兵を過小評価し、罠にはまる。
家畜がいなくて、病原菌に対する免疫がなくて、持ち込まれたウイルスで天然痘患者急増。
後継争いで帝国ないが分裂しかかったところで、ピサロが攻めたらしい。
ビジネスに当てはめると、何か新しいものが見えてくるかもしれない。
ここを自分で考えることで、誰かの受け売りじゃないアイデアが出てくる気がする。


全体的な結論としては大陸の形に帰着すると書いている。ユーラシア大陸は東西に広がってるので
文字が発明されたら広まるのがはやいし、家畜にしやすい動物や、農業に適した作物も
広まりやすい。でもアフリカ大陸や南北アメリカ大陸は南北に広がっている。
南北だと気候が変わってしまうのでなかなか伝わりにくい。孤立すると発展しにくいんだろう。
伝染病に対する免疫がなければ致命的。アステカ帝国は、天然痘の流行で人口のほぼ半分が死亡したらしい。
兵士に殺されるよりも病原菌で死ぬ確率の方がずっと高い。
1779年に50万人あったハワイの人口は、1853年に8万4千人に激減しているという。
前に少し聞いたことはあるけど、数字で見るとその驚異的な威力がよくわかる。
歴史のこれまで知らなかった面がよくわかる。非常に興味深い本である。