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高橋是清自伝 下巻

読書

下巻は銀行家・実業家としての活動が描かれている。

これまで私は教鞭を執ったり官途についたりして主として政府の仕事に当ったのみで、実業界にはまったくはじめてでありますから、今度実業界に入るについては、どうぞ丁稚小僧から仕上げて下さい」

と申出た。すると川田さんは「いや決心のほどはよく分った。まあこれから時々話しにおいでなさい」といってその日は別れた。

こういう心掛けは非常にいいと思った。こういう経緯で辰野金吾の下について日銀の建築に携わるのだが、そこで改善していった問題点の数々が、今自分が東南アジアで経験していることに似てる気がした。日本も昔はこんなふうに緩くてグダグダだったんだなと思った。

当時私は我が通貨の不足を補うには、いたずらに支那から取った償金に頼るようではいけない、それよりむしろ信用取引の増進を図ることが最大の急務であると考えていた。現に欧米諸国においては、例え100万円の資本を運用するにしても、現実に貨幣の流動する高はその二割に止まり、他の八割は信用取引によってこれを弁じている有様である。これに反して我が国においては信用取引に属するものは一割五分に過ぎずして、八割五分までは通貨の流動を必要とする状態にある。

善し悪しなんだろうけど、ここまで違っていたのは興味深い。

「このごろ支那から取った償金の英貨ポンドを出来るだけ速やかに内地に移したいが、正金銀行は一年にどのくらいの額を移すことが出来るか、それを調べて見よと大蔵省からの内命である。ついては至急調べて回答して貰いたい」

・・・

せいぜい努力して一カ年に為替で1500万円、銀塊で1500万円、合して3000万円しか移せないということであった。

単にお金を動かすのもなかなか大変だったんだな。

「すでに日本からの電報として新聞に載っているところを見ると、日本政府は煙草専売益金または鉄道収益をもって担保とする考えのようであるが、貴君だけがそれに反対して抵当は関税収入の担保余力をもってせねばならぬと押通すのはどういうわけか、むしろ政府のいう通りにした方が一般の気受もよいのになぜそうしないのか」

今でいうJTやJRを担保にするというのが非常に面白い。国単位だとそういうものを担保にできるんだな。

といった具合に、日銀副総裁として戦費を調達するところまでが描写されている。上巻とはまったく別の仕事をしていて、人生とはいろいろあるものだなと改めて感じた。あとがきによると、それについて『随想録』にこんな記載があるそうだ。

「多くは自分の不明から、いたずらに無用の波乱を重ねてきたが、しかもその間に、ただわずかに誇り得るものがあるとすれば、それは、いかなる場合に処しても、絶対に自己本位には行動しなかったことだ」

 自分の信念を生涯貫いたかどうか。表面的にはいろいろと変わっていても、本質的なところにブレない何かがあるといい。

 

高橋是清自伝 (下巻) (中公文庫)

高橋是清自伝 (下巻) (中公文庫)