オープンビジネスモデル つづき

自社で開発したものを、必ずしもうまく活用できているわけではないので、
オープンにして他社に売ったり、逆に買ったりするのが大事なわけだが、
やり方に気をつけないと困ったことになる、という例が出てる。

ゴー・コンピュータは自社所有の情報を大幅に公開しなければマイクロソフトのサポートを得られなかった。ビル・ゲイツ本人が、エンジニアとともにゴー・コンピュータにおいて丸一日費やし、ゴー・コンピュータのテクノロジー、製品戦略、事業計画を詳細にレビューした。ゲイツとともに来社したエンジニアは、その後もさらにゴー・コンピュータの社員と会議を重ねた。しかし、マイクロソフトは、ゴー・コンピュータのペンポイントOS向けにアプリケーションを構築するのではなく、、六ヵ月後に自社独自の競合製品であるペン・ウィンドウズを開発することを選択した。

ルールにしたがっているわけで、何も悪いことはしていない。駆け引き重要。

ケネス・アローの「情報のパラドックス」と呼ばれる課題だ。「顧客である私は購買の決定を下す前に、検討対象のテクノロジーで何ができるかを知りたい。しかし、売り手がテクノロジーが何であり、何ができるかをすべて語ってしまうと、それは無料でテクノロジーを移転したのと同じことになってしまう。」ゆえに、サプライヤーは提供する情報を意図的に制限しなければならないし、その結果、顧客は相当に不完全な情報に基づいてテクノロジーの評価を行わなければならなくなる。

制限するラインのさじ加減が非常に難しそう。境界線が重要なんだろうな。
そこで、間に入るイノベーション仲介企業の存在が重要になると著者は主張している。

イノベーション仲介企業

  • イノセンティブ

報奨金を出して、社外にアイデアを募る。登録した人と守秘義務契約をかわして、
どういう課題があるのかなどを詳しく説明するらしい。主に化学分野。
企業のR&Dリスクの外部化を推進する米イノセンティブ
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/eigyo/rensai/cocre.cfm?i=20060306e1000e1&p=2
◎チバとノバルテイスが参加 イノセンティブのフォーラム
http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/M000010/200506070594/_prw_open.html

  • ナインシグマ

電子メールのリストを活用して、提携企業に提案依頼書を送る。
返信率を向上させるために、返信される時のデータが分析される。
ナインシグマ・ジャパン NineSigma Japan
http://www.ninesigma.co.jp/

  • ビッグ・アイデア・グループ

玩具、ガーデニング業界の仲介企業。
トイザらスと交渉して、個人発明家や小規模企業が送ってきた発明をすべて
転送してもらう。また、発明家を地元のホテルや会議施設に招待し、
アイデアを紹介させ、同社が準備したパネルにより審査を行う。
多くは製品化にほど遠かったが、ふるい分けを行い、業界の知識を活用して
アイデアを磨き上げ、企業や小売店にみせる。透明性が高いやり方で、利益を分け合う。
Big Idea Group: Home Page
http://www.bigideagroup.net/

  • イノベーション・エクスチェンジ(IXC)

IXCの社員がメンバー企業内で事業開発、研究、商用化のチームとして働く役割を担う。
それから、他のメンバー企業で働くIXC社員と意見交換をして、協業の機会を探す。
IXCの社員とは機密保持契約が結ばれているから、探り合いに時間をとられることなく
スピーディーに適切なパートナー企業を見つけることができる。
Home - IXC
http://www.ixc.com.au/home.html

  • 上海シリコン知的財産権取引センター

中国企業が適切に知的財産を活用できるように中国政府がサポートする。
収益源は、メンバー企業の会費、斡旋を望む権利者から徴収する料金。
この2つがメインだが、取引が行われる際の仲介料が今後増えるかも。
SSIPEX--#1 Silicon IP Exchange in China
http://www.ssipex.com/index.jsp?Siplanguage=english

  • オーシャン・トモ

「投資家が、ボーイング社の株式に投資するのではなく、そのイノベーションに対して直接投資できるとしたらどうだろうか。まもなく、年金基金は知的財産を投資分類の一つとして扱うようになるだろう。」
「特許権を集約することはリスクを削減するだけでなく、価値の増大にも結びつく。このような特性を持つ資産は特許権だけだ。」
OCEAN TOMO社 社長兼 CEO ジェイムズ・E・マラカウスキー氏のコメント / IP NEXT
http://www.ipnext.jp/practical/iten/coment.html

知的財産権活用のビジネスモデル

それから、仲介企業とは別にいくつかビジネスモデルの例が挙げられている。

CDMA技術で有名な会社。
クアルコムの野望 - technophobia
http://d.hatena.ne.jp/pho/20061011/1160581882

  • UTEKコーポレーション

大学発祥の有望なテクノロジーの商用化を行う新会社設立を目的とした企業。
技術移転が終わった後も長期間にわたりベンチャー企業の株主としての地位を維持する。
UTEK: Open Innovation
http://www.utekcorp.com/

