中国の知財訴訟の裁判所選び

目標を立てておきながら、別のことを書きたくなったので、まあ自由研究とでもしておこうか。会社で購読しているManaging IP(intellectual property)という雑誌の記事が面白かったので紹介する。
Where to sue in China - Managing Intellectual Property - June 2009(要登録)
http://www.managingip.com/Article/2214353/Where-to-sue-in-China-.html
仕事で訴訟に関わってないし、中国とも関わってないけど、知財関連で大きなお金が動くのは訴訟関連だし、中国がアメリカみたいに訴訟大国になっていくかもしれないので、ちょっと気になるのである。中国のHuawei Technologiesが国際特許出願(PCT経由)で出願件数世界一だし、

Since 2006 more patent lawsuits have been filed in China than anywhere else, even litigious America.

Intellectual property in China: Battle of ideas | The Economist

中国は世界の工場だけでなく、世界の頭脳にもなりたがっている。

Battle of ideas - phoの日記 - The Economist読む隊

というわけで、既にいろいろ変化が起きていて、気づいたら中国が特許無法地帯から、特許できっちり管理された状態に変化してるかもしれないと思った。単純に日本だけを見ていても今後特許関係が発展する要因なんてまったく思いつかないわけで、もう少し広い視野から物事を見てみようかと思って読んでみた。
それから訴訟というのは、どこの裁判所でやっても同じ結果が出るもののような気がするかもしれないけど、実際には、人間が判断するものであるし、場所によって法律が違ったりするとけっこうばらついたりする。

デラウェア州は法人税が全米で最も安いレベルにあるということはもちろん無視できないポイントなのですが、それ以上に重要なのは、デラウェア州の法律、判例、裁判制度が他州に比べて格段に充実かつ洗練されているという事実です。

会社法といえば、米国デラウェア州 : NED-WLT

こんな感じで、アメリカではこの裁判所なら原告(訴えた側)有利とかがデータになっている。前置きが長くなったが、そういうデータについて中国ではどうなっているのかを示したのが、冒頭の記事である。
中国国外の企業が中国で訴訟を起こすとき、あまり考えずに上海か北京を選ぶみたいだけど、それって賢い選択なんだろうか、という問題をここでは提起している。損害額、裁判の期間、コストは、裁判所によってバラバラとのこと。会社によって優先順位が違うわけで、高い被害額を勝ち取れるのがいいのか、(事実上差し止めが機能していない中国で)さっさと裁判を終わらせたいのか、などを考えることによって、最適な裁判地を選んだ方がいいんじゃないかという話。その辺りのデータは、↓のサイトで見られるようだ。まだ完全なデータベースというわけではなく改善の余地があるとのこと。
CIELA - comprehensive analytics on IP judgments in China | Home
http://www.ciela.cn/
そんなことを書いているが、別に好きな裁判地を選べるわけではなく、裁判は、侵害が行われた場所か、被告がいる場所のどちらかで行われることになっている。上で出てきたものに加えて、裁判官の専門性や原告の勝率も重要な判断材料である。北京や上海では経験豊富な裁判官が公正な裁判をしてくれるという。一方、原告の勝率は、13の裁判地で比較した結果、上海、北京が最も低くなっている。扱う件数が違うので、一概に比較することはできないかもしれない。
ここで2つのケーススタディが紹介されている。一つ目のSotheby'sの件では、北京の裁判所を利用したそうだ。地元の大手企業を外資系企業が訴えるとき、ローカルの裁判所に圧力がかけられるんじゃないかという懸念があったとのこと。被告が裁判所にたくさん移民の従業員を連れてきて、うちの会社が敗訴して工場が閉鎖されたら社会的なインパクトが大きいぞとアピールすることもあるそうだ。保護貿易主義の考え方もあって外資系企業が不利な面もあるけど、このケースでは北京でSotheby'sが勝訴したとのこと。
次がMarsという会社で、上海、北京ではなく侵害者の本拠地があるところで訴訟を起こした。地方の裁判所はあまり経験がないため理解してもらうまでに時間がかかったが、そこを辛抱強く待てば、しっかり仕事をしてくれて、これまで全件勝訴している。
統計データに戻ると、平均損害額については、北京がダントツに高いが、請求した額と認定された額の比率では、他の裁判地の方が高い結果となっている。訴訟にかかる時間については、扱う件数が多すぎる上海、北京はどうしても長くなってしまうので、この2つに続く大都市でやるのが最も早いのではないかと、CIELAのデータから推定される。
一つで全てのニーズをみたす解なんてものは存在しないから、バランスを見ながら選ぶ必要があるとのこと。上海か北京で、と思考停止するんじゃなくて、自社にとって優先順位の高い項目は何か、それに対して最適な裁判地はどこかと検討してみることが大切でしょう。

感想

中国に進出する企業が増えると、この辺りの専門性のニーズも高まって来そうな気がした。他の分野は知らないけど、この辺の分野では日本国内の需要なんて収縮する一方という印象を受けているので、自分自身のためにもいろいろな道を検討した方がいいような気がする。世の中はいろいろと変化しているわけで、自分自身もそれなりに適応していかないと、どんどん苦しくなりそう。変化はいきなり来ているように見えて、けっこういろいろと兆しがあると思っているので、状況を把握しながら手遅れになる前に行動していこうとは思っている。
で、この中国だが、リオ・ティントの件で個人的に信用ガタ落ち。それについてはまた後日書こう。2010年の上海万博の後も案外発展するのかもって思っていたけど、それはないなあ、さっさと一回潰れた方がいい、とばっちりを受けないためにはどうしたらいいのかな、なんて思ったりした。まあ考えるだけじゃなくて行動に移すのが大事で、情報もインプットばかりじゃなくてアウトプットするのが重要で、久々にブログを書くと、こうやって好き勝手に書くのはなかなか楽しいなと思った。こんな感じでまた気楽に書いてみようと思う。