無一文の億万長者

以前ゲイツ財団について書いたときに、トラックバックからチャック・フィーニーのことを知り、翻訳される前に訳者の書評を読んで非常に気になっていたのがこの本。
無一文の億万長者 (単行本)
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期待通り非常に面白かった。免税店DFSの事業の成功で巨額の富を築いた人、チャック・フィーニー。そんなふうにビジネスで成功した人は、けっこうたくさんいるんだろうけど、この人は、この儲けたお金の大半を大学等、様々なところに匿名で寄付する。徹底的に匿名を貫く。でも規模が大きすぎて公然の秘密となってきたので、全部バラして本が出たみたい。


この人は、目の付け所が明らかに違うという印象を受けた。そして圧倒的にスピードが速く、やることは徹底している。ハワイの免税店のところは特に面白かった。どんどん入ってくる日本人観光客を一手に引き受けようという凄まじい意志が伝わってくる。そんな感じで事業が得意で、本人も好んでいろいろやっていたので、どんどんお金が入ってくるわけだが、この人は、いわゆる金持ちっぽい贅沢に興味をそそられず、むしろ嫌悪感を抱き始めたようだ。そこで積極的に支援活動を行う。

自分にとって慈善活動を支援するとは単に金を渡すことでなく、それができるだけ多くの人を助けるために有効に使われるかどうか個人的に見届けることなのだ。

という考え方は、その後に出てくるゲイツ財団に少なからず影響を与えているような気がした。それからフィーニーは、アンドリュー・カーネギーの随筆「富(Gospel of Wealth)」を何度か読み返したらしい。カーネギーによると

富を使う最良の方法とは「向上心あるものが登れる梯子」—たとえば大学や図書館—を提供することだ

ということで、きっと参考にしたと思われるが、カーネギーと違ってフィーニーは名前を残そうとはしなかった。

金を寄付する立場にあることに誘惑されてしまうのですが、それに伴う傲慢さと無用な自信はひどいものです。大嫌いで最悪なんですが、そうなってしまう可能性はとても大きい。友人や仲間たちには大きな財団の会長と思われない方がずっと居心地良かったのです。

改めて指摘されると、こういう価値観も非常にわかるような気がしてくる。

草の根みたいな代物にはさほど興味がないようでした。かれのレベルならずっと大きなことができる。もっと大きなインパクトを求めていたんです。人々を教育すれば、かれらは自分で自分の国を発展させるというのがかれの信念でした。

そもそもなんでも好きでやっているわけで、大きなインパクトを求めて、大きなプロジェクトを楽しんでいたんだろうな。

この種の仕事にはいると、お金は人助け以外のためでは考えなくなります。みんな『200ドルしかありません。助けたいんですけど、お金持ちみたいに寄付はできませんから』と言うんです。そういう人には『そうおっしゃいますが、あそこで顔のやけどを治すのに200ドルの恩恵を受けた人は、そうは思いませんよ』と言います。人々の自助努力を支援して、人々がこの地球をお互いに共有するための十分な機会を発見できるだけの教育を与えるのが重要なんです。

この辺りはいろいろと考えさせられる。自分が寄付をするかどうか。寄付するとすればどこにするのか。そんなに給料はもらってないし、けっこう天引きされててお金は余ってないけど、別に足りないわけでもないので、検討に値する問題である。パタゴニアの1% for the planetではないけれど、年収の1%を社会的な問題に取り組む人々に寄付することも考えられる。Room to readとか、アショーカ財団とか、いつもお世話になっているWikipediaでもいい。自分のところから少しお金が減っても、それで気持ちにゆとりができるのならばそれでいいような気がした社会人4年目。なんか面白いことにお金を使えたらいいな。

問題が大きいことでは決して尻込みしたりはしませんよ。だって支援しようと手をさしのべるなら、そこには問題があるに決まってるんですから。

という感じで次から次へを問題に着手するチャック・フィーニーの話が面白いので、おすすめの一冊である。