外科手術を照らす

The Economistの記事2本目。外科手術関連で興味深い試みが行われているようなので取り上げてみることにする。腫瘍を照らすことによって、除去を簡単にするそうだ。
Treating cancer: Illuminating surgery | The Economist
http://www.economist.com/displayStory.cfm?story_id=13525820
癌の治療というのは、現状ではとりあえず切ってみるということになっているらしい。化学療法や放射線治療の前に。うまく除去できなかったにしても、それでどのくらい広がっているかとか、次どうすべきかとかがわかるそうだ。診断とか治療とかはいろいろ進歩しているけど、外科手術はプリミティブなままらしい。腫瘍を除去して、腫瘤のまわりが健康な組織で覆われているかどうかを研究所で確認して、ダメならまたやり直しという感じ。
そこでUCサンディエゴのRoger Tsien氏は、外科手術のための光るマップを作って、このサイクルと止めようとした。ちなみにこの人は、2008年に緑色発光タンパク質で下村氏と共にノーベル化学賞を受賞している。この人が今回やろうとしたのは、ガン細胞に発光染料をくっつけて、発光させて、除去しやすくするということである。細胞は負に帯電しているので、正に帯電させた染料ならくっつけられるけど、腫瘍にだけくっつけるのは難しい。そこでmatrix metalloproteinases(MMPS)を使う。ガン細胞は、これらを利用するけど、健康な細胞はこれらの酵素をほとんどつくらないので、よいマーカーになるそうだ。
それからもう一工夫あって、この染料をヘアピン型のタンパク質分子の一方につけて、他方を負に帯電させるとのこと。そうすればヘアピンのターンの部分が、MMPSの切断を受けやすいアミノ酸のシーケンスになっていて、新たな化合物を注入したときも、大半が洗い流されて、残っている染料分子は、MMPSによって切断されたヘアピンだけである。これでくっつけることができる。
現状ではマウスで実験がされており、発光させた方に有意な効果が現れている。Tsien氏は、これをガドリニウムと組み合わせることによって、MRIにも応用しようとしている。外科手術のガイダンスだけでなく、これまで生体検査や外科医の勘頼みだった問題、腫瘍の細胞が神経繊維まで届いてしまっているのかを示すこともできる。それからTsien氏は、トロンビンと呼ばれる血塊要素のような他の物質にも染料を適用できないか考えている。心臓発作や心臓麻痺の原因となる動脈プラークを照らすのである。
光るタンパク質が外科治療に応用されていて非常に興味深いと思った。ある発見が他の分野の問題解決に貢献するのは、他にも例がありそうだ。問題意識を持つことと、自分の得意分野でどういう技術が利用可能かを知ることにより、できることの幅が広がりそうである。何かを見たときに、自分なりの解釈としていろいろと絡めてみるのは面白いかもしれない。
この件を自分と関わる分野に絡めてみるのは、あまり愉快じゃないかもな。特許だから。人を治療する方法の特許は取れないけど、それ以外なら検討できそうだ。「細胞を発光させる方法」から少しずつ狭めていくのかな。高価な医療のできあがり。人の命が絡むとお金になってしまうので困ったもんだ。そこから給料をもらっているので偉そうなことは言えないけど、どういう方向だといいのかな。