数学が経済を動かす

ドイツの大企業のトップ20名が「我が社で数学が重要な理由」を語る本。
数学が経済を動かす- ドイツ企業篇(シュプリンガー数学クラブ) (単行本(ソフトカバー))
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保険、鉄道、製薬、エネルギー、コンピュータなど様々な分野において、数学がいかに活用されているか、数学がなければいかに仕事にならないかを説明していて、一つ一つがなかなか重いけど非常に面白かった。時々入ってくるコラムもわかりやすい。
べーリンガーインゲルハイムがDNAマイクロアレイと統計がどう関わるか、けっこう詳しく説明しているけど、ちょっと頭が追いついていないので、もう一度読む。
政府機関のドイツ連邦労働エージェンシーが労働統計に数学を使っているのもなかなか新鮮だった。失業者数の季節的影響を除去するとか、いろいろやってるみたい。ダイムラーが事故のシミュレーションをしていたり、ドイツ鉄道が列車の本数を最適化したり、証券取引所や保険会社がリスク分析をしていたり、と多岐にわたっている。

新しく世界経済に現れたインドや中国などの国で、毎年数十万人が自分のキャリアパスを考えて理工系大学の卒業生となっているのだとすれば、高齢化が進行中のドイツでは、若年層の将来の方向性、専攻についての学習を補強しなければなりません。その基盤となるのが数学です。

なんて文章を読むと、(単純なので)危機感が湧き上がり、気を引き締めていこうという気分になる。

数学者と非数学者が同じ言語を話し、学際的な領域で仕事をすることが重要です。そうすることによってのみ、本当に重要な問題を確認して、正しい解を見つけることが可能になります。数学者と非数学者が互いをよく理解し合い、協力して生産的な仕事をはじめれば、双方が利益を得ることができます。

こういうのを読むと、改めて自分の立ち位置について考させられた。
そんな感じで書いていくときりがないので、最後に自分が最も衝撃を受けた、シェル・リサーチの話をとりあげよう。

我々が「逆アプローチ」と呼ぶ研究活動の代表的なものについて解説します。これは、数学が具体的な現象を抽象化するのとは逆に、抽象的な数学的対象を具体化する作業を意味します。すなわち、物理学的、化学的対象を記述するために数学を応用する伝統的なアプローチから、抽象的な数学的対象を具体化するために物理学と化学を用いるという逆アプローチへのパラダイム・シフトの長所を探ります。

こういう発想をしたことがなかったので、非常に新鮮だと思った。従来の手法では、モデルの選択が絶対不可欠な入力情報だったのに対し、事前にモデルを選択せず、データからモデルを構築することを考えるのがこの手法。ノイズの多いデータに対して、近似的な関係式のみを使うことで、ノイズの影響を弱める。なんかいろいろ書いてるけど全然理解できていない。でも考え方が面白いと思った。
そんなわけで、数学が好きな人、数学が世の中にどのように役立っているのか知りたい人には、お勧めの一冊である。