鬱ごはん

華々しい成功体験を綴った自伝などよりも、赤裸々に失敗談を綴ったものの方がいろいろと参考になるし、実際のところ興味深かったりする。日経の「敗軍の将、兵を語る」が長く続いている理由はきっとそんなとこだろう。そこにあるのは、誰かが失敗したのを見てほくそ笑むような器の小ささを象徴する楽しみ方だけでなく、自分がその場にいたらどうするかという非常にリアルな問題提起もある。
理想を求めているつもりでも、失敗の連続というのが現実であるが、そんな失敗ばかりを綴った作品はそれほど多くない。ドジな自分の失敗談的な日常を扱うものはあっても、料理漫画では理想の料理ばかりが持て囃されている気がしないでもない。そこに一石を投じるのがこの「鬱ごはん」である。
一人暮らしでフリーターの主人公が日々そこそこマシなごはんを食べようとそこそこ奮闘するのだが、その甲斐なく「鬱ごはん」を食べることになる話が延々と描かれている。駄目人間を絵に描いたような主人公なので、その自意識過剰な小心者に辟易しなくもないが、現実が失敗の連続であることを思い出させてくれる。そして、出てくる料理がことごとくまずそうであり、例外なく的確なツッコミが入っている。
もう一つ興味深いのは、この主人公が全然成長しないし、成長する気もないことである。ただ無気力に生きていて、それがとてもリアルなのである。漫画家が自分の貧乏生活を描いたものかというと、そうではなくてあくまでも料理漫画なんだと思う。そんな駄目駄目な主人公でも人一倍食い意地を張っているのが様々な場面から感じ取れる。
勘違いされそうだが、これは断じてB級グルメの漫画ではない。食欲は全然刺激されないし、卑屈なキャラクターに魅力を感じることも皆無だけれども、妙にリアルで目が離せない「鬱ごはん」。非常におすすめだ。