文字の歴史

文字の歴史―ヒエログリフから未来の「世界文字」まで
文字の歴史―ヒエログリフから未来の「世界文字」までスティーヴン・ロジャー フィッシャー Steven Roger Fischer 鈴木 晶

おすすめ平均
stars文字の不思議と魅力を実感する

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11月中旬から一ヶ月ほど書評が空いた原因はこの本。面白いんだけどヘビーすぎ。全然進まなかっただけに、読みあがったときに達成感みたいなのは非常に大きかった。中盤過ぎの「羊皮紙のキーボード」という章が特に面白かった。さて、この面白さをどう伝えたらいいだろう。

完全な文字とは、次に挙げる三つの基準を満たすものである。

  • 意思の伝達を目的としている
  • 紙などの耐久性のある表面、あるいはPCモニターなど電子機器の表面に書かれた、人工的な書記記号の集合体である
  • 慣習的に、分節言語(有意味な音声の系統的配列)と関係のある記号、あるいは意思の伝達がなされるようなコンピュータ・プログラミング関係の記号を使っている。

こんな感じで定義づけ。きっちり文字の定義なんて考えたことなんてなかったけど、確かに必要なことだろう。

  • 古代世界における最も一般的な記憶法の一つは、結縄(ノット・レコード)という方法である。
  • 結縄の最も発達したのは、インカ帝国のキープであろう。キープは複雑な勘定方法を形成していた。結び目の位置と結び方の違いで数量を表し、結び目の色でここの商品を表していた、と推測されている。

最初は記憶法だったらしい。結び目だけでここまで複雑なことができるというのはすごい。

最近になって出てきたトークン理論は次のように主張する―書記のトークンは初歩的な簿記体系における勘定道具であった、トークンの形状は数えた製品を意味している、一つのトークンは数えた一単位に等しい、これらトークンが直接的に完全な文字になった、と。

トークンは、「シュメル」という新書を読んだときに出てきたので、なんとなく知ってる。でも、批判にあったりしているので、これが最初の文字かどうかははっきりしてないそうだ。

約4000年前、エジプトの官僚ドゥア・キィーティは、息子が書記の養成学校に行くのに付き添って、船でナイル川を南下しながら、息子にこう語った。「文字に専念するんだぞ……<書記というのは>何よりも立派な仕事だからな……母さん<を愛する>よりも本のほうが好きな人間になれよ。本のすばらしさを忘れるんじゃないぞ」

すごいな。文字を軽視してたわけじゃないけど、ここまでとは思ってなかった。

楔形文字)粘土板に文字を書いたあとは、すぐにそれを天日に当てて干すか、重要で保存すべきものの場合は焼いた。皮肉なことに、古代メソポタミアの最も重要な蔵書のいくつかは、壊滅的な大火事によって保存された―それらが粘土で作られていたからである。対照的に、古代エジプトのパピルスの蔵書はすべて、個人所有の古写本は多く残ったものの、消失したり粉々になったりした。

○○文明は××文字で…って教育が意味ないな。何でそうなるのかってことが欠落したら、学ぶだけの意味がない。楔形文字ヒエログリフ、粘土板とパピルス、合わせて考えたら単純なことか。書く手段によって文字の形態も大きく変わってくる。そんなこと全然考えたことなかったけど、この本を読んで思った。自分が単に理解してなかっただけかも。空欄に「くさび形文字」って書かせるんじゃなくて、実際に粘土板を持ってきて、葦の尖筆をあてて書いてみるような教育を受けたかった。そんなことする場所はないか。

文字が借用されるには、多くの方法がある。借用できるのは以下の事柄である。

  • 文字という発想のみ。
  • 文字という発想とその適応(たとえば、線状に書く、右から左へ書く、段組)
  • 文字体系(表語文字、音節文字、アルファベット)
  • 現存の体系の質を高めるための、別の文字体系の一部。
  • 文字の一部、その他。

事実上、全ての文字体系と文字は、上記の一つあるいは二つ以上の要素からなっている。借用した文字が別の言語に伝達するや否や、適応あるいは転換が必要となる。最も一般的な適応は記号一覧の変更で、不要な音を排除し、新しい音を入れることである。

かなりシステマチック。でもすべてを網羅している。一分の隙もなくリサーチするという姿勢が非常に参考になる。それからフェニキアアルファベットとかアラビア語とか出てきて、日本語についての記載もある。

  • 日本語は、これまで地球上に存在した文字のなかで最も複雑な文字によって表記される。三種類の文字(一つは漢字、あとの二つは日本文字)を使う二つの異なる表記システム(外来の表語表記と日本固有の音節表記)が併用されている。
  • 二つの仮名文字は形に特徴があり、一目で区別がつく。平仮名は一般的に曲線的であり、片仮名は直線的である。この決定的な違いは日本の視覚美術に活かされている。片仮名は店の表示や広告に、平仮名は書道やその他のもっと「流麗な」表現に使われる。
  • なぜ日本は二つの音節文字が必要なのか
  • 日本がどうして複雑な混合表記システム、混合文字にこだわるのか
  • この疑問の底には、アルファベットを使う側からの偏見がある。日本人以外の人間は、日本は三つの選択肢のうちどれかを選ぶ決断を「迫られている」と考えるだろう。
  • 事実、日本は何の選択も「迫られて」などいないのである。日本の文字はしっかりと日本社会に浸透している。
  • 一つだけ確かなのは、日本の文字がどういう点においても、人々の知的成長の妨げになっていないということだ。世界で最も複雑に見える文字を持つ国が、世界で最も技術的に進んだ国であるということは、まったくの偶然ではないだろう。

外部から見た日本、日本語というのは非常に興味深い。そういうふうに見られていたのか。ひらがな、カタカナ、漢字って確かに学ぶの大変そう。一つに統一しろよって思うのかもしれない。でもニュアンスが違うわけで、このあたりを習得するのもけっこう大変そう。

アウグスティヌスが、師である聖アンブロシウスが黙って本を読むのを見て、どうして不思議に思ったかというと、西欧では紀元数世紀まで、声に出して本を読むのが普通だったのである。

なんか知らないことばっかりだ。自分が今当たり前と思っていることの大半は、非常に歴史の浅いものなのかもしれない。

フランスの歴史家アンリ・ジャン・マルタンは次のように述べている。「片面にだけ文字を書いた巻物とちがって、ページの両面に字を書く冊子の出現は、間違いなく本の歴史上最も重要な革命であった」

革命の連続。読んでてわくわくしてきた。

  • 半アンシャル体(セミアンシャル体)は、5世紀の終わり頃にイタリアとフランス南部で発達し、書物用の書体として好まれるようになったが、この文字をもとに、カロリング(カロリンガ)小文字体が編み出された。
  • じつはカロリング体が長い間かかって分裂し、そこから、競い合う二つの書体ができていた。ゴシック体とユマニスト体である。

あんまり考えたことなかったけど、フォント一つ一つに歴史があるんだな。

  • 疑問符(?)が初めて現れたのは八世紀か九世紀頃で、ラテン語の写本であるが、英語では1587年、フィリップシドニー卿の「アーケーディア」の出版とともに姿を表した
  • 印刷の書記には、イタリアのユマニスト・ローマン体フォントよりもゴシック体のほうが広く使われていた(フォントとは、同一書体、同一の大きさの欧文字の一揃いである)。
  • ローマン体の字面には三つの主な系統がある。オールド・フェイス、モダン・フェイス、サンセリフである。
  • 二十世紀に入ると、とくに、まだモノタイプの活字が技術文書の印刷に広く用いられていたアメリカで、モダン・フェイスは新しい方向を見出した。今日、モノタイプ活字を使っている業者は徐々に、世界的な規模で使われているタイムズに変更しつつある。
  • 最も人気のあるサンセリフ活字はヘルベチカとユニバースで、どちらも1957年から使われており、今ではしばしばパソコンの標準フォントとして使われている。
  • アメリカ人ノア・ウェブスターは、1828年から、自分が作ったアメリカ英語の辞書によって標準化を普及させることで、アメリカの正書法をうまく改革し始めた。彼はいろいろ変えたが、なかでも、(honourのなかにある)-ourはアメリカでは-or(honor)となるとか、(theatreのなかにある)-reはアメリカでは-er(theater)となるといったふうに、彼の改革は今でも生きている。

修士論文の図にヘルベチカ使ったな。ウェブスターってそういうことしたのか。自分が当然のように使っているものでも、全然何も知らなかったということに気づかされる一冊。3800円でも安い。