答え合わせとアーカイブ

長年気になっていたキトラ古墳高松塚古墳に行ってきた。教科書やニュースで見ていたものを、現地で見ることの楽しさは何物にも変え難いものがある。こういう答え合わせをやりたいから旅をしていると言っても過言ではない。別に何かすごいものである必要はなくて、現地で情報が付加されて解像度が上がるだけで十分楽しい。旅先で美味しいお酒を飲んだり、現地の食べ物を食べたりするのも好きだけど、それは二の次で、「名前だけ聞いたことあるアレ」を「現地で見たことあるアレ」にしていくプロセスをこれまでずっとやってきたし、今後もずっとやっていくのだろう。

まさに教科書で見たアレである(レプリカだけど)。

キトラ古墳の方は外に乾拓板があった。乾拓ってあんまり聞き慣れなかったけど、要は魚拓みたいなやつだなと理解した。

最も興味深かったのは、いかにして壁画を残すのかというところ。

20年前にフランスのラスコーの壁画を見に行ったとき、実際に入ったのは隣に作られたラスコーIIというレプリカだった。実際の壁画のところに人間が入ると、光も入るし湿気もあるだろうし保存環境としてよくないということだろう。

ここでもまずはファイバースコープとかを使って、壁画をなるべく元の状態に近い状態で維持することを優先している。しかし、高松塚古墳の方は地震で石室に多少隙間ができて、ムカデが入り込んで、その死骸からカビが繁殖するような状態になっていたらしい。そこで一旦石室を解体し、壁画を剥がして別の場所で3Dパズルのように組み立てて、クリーニングして保存するというアプローチになったそうである。

人の手が入らないことでうまく保存されるものもあれば、人の手が入ることにより保存されるものもある。長期的な視点で未来に物を残していくアーカイブについて理解を深められてよかった。自分が時を経て答え合わせができるのも、こうやってちゃんと残しておいてくれる人がいるおかげである。

メイカーイベントとステークホルダーコミュニケーション

先週「メイカーズながおかまつり」に行き、今週は「Kariya Micro Maker Faire 2024」に来ているのだが、これは今やっている仕事でいうところのステークホルダーコミュニケーションに他ならない気がした。

昨今ステークホルダー(利害関係者)というのは、株主だけでなく、顧客やサプライヤーや地域コミュニティも含めたものすごく広い意味になっていて、そこでの認識のずれや理解を得られないことにより新しい事業が進まなくなってしまうことが少なくない。

これらは技術と法律と広報の重なり合ったパブリックリレーションズ領域の問題であり、明確な答えがあるものではない。単に良い製品を作ればいいわけではないし、法令違反していなければ済む問題でもなく、単に広く宣伝すればよいものでもない。新たな取り組みが社内外のステークホルダーに受け入れられることが不可欠である。

このような誰も法律やガイドラインを用意してくれないけれど、何らかの対応や説明を準備したり、何らかの基準を作ったりしないといけないような、答えのない領域の課題を整理しながら、新規事業を並走支援するのが最近のお仕事である。細かいデータフローの話になることもあれば、基本的人権みたいな話が出てくることもある。

日本の大きな会社の多くはちゃんとしてるので、後ろめたいことをやってないならちゃんと目的や機能を説明すれば全然問題ないですよということが多いのだが、メイカーイベントというのは、企業や個人が自分で作った製品を自分の言葉で説明をする素晴らしくよい機会であると今回改めて感じた。

往々にして、間に人が入るとろくなことがないわけで、手を動かしている人がそれに関心がある人と直接コミュニケーションできる場を設けることが近道だろう。オープンにして中身を知らせる機会・接点を数多く設けていくことが、相互理解につながるし、ステークホルダーコミュニケーションにつながる。メイカーイベントに出展する企業の方々は、ぜひこのような活動が新規事業の推進に不可欠なパブリックリレーションズの一環であるとして、社内で「官軍」になってもらいたいと個人的に思う。

バーレーワイン

これだけ色々クラフトビールを飲んでいると、どういうのが好きですかと尋ねられることが多い。単純に比較できないしその日の気分によるが、一つだけ思い入れの強いものがあった。2015年にシンガポールで作ったバーレーワインである。ビールなのだが大麦のワインというだけあって、ワイングラスによく合うのである。とてもいい色していて、濃厚で甘いこのビールをよくわからずに作って飲んで衝撃を受けたのを覚えている。

それ以来、クラフトビールの店に行くときはいつもメニューにバーレーワインがないか無意識のうちに探している。それが先日名古屋の店に行ったらあった。

Y.MARKET BREWING - 名古屋で初めてのクラフトビール醸造所

 

この店の「"とりあえず"とは言わせない」という言葉は一度でも自分でお酒を作ったことがあれば非常に共感するところかと思う。この店のよふかしQueenというのが紛れもなくバーレーワインだった。

YOFUKASHI Queen - Y.MARKET BREWING

そういえばこんな味だったと記憶が呼び覚まされてとても良い体験だった。

クラフトビール屋ではカウンターに座ることが多く、バーレーワインとか作らないんですかとかたまに尋ねたりするわけだが、度数が高いビールというのは限られたタップの数と客層との兼ね合いもあってなかなか難しいらしい。このビールを置いている貴重な店を見つけたら、今後もまた頼むんだと思う。

そんなわけで、名古屋に行ったらY.MARKET BREWINGは行く価値があると思う。そして私が好きなビールはバーレーワインである。この日はアンバーエールとインペリアルスタウトも飲んだし、どちらも満足したけれど。

理学の徒

先日高知市内を歩いていたら寺田寅彦銅像があって、ここがゆかりの地であることを知った。「ねえ君 ふしぎだと思いませんか」というなかなか唐突な言葉が刻まれているのも興味深い。

