後巷説百物語

懲りずに小説の感想を書こう。アウトプットしないと消化不良になるし。

後巷説百物語 (角川文庫 き 26-4)
後巷説百物語 (角川文庫 き 26-4)京極 夏彦

おすすめ平均
stars後世に語る仕掛け
stars不覚にもラストで涙をこぼしてしまった。
starsシリーズ第三弾。
stars切なさが残る作品でした
starsちょっと懲りすぎでは

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京極堂シリーズは、京極堂が謎に揺さぶりをかけて解く感じだけど、
この又市(巷説)シリーズは、謎を作り上げて、ターゲットを嵌める。
普通にストーリーとしても楽しめるんだけど、それを書くとネタばらしに
なってしまうので、やや別のアプローチで感想を書いてみよう。

  • 天のことは天に、地のことは地に。人は天地を動かせませぬ。しかし人のことは別でしょう。人の理は人にある。
  • 私達が当たり前だと思っておることも、実は恐ろしく非常識なことなのやもしれません。ならば信じている足許が壊れてしまえば―惚けるしかなくなってしまうのではないのですか。

自分の信じている足許ってなんだろう。一つじゃない気がする。

小股潜りは最小限の仕掛けしかしていない。

このコストパフォーマンスの良さは、見習いたい。

「事件から妖物を差っ引いてみたのです。」

「抱えている問題」から「自分の常識」を差っ引いてみると
いろいろ見えてくるのかもしれない。今別にそんなに抱えてないけど。

道を通せば角が立つ。
倫を外せば深みに嵌まる。
彼誰誰彼丑三刻に、そっと通るは裏の経。
所詮浮き世は夢幻と、見切る憂き世の狂言芝居。
身過ぎ世過ぎで片をばつけて、残るは巷の怪しい噂―。

このフレーズはいつも出てくる。
さくっと説明できるキャッチフレーズってのはいいと思う。

ええ、元々の悪人なんていやしませんよ。そういう場合、殺してしまうのは大抵行き過ぎなのです。何かを信じる余りに、行き過ぎてしまうのです。でも大義名分があっても人殺しは人殺しですからねえ。

悪気があるかないかってのは、あんまり関係ないと改めて思った。
結果が大事で、起きてしまったことに責任をとる姿勢が大事かも。

紙切れ一枚、口先三寸で、人の一生なんてものは大きく変わってしまうものなのです。又市さんのする小股潜りの仕事と申しますのはね、それを意図的に行う仕事な訳ですよ。ですから、覚悟も要るし責任も要る。軽はずみなひと言でも、考えなしの妄動でも、人は簡単に死にますし、生きますよ。又市さんはそれを善く知っていた。私なんぞはね、どうもその辺りが軽率で御座いましたけれどもね。
ですからね、又市さんにしてみれば、そう、関わったことでその人が不幸になってしまったならば、その仕事は失敗なのですよ。彼方立てれば此方が立たず、八方塞がりの状況を、双方立てて恙なく、八方丸く収めるのが―小股潜りの信条で御座いますから。

影響というものを、あんまり軽く考えたらいけないな。
想像力の欠如が一番いけないんだろう。なかなか難しい。

「日日、俺達は当たり前の中で生きている。だからその当たり前が当たり前でなくなると怖くなるのだ。善いか矢作。いや、不思議巡査殿。不思議というのはな、要するに判らないことだろう。」
判れば不思議ではないと剣之進は答える。
「そうだよ。いいか、なら世の中に不思議なんぞない。判らないことがあるだけだ。世の不思議の多くは、単に俺達の知らないことだ。」

自分が何も知らないと認める。現象がどうのこうのではなく、自分の問題。
主観的なことを、あたかも客観的なことと見なしてはいけない。

ええ、決して面と向かって怪異と向き合おうなんて、そんな人はいませんよ。
精精が覗き見で御座いましょう。一寸見て、厭ならすぐに止す。はい。逃げ場あっての怖いもの見たさなので御座います。逃げ場なしじゃあ荷が重い。触らぬ神に祟りなしです。

逃げ場をなくしてしまうと、いろいろ無理が出てくるのかもしれない。
逃げ場という余裕が、潤滑油として機能していた場所があったんだろう。
今、その余裕というものがあるんだかないんだかよくわかんない。

でもねえ。そう、又市さんがね、その昔、こんなことを申しておりました。
この世はね、悲しいんだ、辛いんだとね。
だから人は、自分を騙し、世間を騙して、ようやっと生きているんだと。
つまりこの世は嘘ッ八。その嘘を真と信じ込むなら、そりゃいずれ破綻する。
かといって、嘘を嘘だとしてしまえばね、悲しくて辛くッて生きて行けない。
ええ。だからこそ―嘘をね、嘘と承知で信じ込むしか健やかに生きる術はないんだと、又市さんはそう言っていましたよ。煙に巻かれて霞に眩まされてね、それでもいい夢を見る、これは夢だと知り乍ら、知ってい乍ら信じ込む、夢の中で生きる―。
だから、お化けは嘘だけれども、居るのです。
はい。
ものごとは、かたることで物語になるので御座いますよ。

割り切ることって、嘘を嘘だと、白黒はっきり決めてしまうことだと思う。
でもグレーのままでうまくまわっているのなら、グレーのままでいいと思う。
何かをはっきりしてしまうと、悲しむ人が出てきてしまうんだから。
自分がやりたいことってなんなんだろう。よくわからないけど、悲しい気がする。


興味を持った人は、第一作目から読んだ方が楽しめると思う。

巷説百物語 (角川文庫)
巷説百物語 (角川文庫)京極 夏彦

おすすめ平均
stars人の心に妖しぞ棲む
stars面白い!だが……。
stars御行の又市再登場
stars京極堂は出てきません
stars妖怪紀行

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