われはロボット〔決定版〕

ロボットと言えばアイザック・アシモフのロボット工学の三原則が知られているが、そういえばアシモフの著作を読んだことがなかった。軽い気持ちで読んでみたら、これがまた面白くて面白くて、何度バスや電車を降り損ねそうになったことか。

「ロボット兵士の戦争」という本でこんな言葉が紹介されている。

「技術そのものではなく、むしろ技術の変化が社会に及ぼす影響を扱うのが、最もすぐれたSF」

「SFを書く際、予測することはささいな側面にすぎない。私たちは未来の可能性の特定の組み合わせが現実になったら、何が起きるかを推測している。その結果、現実に対する認識を改めざるをえない状況に読者を追い込む。だから、私たちは未来を予測しているんじゃない。未来が何をもたらすにせよ、読者がその予行演習をする手伝いをしているんだ」

この辺りをふまえて「われはロボット」を読むと、確かにこの本はロボットを通じて社会を描いていることがわかる。9本の短編が緩く繋がりあっていて、ロボット心理学者のスーザン・キャルヴィンが主要な役割を果たしているのだが、奇妙な行動を起こしたロボットがなぜそんな行動を取ったのかを、この心理学者達がロボット工学の三原則に基づいて推理していく話が多く、論理パズルのようで面白い。あと宇宙飛行士のドノヴァンとパウエルのコンビが、窮地に追い込まれながらも打開策を出していくのはけっこう好きだ。

どの話でも三原則が鍵となっている。とてもシンプルな原則だけれども、ここまで話を膨らませられるんだからSF作家というのはすごい。スーザン・キャルヴィンのこの言葉にはなかなか考えさせられるものがあった。

「ええ、数学的にはね。しかし、それを単純な心理学的考察に置き換えたらどう?すべてノーマルな生命体ならばね、ピーター、意識的にしろ無意識的にしろ、支配されることには怒りをおぼえる。もしその支配が、自分より劣った者、あるいは劣っていると考えられる者による者であれば、怒りはさらに増大する。肉体的にも、またある程度は精神的にも、ロボットは―どんなロボットでもー人間より優っているんです。ではなにが彼らを隷属に甘んじさせているのか?第一条だけじゃないですか。あれがなければ、ロボットに命令をあたえようとすれば、たちどころにそれはあなたの死につながる。不安定ですって?いったいなにを考えているんです?」

ドローンに武器を持たせて自律的に判断させて攻撃させるという現実があるわけで、これはSFの古典でありながらも最先端の問題にも関わってくる。科学が進歩したところで使うのは人間なのであり、最終的に人間の問題になっていくのだなという思いを新たにした。