ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険

初めてGoogle Earthを体験したとき、夢中になって色んな場所を見に行ったことを覚えている。そんなGoogle Earth(買収前の名称はKeyhole)を開発し、その後Ingressを作った人の本なので、是非読みたいと思って買った。序文からして既に期待させるものがある。

この本が、新しい目で世界を見る、ちいさなインスピレーションになりますように。そして、それがあなたに、外に出て、近所やおとずれた土地の隠された街かどを探索したり、旅路での新たな出会いをもたらしてくれたらと願っています。

Ingressはまさにゲームの力で引きこもりが外で楽しく遊べるものだったりするので、その思想の一端をこの本から垣間見ることができてよかった。

このまま将来どうなるのかわからないゲーム会社で働くか、高額の報酬を求めて転職するか。

言いかえるなら、好きなことをするか、いい暮らしをするために好きでもない仕事を選ぶか、です。

よく言われる言葉だけど、誰しもどこかでこういう岐路に立つのかもしれない。

彼らはKeyholeの技術がもたらしうるものについて思案し、興味深く思ってくれました。

わたしたちは「世界中の情報を整理する」ことをミッションとするグーグルとのミーティング、そしてKeyhole社内での議論をかさねていきました。

こうしてみるとGoogleのミッションにとても良くマッチしている。

それにしてもgoogle mapよりもgoogle earthの方が先だったのはすっかり忘れていた。

そののち、1年ほど経ったころ、グーグルは、デンマーク人のラスムッセン兄弟が開発したマッピング技術を買収します。

のちのグーグルマップにつながるテクノロジーです。

あのぬるぬる動くインターフェースがなかったらスマートフォンはこんなに普及していなかったかもしれない。

道路標識や信号が破壊されたあとで、ヘリコプターによる救助活動をおこなっていたレスキュー隊からは「グーグルアースが救助を待つひとびとの正確な位置を示してくれたおかげで、彼らを救うことができました。ありがとう」というメッセージをもらいました。

綺麗事に聞こえるかもしれないけど、自分もこういう形で直接貢献できることをしたいと感じた。

この経験をとおして「わたしたちの仕事はたんなるお金儲けではなく、世界に貢献できるものなのだ」と考えるようになったのです。

ハリケーンカトリーナをめぐるGeoチームの行動は、フィル・ジャクソンの行っていたcontinuous pull 高い目標を掲げることがチームを結束させ、パフォーマンスを最大化する―の重要性を強く思い起こさせるものでした。

pushではなく絶えずpullなのだというのは、並行して読んでいる9プリンシプルズという本の内容にも通じるものがある。

序文の話にも通じるが、人々が外に出て動き回るという点で一貫している。

つまり、この世界をよくするためには、ひとびとがもっと外に出て動きまわり、人間同士がつながり、そしてひとびとがそれぞれ、身のまわりにどんなものがあるのかをよく知ればいいのです。

このモバイルならではのアプリという視点は大事だなと思った。

スマートフォンが登場してしばらくのあいだは、ブラウザやメールをはじめ、PC用のアプリケーションをスマホに載せただけのようなものが大半でした。

はじめからあたらしいモバイル端末向けに作られたものであり、「モバイルならでは」「そのデバイスならでは」と感じさせるアプリでなくてはならないのです。

やはり位置情報だったり、決済がその場で完結することだったりするのだろう。今あるものを前提として、次のステップがあるように思えてならない。

MMO体験、すなわちソーシャルなチームをつくり、協力してゲームをプレイすることを、現実世界に持ち出したのです。

The World Is The Game 世界がゲームの舞台である

Move to Play 動いて遊ぶ

Social 現実世界の友情をつくる

Urban Exploration 新たな視点から街を見る

「新しい目で、新しい世界を見る」

なんとなく思っていたものがきちんと言語化されていてすばらしい。ジオキャッシングとか代替現実ゲームとか昔からいろいろあるけど、これだけスマホの性能が上がり通信インフラが整いバッテリ稼働時間が伸びると一気に可能性が広がるわけで、今後もいろいろなアプローチができそうな気がする。技術的に次のステップはゴーグル型のARMRになんだろうな。

