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謎の独立国家 ソマリランド 後編

前編に引き続き後編の紹介。

海賊の取り締まりもやれるわけがない。なにしろ、プントランド政府軍というのは、国連軍とか多国籍軍みたいなものだ。ソマリランドとかイスラム過激派といった大きな敵なら共同で出兵するが、オスマン・マハムード分分家の海賊がどこかの船を拿捕したとき、同じ氏族の部隊は出動するはずはないし、他の氏族の部隊だって、わざわざ氏族間の対立を煽るような行為をとるわけがない。「内政干渉」だし、彼らの氏族にも海賊はいるのだ。

プントランド政府あるいは軍が直接海賊に関与しているというのも、腐敗とか汚職とは性質がちがう。要するに、オスマン・マハムード分分家の海賊が何かやったら、同じオスマン・マハムード分分家の長老や政治家や高官や軍人がその交渉に乗り出して、身代金の分け前や必要経費をもらうというだけの話なのだ。

海賊との交渉に対する報償や身代金を考えたことはなかったが、当然こういう費用もかかるわけだ。

彼ら四人の氏族はバラバラだった。「チームを作るとき、わざとちがう氏族の人間にする」とのことだ。同じ氏族では職権乱用が起こりやすくなるからそれを防ぐという意味か、あるいは、いろんな氏族を混ぜておけば、いろんな相手に対応しやすいということか。おそらく両方だろう。

ガードマンを雇うときもいろいろと工夫しているようだ。

プントランドに入ってから、冗談ではなく、カネに羽根が生えて飛んでいくようだ。

車のチャーター代、兵士の日当、コーベと情報省のスレイマンの日当、スタッフ全員の宿泊費と食費、モガディショの飛行機代、それから私に便宜を図ってくれる種々雑多な人への謝礼、そしてカート宴会の代金……。

取材する側のリアルな話も非常に面白い。

ソマリの海賊はびっくりすることに、基本的には情報もなし、GPSのような機械もなく、ただあてずっぽうに海に出るという。沖合で三、四日波に揺られながら獲物を待つ。このときはカートを噛みつづけ一睡もしない。そして、目出度く船を発見すればアタックし、ダメなら、また港に戻る。

実際に海賊を雇うとしたらという話が非常に面白い。

「あとは通訳代だな」コーベは言った。

「通訳?何の?」

「英語のだよ。人質や船のオーナーと身代金の交渉しなきゃいけないだろ?海賊は英語ができないからね」

そうか。考えて見れば、通訳はいるよな。でも誰に頼むんだ?

「ちゃんと海賊専門の通訳がいるんだ」とコーベ。「さっき海賊に訊いたら、身代金の八パーセントが相場だって」

海賊専門の通訳というのが面白い。

「タカノ、いいか、身代金の額は積み荷の種類によるんだ。人の数とか、オーナーの国籍なんか関係ない」

「ベストは石油だ。で、最悪なのは洋服とか食器とか日用品だな。こんな積み荷の船を襲っても全くカネにならない」

本当にビジネスライクで非常に面白い。

信じられないことに、町は栄えに栄えていた。建物はそこら中、銃弾の跡だらけで、砲弾により崩壊しているものも珍しくなかったが、道端にはオレンジやマンゴー、サモサなどの露店が出ているし、通行人の数も多く、荷物を満載したトラックや荷馬車が行き交い、活気に満ちている。

これは全然知らなかった。

あまりに意外だったのでついこの町の繁栄っぷりを強調してしまったが、一方で、「無法都市」の異名も決して伊達ではなかった。

なにしろ、肩から自動小銃を下げた人がそこら中にいる。あまりに普通に見かけるので、だんだん「現地で流行っているユニークな肩掛け鞄」みたいに見えてきたくらいだ。

兵士を満載したピックアップトラックが通過するのもしょっちゅうだ。中でも機関銃やロケット・ランチャーを備え付けた武装トラック「テクニカル」の威圧感はすごい。

こんな中で働く、テレビ局のハムディが凄い。

彼女はアル・シャバーブ支配下の場所から毎日、暫定政権エリアに出勤し、戦闘やテロを取材してVTRを作り、自分も顔を出してニュースを読み、それが全部終わると、夜遅く乗り合いバスに乗って、また適地に戻っていくのだ。アル・シャバーブは女性が外で働くことを否定している。ましてや、顔を出してテレビに出ることなどイスラム的に許されないと思っていることだろう。バレたら一体どうなってしまうかわからない。

