ユークリッドの窓

また良い本に出会った。親からもらって、ざっと流し読みしようかと思ったんだけど
どんどん引き込まれてしまって、今後やることがいろいろと増えてしまった。

ユークリッドの窓~平行線から超空間にいたる幾何学の物語
ユークリッドの窓~平行線から超空間にいたる幾何学の物語レナード・ムロディナウ 青木 薫

おすすめ平均
stars支離滅裂な気が・・・
stars「焼き鳥」的幾何学史
starsびっくりした
starsすばらしい知的エンターテインメント
stars楽しい幾何の歴史

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著者のレナード・ムロディナウは、やがてティーンエイジャーになり、大人になってゆく自分の子どもたちに、幾何学の面白さを伝える本を書きたかったのだろう。「幾何学は、ほんとはすごく面白いんだ。パワフルで、世界の見方をがらりと変えてしまうんだ」と。
理系分野のなかの数学、その数学の一領域である幾何学、と位置づけるのではなく、幾何学こそはわれわれの思考の枠組みをかたちづくり、論理的思考を鍛えるものであったことに改めて気づかせてくれるのである。

と訳者あとがきにあるように、幾何学史の本。物理と数学を行ったり来たり。
グリニッジ天文台に行ったときにも書いたけど、
思い入れのある場所へ - technophobia
http://d.hatena.ne.jp/pho/20070819/1187492479
やっぱり自分は科学者とその歴史が好きなんだと思った。

バビロニア人は式を使わず、すべてを文章で表した。

今当たり前に使ってるものも、それがなかった時代があったんだな。

タレスは、この世の森羅万象は観察と論証によって説明できるはずだと論じ、ついには、「自然は法則にしたがう」という画期的な結論に達した。

土台はここからできたのか。非常に興味深い。

「空間」は抽象概念であってもよいという、数学にロマンとメタファーを与える重要なアイディアを思いついたのは、エジプト人ではなくギリシャ人だったのである。またギリシャ人は、抽象概念はさまざまな状況に応用できることにも気がついた。

抽象化するから、応用ができる。あらゆることの土台かもしれない。

ピタゴラスの生涯とそれにまつわる言い伝えは、いろいろな意味で、のちのカリスマ宗教指導者イエス・キリストのそれに似ている。キリストの逸話のいくつかに関しては、ピタゴラスをめぐる神話の影響を受けなかったとは考えにくい。
ピタゴラスが死から復活したという話もある。ただしその話によれば、ピタゴラスは秘密の地下室に隠れてそのように見せかけたことになっている。キリストが示した超自然的な力や行為の多くは、ピタゴラスもやったと言われている。ピタゴラスは同時に二か所に現れたことがあるそうだし、波を静め風を操り、神の声を聞き、水上を歩く能力があったという。

これは知らなかった。面白い。すごいぞピタゴラス

今日、殺人が起こるにはさまざまな理由がある―愛情、政治、金、宗教。しかし2の平方根を口にしたがために人が殺されたりはしない。だがここで注意すべきは、ピタゴラス学派にとって数学は宗教だったということだ。かくして沈黙の誓いを破ったヒッパソスは殺害された。

これは、非常に紹介したかった。

ローマ人は抽象数学に関して無知であり、その無知を誇りにさえしていた。キケロはこう述べている。「ギリシャ人は幾何学者に最高の名誉を与えた。そのせいで数学以外には大した発展がなかった。しかしわれわれはこの学問を、ものを測ったり数を数えたりすることに限定したのである」ではローマ人に対してこう言うのがふさわしくないだろうか。「ローマ人は兵士に最高の名誉を与えた。そのせいで破壊と略奪以外には大した発展がなかった。われわれはこの技術を、世界征服以外には役立たないと判断するものである」

この部分は、非常に考えさせられた。ローマ帝国って実用一辺倒で、工学っぽい感じがする。
いわゆる役に立つことばっかりやってたら、抽象数学が重視されないな。
効率ばっかり追い求めたら、数値化ばっかりし続けたら、こぼれ落ちるものが多そうだ。

ローマ帝国が没落した476年ごろ、ヨーロッパには巨大な石造りの神殿や劇場、邸宅、街灯や給湯施設、下水道などの都市設備が残されたが、知的な業績には見るべきものがなかった。ユークリッドの「原論」のラテン語翻訳版の断片は800年まで存在した。測量の技術書に書き込まれたそれら断片には、式のみが記され、しばしば近似値が用いられ、式を導こうという試みはまったくなされなかった。

問題意識がないと、試みも何も行われない。合理的ではわりきれないところ。
ギリシャとローマ。科学と技術。数学と物理学。理論と実践。
バランス良くやっていこうとしたら、どっちつかずになるのかもしれない。


第一部だけでこんな分量になってしまった。わかりやすく、非常に面白い本。
当たり前だけど、読んで楽しい本って素晴らしい。
ジャンルが近そうなのも挙げておこう。
世界でもっとも美しい10の科学実験 - technophobia
http://d.hatena.ne.jp/pho/20070715/1184510512