エージェントたちには、バーチャルに遠隔地の情報を知るだけでなく、実際に足を使って、身のまわりのことを感じてもらいたいのです。

その認知や行動に、変化をもたらしたい。

バーチャルな空間を変化させるのではなく、現実をもっと心惹かれるものに、もっとミステリアスに変化させたいのです。

 

実際のところゲームと現実の境界は既に溶け合っている気がしなくもない。Ingressでポータルを素早く見つけることに慣れると、現実の世界でもシェア自転車があっさり見つけられるようになる。この2つの行為にそれほど大きな差異はないように思う。

『イングレス』の根本にあるフィロソフィーは、忘れられた空間に人を呼びこみ、そのことによってわすれられた空間がまた栄えるように、というものです。

わたしたちが考えたアイデアは、スーパーマーケットや映画館などのポータルには、震災でうしなわれてしまったもともとの光景の写真を載せ、来訪したエージェントがありし日の石巻追体験できるようにすることでした。

「キオク(記憶)のポータル」です。

このへんは自分が360度写真や動画を撮る理由に通じるものがある。アーカイブという視点はなかなか理解されにくいけど長期的に考えてとても大事だと思っていて、その応用の見せ方をこうして提示するのはすごく良いと思った。

石巻のイベントは、日本の詩人である松尾芭蕉がやはり東北の平泉において「夏草や兵どもが夢の跡」と詠んだときに、眼下の現実と過去の栄華とを重ねあわせて見ていた体験のようなものを、テクノロジーを使ってだれにでもできるようにしたのではないかと、ある日本人に言われました。

実際に見せてしまうのがいいかどうかはなんとも言えないけど、思いを馳せるという行為に対するバリエーションはいくつかあっても良さそう。

『イングレス』は、ほんのわずかながら、一つの直線の上からことなる空間へと移動できるように、あなたを刺激する存在なのです。

いままで生きてきた日常と違うところにも、日常はあります。

過去を再発見し、未来へのヒントを、見つけることができるのです。

そしてそのことが、現在の自分を、それまでとはことなるまたあらたな視点でとらえなおすことを可能にし、いまこの瞬間への集中をうながしてくれるのです。

空間を旅するだけでなく時間を旅することがテクノロジーによって可能になったと考えると興味深い。思いを馳せるのその先から、新しい視点を手に入れる。

ポケモンGOはやったことがないのでよくわからないが、その背景となる話も出ていて興味深い。

ポケモンカンパニーの石原さんが『イングレス』の高レベルエージェントだったこともあって、話はおどろくほど早く進みました。

ファミリー向けで、だれもがたのしめる、物理的に身体を動かせるゲームが理想なのです。

ポケモンGO』はまちがいなく「ゲームには人間の行動を左右する力がある」ことを証明しました。

結論はいつも同じところに落ち着く。

follow your bliss

自分はなにによって満足するのかを心に問いかけ、自分にとってのしあわせを理解し、それにしたがいなさい、と。

あなたの頭にうかんだアイデアがすばらしいものなのかどうかをたしかめるたにには、この世の中に具現化するしかありません。

この本全体を通じて、この人は本当にユーザーが外に出て、色んな人と交流しながら楽しむ世界を求めて、そんなサービスを送り出しているのだなということが非常に伝わってきた。これってある種のオフ会に通じるところがある。普段はオンラインでkeep in touchしながら、ときどき海外のMaker Faireに遊びに行ったり、IVRPAに参加したり、時々日本に遊びに行ったりして、一緒に何かのプロジェクトをやったり、何かを企画したりして、ゲーム感覚で現実を遊ぶ。濃度は濃いほど楽しいみたいな話ではなかろうか。オンラインのゲームは一例に過ぎず、オンラインとオフラインで相乗効果が出る遊びならいいし、世界が遊び倒しがいのある楽しい場所であるということがわかればそれでいい。

そんな感じで、google earthingressの背景にあるものを垣間見るにはとても良い本だった。自分がこれらのどんなところに惹かれたのかもなんとなくわかった。ナイアンティックの今後にも期待している。

ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険 グーグルアースからイングレス、そしてポケモンGOへ

ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険 グーグルアースからイングレス、そしてポケモンGOへ