なかなか面白い取引をしている。 

後でわかったことだが、「テレビに出演させてあげるから、私たちの取材に同行して欲しい」とハムディは言ったらしい。モガディショの政治家あるいは軍人も、知名度を上げるために、みんなテレビに出たがっている。つまり、バーターなのだ。

それからこの話も面白かった。 

どのウォーロード(武将)も携帯と送金の会社は決して攻撃することがなかったという。なぜなら、彼らも携帯と送金会社が必要だからだ。カネと携帯なしでは戦争も略奪もできない。

 何が必要なのかということがよくわかる。

このように電話は無政府の影響を一切受けていない。というより、政府の規制が何もなく、各会社が純粋に競争しているため、料金の安さもサービスの質もアフリカで一、二を争うと言われている。

・・・

南部ソマリアは無政府状態だとか、内戦でめちゃくちゃになっているとか、そういうことばかりが報道されるが、反面、人々は政府なしでけっこうちゃんと暮らしを営んでいるのだ。

 国がこんな状態でも案外なんとかなるようだ。

一番強烈だったのは、背中一面が真っ赤に焼けただれた子どもを抱いた若い母親が嬉しそうに微笑んでいる写真だった。

「この子は近くで爆弾が炸裂して、大やけどを負ったらしいんです。ぼくが見ても『これ、ちょっとヤバいんとちゃう?』って思ったんだけど、にこにこしてるんですよねえ」と瀧野さんは言った。

貧しい国の人が幸せそうだと寄付が集まらないけど、現実には嬉しそうに微笑んでいるというのはなんかわかる気がする。

トラブルを起こせば起こすだけ、カネが外から送られてくる。誰も真剣にトラブルを止めようと思うはずがない。プントランドが海賊を基幹産業としているのと同じで、モガディショはトラブル全般が基幹産業なのである。

 なんか救いようがない話だな。

なにしろ非ソマリ・ニュース、ドラマ、アニメ、映画などの番組はすべて他から無断で借りてきたものである。アルジャジーラやBBCの映像、アニメ「トム&ジェリー」、トルコの恋愛ドラマ、果てはユーチューブからひっぱってきた日本のプロレスまで、「これはいい!」と思ったものは自由に取り入れるという度量の大きさを見せている。

「うちのテレビは国際的なジャーナリストの連盟や著作権の組織に何も加盟していないから問題ないんだ」とワイヤッブは笑っている。

 これはこれで面白い。好き勝手にのびのびやっていてすごくいい。

ソマリランドを熱烈に支持するワイヤッブらハルゲイサ本局の人たち、ソマリランドなど絶対に認めずここがソマリアだと思っている剛腕姫ハムディたち、そして、そもそも旧ソマリアがどうと全く知ったことじゃないと思っているジブチ国籍のソマリ人スタッフ

全く思想信条のちがった人たちが、いかにして他局より面白くていいニュースを作るか熱く語り合っている。それは主人と客がソマリランド支持と不支持に正面から対立しているのに、和やかにくつろいでいる茶屋の風景とも重なる。

私はソマリランドを支持している。でもこういう風景も好きだ。国境なき遊牧民ソマリ人らしいし、世界のどの民族、どの文化のレベルで見ても「健全」だ。

この本を読むまでソマリランドソマリアもよくイメージできなかったが、実際に行っていろんな話を聞いてきた人が詳しく書いているので、非常にわかりやすかった。氏族制度をベースに、海賊やソマリランドの仕組みを読み解く。ありとあらゆることが繋がっていて非常に面白い。

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド