その数学が戦略を決める(改めて)

感想を手抜きすると楽だけど楽しくない。いつものスタイルで書こう。

  • われわれはいま、馬と蒸気機関の競争のような歴史的瞬間にいる。直感や経験に基づく専門技能がデータ分析に次々に負けているのだ。
  • 「ワインの愛飲家たちがこの方程式をダメだと思ってくれないと、多くの人が路頭に迷うことになるんですよ」

ということで、大量の事例が紹介されている。橋ができて川越え人足が失業するときみたいなことが起きつつあるのかもしれない。オートメーションで人手が少なくて済むみたいなことが。
人間よりも機械の方が疲れないし、高い精度で作業できるということは、認識されているけど、人間よりも高い精度で物事を判断できるという認識も、10年くらいしたら定着するのかも。

2004年にハリケーン、アイヴァンがフロリダを襲う直前に、ウォルマートは既にハリケーンの進路の店にイチゴポップタルトを大量にストックさせていた。ハリケーンにやられた他地域の店舗売り上げを分析したウォルマートは、人々がハリケーンの後ではポップタルトに群がるのを知っていたのだ。これは調理や冷凍が不要で、食器なしで食べられる甘い食べ物だからだ。

いわれてみれば納得するけど、この相関関係を見つけた人はすごいと思う。
データを見て、何と何が相関するのかに気付くのが今後重要になりそうだ。

スロットマシンが好きなシェリーは、34歳の白人女性で上中流の居住区からきている。するとシステムは、彼女の一晩あたりの痛みポイントが900ドルだとはじき出す。そしてシェリーがスロットマシンが900ドル近くすってしまったら、「幸運の大使」がやってきて、彼女をスロットマシンから引き離す。

食事券等を渡して、気分よく帰ってもらって、また来てもらうらしい。
これはかなり衝撃的だった。これはいいとも悪いとも言えない気がした。
店は限界まで儲かってハッピー。客はお金を使うけど、儲かるかもって思って楽しいし、
損して二度と行くかって感じる前に、気分よく帰宅することができる。
宝くじもそうだな。当たるかもしれないってわくわくしたい人が買うわけで
夢を買うとはよく聞くけど、外れても別にいいんだよな(身も蓋もないが)。

本当に面白かったのは、クレジット・インデムニティ社が同時にダイレクトメールの他の部分も無作為化してあったということだ。同社によれば、勧誘の手紙の右上ににっこりほほえむ女性の写真を入れておくだけで、男性の応答率は跳ね上がるとか。その影響は、金利を4.5%引き下げたのと同じ効果があるという。

これは以前ユーザビリティを専門にしている人から聞いたことある。
ブランドイメージとかそういう定量化できない方がわかんないけど。

  • 専門家の色眼鏡を通したデータだけに頼るかわりに、診断はむしろ医療システムを使う何百万もの人々の経験に基づくべきだ。
  • 飛行機の先生に、どうしてこんな違いが生じるのか尋ねてみましたよ。すると先生はこう答えました。「簡単なことですよ、ジョセフ。パイロットとちがって、医者は飛行機とは心中しませんから」

逆に言えば、心中するようなシステムにすればいいわけか。
使うか、その仕事自体を辞めるか、の2択を迫るようなシステム。
イノベーションとは、人を追いつめるものである。

  • 全体として、白か黒かの予測をしろと言われたら、こうしたきわめて多様な分野の専門家たちは、だいたい三分の二くらいの確率で当てた。だが絶対計算者たちは、四分の三近い正解率だった。
  • 平均的に見ると、銃を持っていて裏庭にプールがある家では、子供はプールで死ぬ確率のほうが100倍近く高い

人間ってやつは、わりと印象で判断しがちだから、いまいちなんだな。
競争が激しくなってくるとあんまりぬるいことを言っていられなくなるから、
この正解率が少しでも高い方を選ばざるを得なくなってくるのかな。

わかんないかな、ディック。われわれは市場のちょっとした不完全性を見つけることで儲けるんだ。通常、そういうのは小さいし、滅多にないし、すぐに市場の効率性で埋められてしまう。でもこういうのを見つけてそういう機会に大金を投入できたら、珍しくて小さいものだって、市場の効率性に潰されるまでに大金のもとになるんだぜ。いまきみが示してくれたのは、ハリウッドがそういう機会の10車線舗装ずみ高速道路みたいなもんだってことだ。連中は明らかにものごとをまちがったやり方でやろうとしているし、その文化にはまちがった方式にこだわり続けたいという熱意がありありと見える。われわれにはすばらしい機会なんだよ。しかもこれは見たこともないくらい長続きしそうな機会だ。

やっぱりいろいろと考えさせられる。効率性を重視することについて。
もう金儲けと楽しむことを分けて考えないといけないのかな。
がっちり短時間で稼いで、あと徹底的に遊ぶみたいなことをイメージした。
効率を考えたとき、何かに対する愛着って足かせになってしまう気がする。
一概には言えないかもしれないけど、明らかに儲かるものと儲からないものがあって、
儲からないけど楽しいようっていうのも一つの生き方ではあるんだけど、
短時間でちゃちゃっと儲けて、あとの時間儲からないことで遊ぶという選択肢も
そんなに悪くないような気がした。そのちゃちゃっとやるのが難しいけど、
それはアイデアとこの絶対計算で良い線行くんじゃないかと思ったりする。
甘く見過ぎなのはわかるけど、この本はそのくらい可能性を感じさせる。

絶対計算の世界では、自分の値段を抑えるときに他の消費者には頼りにくくなっている。価格に敏感な顧客がある店をひいきにするからといって、そこが自分にとっても安い店になるとは限らない。抜け目ない絶対計算者はものの数ナノ秒であなたを見極め、「お客様向けにはこのお値段で」ということになる。

ここの部分を読んで思ったのは、値札がない時代に戻るだけじゃないかってこと。
ベトナムとかカンボジアとかに行ったとき、価格交渉の連続だったんで、
こんなふうにいちいち計算しなくても、交渉でだから一人一人違う。
世の中ある程度発展してくると、また繰り返すのかな。

2SDルールとベイズ理論について知っていると、自分自身の意思決定の質を高められる。

間違いなく、馬鹿が馬鹿にされる時代が来るんだろうな。
On Off and Beyond: バカがバカにされる国アメリカ
http://www.chikawatanabe.com/blog/2007/03/post_3.html
それってただのアメリカの話か。そういえばそうだ。
そんな時代は、日本にはしばらく来ないかも。自分はどこに行くんだか。

その数学が戦略を決める
その数学が戦略を決めるイアン・エアーズ 山形 浩生

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