<反>知的独占

この本は知的財産権という制度が知的独占、そしてレントシーキングにつながって、社会的な害悪となると主張する。それから知的財産制度があるからといって技術の進歩が促進されるわけではないことをいくつかの例を用いて説明している。キーワードはレントシーキング。

Rent-Seeking
Cutting yourself a bigger slice of the cake rather than making the cake bigger. Trying to make more money without producing more for customers.

Economics A-Z terms beginning with A | The Economist

一言でいえば寄生虫のようなものだろう。全体のパイを大きくするのではなく、既存のパイから大きな分け前を得ようとする行為のことだ。もしそうであれば明らかに産業の発展に貢献していない。
最初の40ページまでの感想を以前書いたが、続きも読んだので全体の感想を書くことにする。著作権について書かれた本は多いけど、特許権は不要ではないか論をここまで書いた本を見たことがないので、ここでは特許について書いてみよう。特許がなぜあるのかというと、知識を広めて、産業を発展させるためである。単に知識を公開して共有しようと呼びかけても、ただ乗りされるのを嫌がって全然情報が出てこないのではないか、ということで、技術を公開する代わりに一定期間(20年間)の独占権を与えましょうというのが今の制度。そんなわけで独占権を与えなくても情報が出てきて広まるのであれば、特許制度は必要ない。オープンソースソフトウェアがその例になり得る。誰も公開された特許を見て勉強するわけじゃないし、そもそも独占権を与えなくても多くのソースコードが公開されている。
この本で例に挙げられているのは、蒸気機関の改良で有名なワット。この改良の特許を取得した後は自身の技術を改良することはせず、後続の研究者を訴えることに専念したそうだ。この間蒸気機関の進歩は止まり、特許権の期間が満了した後に進歩が再開したとのこと。前提としてあるのは競争が産業を発展させるという考え方。そう考えると独占は競争を阻害するのでよろしくないということだ。
特許を正当化する目的でよく例に挙げられるのは医薬品業界である。ジェネリックを直ぐに作られたらR&Dにかかったお金が回収できないではないかという意見があるが、この本はそれにも答えている。新薬開発費用において大きなウェイトを占める臨床試験は公共財の性質があるので税金で賄っていいのではないかとのこと。効かない薬にかけるマーケティング費用とかは別に特許で回収する類いのものではないし、特許なくても問題ないのではとのこと。
こんな感じで特許で生計を立てている人が言わないことをストレートに書いていて興味深い本だ。

秘密による私的なレントシーキングと、特許による公的なレントシーキングのトレードオフだ。

とあるように特許がなくてもconfidential informationとして保護することはできる。個人的な感想として、簡単に共有できることを無理矢理阻害するのは不自然で無駄な印象を抱いてしまう。特許ありきで考えるのではなく、ゼロベースで考えてみることが大切なんだろう。利害関係者にゼロベースで考えることを求めても厳しいのが現実だが、もう一歩進めたロジックと落とし所が必要だと思った。これに関連して、近頃自分に重くのしかかっている言葉がある。

技術的な進歩より、自分の人生にどれだけ自由があるかが重要だ。強力なソフトができたって、それを使うときに鎖でしばられるんじゃ意味はないんだ。だからそんな独占ソフトが書かれなくったって、僕は別にかまわない。

Matrix --Freewere Mind--

技術の進歩と自由のバランス。自分にとって大切なのはなんだろうと考えさせられている。まだ答えは出ていない。

〈反〉知的独占 ―特許と著作権の経済学

〈反〉知的独占 ―特許と著作権の経済学

訳者によるサポートページ
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