「企業が自社の発明から利益を上げることを支援したかった。より多くの発明を行うにはどうしたらよいのか。発明がより多くの利益をもたらすようにする方法を見つけることだ。今のところ、ほとんどの企業は自社の発明を過小評価し、自社製品の原材料としてしかみなしていない」
「インベンション・セッションは音楽のジャム・セッションのようなものだ。ソロ奏者に相当する人物が、ある材料の特性を活用してどのように有効な機能を提供できるかに関する自分のアイデアを他者に説明する。しかし、そのソロが終了するや否や部屋の中の他者がそのアイデアにリフをかぶせてくる。つまり、自分のアイデアを組み合わせたり、アイデアの基盤に疑問を呈したり、全く想定されていないような別の環境ではどのように機能するか等を尋ねたりするのである。」

  • ミアボルドはときたま話しの流れを止めて、最後に出たアイデアを書き留めたり、議論のまとめをしなければならない。
  • ミアボルドはマイクロソフトの元CTOであり、膨大な個人資産を持つ成功したビジネスマンだ。また、多くのことに関心を持つ学識者であり、物理、ライフサイエンス、コンピュータサイエンス、写真等の多様な知的分野についても造旨が深い。

大物発明家と手を組む「シリコンバレーで最も恐れられる男」:スペシャルレポート - CNET Japan
http://japan.cnet.com/special/story/0,2000056049,20104248,00.htm
IT関連特許を買い漁るマイクロソフト元CTO--真のねらいは霧の中:ニュース - CNET Japan
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20090403,00.htm

オープンソースのビジネスモデル

あと、大企業がオープンソースを熱心にやる理由が
これまでよくわかってなかったけど、この説明に納得した。

コーリーはIBM社内におけるリナックスの新しいビジネスモデルの論理を次のように解説している。
長い間、商業的に有効なオペレーティング・システムを作成し、維持していくには5億ドルはかかると考えてきた。今日、我々は毎年約一億ドルをリナックスの開発に費やしている。そのうち約5000万ドルはリナックスの信頼性向上のための基本的改善に費やされている。残りの5000万ドルはIBMが必要とする機能、たとえば特定のハードウェアやソフトウェアと接続するためのドライバー・ソフトウェアなどの開発に使う。

有効なオペレーティング・システムを開発するために必要だった5億ドルに相当する金額が(特定ニーズ部分を除き基礎ニーズ部分のみを考慮した場合)今もリナックス開発にかかっている。そこには、我々は1億ドルしか払っていない。財務面に限ってみても、これが我々に有利なビジネスであることが理解できる。

コストを下げることも、非常にインパクト大きいな。

全体的な感想

オープン・イノベーションというのが何なのかなんとなくわかってきた。
今の業務に非常に関わるところなので、将来のことをいろいろと考えてしまった。

そもそも自社内に研究開発部門が必要なのかという疑問が生じるのは当然だろう。この質問に答えるのに最適な学術論文がいくつか存在するが、基本的な答えはとても単純だ。自社内で優秀な研究要員を抱えていなければ、社外アイデアの活用の是非の判断を行うことができないと言うことだ。すべての優秀な人が自社にいるわけではないが、社外のテクノロジーを識別し、価値を認識し、活用することができる優秀な人を社内に擁しておくことは依然として必要だ。

自分が目指すべきところは、このあたりじゃないかと何となく思う。
作るだけがすべてじゃなくて、既存のものを組み合わせることも大事だし、
よく物事が見えていて、ちゃんと価値を見いだせることも大切。


いろんなバックグラウンドを持つ人が集まって、わーわーブレストやって
なんか面白いことができたらいいな、ということはもう5年くらい前から思ってる。
そのときに自分がなんの専門家で、どんな風に貢献できるのか考えていた。
IDEOのブレスト楽しそうだなってのは前から思ってたけど、ここで紹介した
イノベーション・エクスチェンジみたいにどこかの会社に入り込んで
一緒に仕事するのも楽しそうだし、インテレクチュアル・ベンチャーズ
インベンション・セッションもわくわくしてくる。
ビッグ・アイデア・グループみたいにアイデアを磨き上げるのも楽しそうだ。
結局のところ、自分が目指すのは特許のスペシャリストなんだと思う。
だから、どうやって特許を取るか、それをどう活用するかということで
アイデアを出すという方向で、自分として貢献する必要があるんだろう。
でもそこに限定される必要はまったくなくて、いろいろな分野で口をはさんで
いくべきだと思う。相手に対するリスペクトがあれば、大丈夫な気がする。
価値観、視点が違うだけで、いろいろと面白いことが起きると思うし、
起こしていきたいとも思う。貪欲に継続していく必要はあるけれど。


まず必要なのは、枠を取り払うこと。
国境だとか分野だとか言語だとか、そんなの全部取り払っちゃえばいい。
次に必要なのは、課題を明確にすること。
何がやりたいかわからないと何もできない。課題ができれば、後は解決するだけ。
最後に、行動すること。
いつも書いてるか。待っていても誰も何もしてくれない。


結局何が言いたいんだかよくわかんない文章になってしまったが、
これは、非常に参考になる素晴らしい本だと思う。

オープンビジネスモデル 知財競争時代のイノベーション (Harvard Business School Press)
オープンビジネスモデル 知財競争時代のイノベーション (Harvard Business School Press)ヘンリー・チェスブロウ Henry Chesbrough 諏訪 暁彦

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