 

物理学者であるだけでなく、非常に読みやすい随筆もたくさん残している人であり、著書はパブリックドメインなので青空文庫で読むことができる。

作家別作品リスト:寺田 寅彦

最近研究者的なものの考え方、アプローチを色々言語化する必要があり、こういう形で様々な言葉を残してくれる人はありがたいと思っていたところである。

また、これとは別に最近読んでいた本でも寺田寅彦(をモデルにした人物)が出てきた。

知りたいと思い、考えて考えて、そして知る。それが理学ですよ。この世界は謎に満ちていて、自然は自ずとその答えを識っている。理学の徒は、その答え合わせをしているようなものなのです。

長年自然科学の分野に慣れ親しんでいると当たり前すぎるのだが、この「答え合わせ」をしているという感覚は研究というものに取り組んだことがない人にはわかりにくいのかもしれない。

あの山山だって、好きこのんであの形になった訳ではない。ああなったなら、必ずそうなっただけの理由があった筈なんですなあ。坂道が出来上がったのにも、川が流れているのにも、必ず理はあるんですよ

この世界は、常にそうした手掛かりを示してくれている筈です。凡百処にヒントがある。ただ僕達はそれを読み取ることが出来ない、だから些細な謎でも見付けてしまったら、答えを知りたいと思う訳ですね。その答え合わせの積み重ねが理学であり、自然科学ですよ

このふしぎだと思うこと、答えを知りたいと思うことから、答え合わせを積み重ねて、ほんの少しだけ世界を知るという途方もない大自然の中で第一歩を踏み出すのがここでいう「理学の徒」なのだろう。

まあ、火を熾すことだって昔はできなかったのでしょうからね。今は当たり前でしょう。火打石も燐寸もある。でも何もなければ火だって簡単には熾せませんよね。電気も同じで、電気を発生させる装置を使う。だから、なんだか人工のもののように思えますが、別に魔法を使ってるわけではないんです。原理原則は何も変わっていない。自然の摂理の応用ではあります。

形から構造を類推し、確認をしてからその本質を見極める

最近「原理原則」みたいなところを考えているので、話がつながってきて個人的に面白く感じている。自然科学に限らず、研究に限らず、このような頭の使い方は様々な場面で必要になるように思う。そこで「ねえ君 ふしぎだと思いませんか」に戻ってくるのかもしれない。

生成AIにコンテキストをどう共有するのか

この本の残りの半分も読み終えたので感想をまとめておこう。

質問するのではなく対話をすべきである、ということでいくつも例が上がっている。コンテキストを対話形式で共有しながら、情報を整理していくのがスタンダードなんだろうと思う。新規事業開発のコンサルタントになってもらうとか、小説担当の編集者になってもらうとか、やりたいことやアウトプットしたいことが自分の中にあって、それを手助けしてくれるツールと考えるのが良さそう。上手いやり方だと思ったのは

議論はここまでにしましょう。これまで上がっている内容を整理してもらえますか?

と言って、最新の議論状況の整理してもらうところである。

「賛成」「反対」「アウフヘーベン」の3つの立場の人格を演じて、私とともに議論してください

と言って、別の立場の意見を整理するのも得意とするところなのだろう。コンテキストは与えるとして、それに基づいて色々な判断材料を出してもらうのが良さそうである。

対話を通じてコンテキストを共有する他に、プラグインを通じてコンテキストを共有する方法もあるらしい。Wolframを使って科学関連のデータベースを参照できることは知らなかった。一方で、食べログとかExpediaとかをプラグイン経由で使うのは現段階だとそこまでメリットあるのかなあという感じがした。

WebサイトへアクセスするのはBingプラグインを使う場合と、Link Readerというプラグインを使う場合があるらしい。良いプロンプトを作ってもらうためにPrompt Perfect、GPT for Sheets and DocsというTalarian社が作っているアドオンも紹介されている。この辺りはAPI Keyの入力が必要だが、可能性は広がりそう。一方で、Microsoft365のCopilotとかで実装されそうでもある。

トークン限界に達しそうな場合は、議論の途中で議論内容を要約してもらい、要約された情報を新しいスレッドに移植することが求められます。このようなアプローチをとることで、トークン限界を回避することができます。

こんな感じでテクニックを紹介してくれるのもありがたい。

学習のためのカリキュラムを作ってください

みたいな質問など、フリーダムに相談するのが良いのがわかる。

ChatGPTに問い合わせる際には、自身が考えている物事を適切な抽象度にする必要があります。例えば「牝牛ベッシーの体重は?」といった具体的な質問よりも、「一般的な牝牛の体重は?」といった抽象度の高い質問をすることで、より適切かつ詳細な情報を得ることができます

ChatGPTは抽象化された問題の解はよく知っていますが、個別具体の事例は全く知りません。そのため、あなたはChatGPTと協力し、問題を抽象化し、抽象化された世界での解を探し、そしてあなた自身が抱えている個別具体の問題に適合させる、という仕事をしなくてはならないのです。

プラグインなどを使ってコンテキストを共有することは可能だが、そもそも相談相手なのでそこが得意なように思う。与えた情報の整理やコメントをしてくれるだろうが、何か解を出してもらったり専門家のようにファクトチェックしてもらうものではない。論理的に考えて筋が通っているかとか、あくまでも与えられた情報と条件のもとで第一歩を踏み出す後押しをしてくれるサポーターという位置付けが良い気がした。

生成AIとどう付き合えばいいのか

内部的に使うにはあまり気にしなくてもいいけど、外向けに使うのであれば著作権とか色々面倒くさい話があって、今のところやれるだけ対策をしていざ訴訟になったらAdobeとかMicrosoftとか大企業に引き受けてもらえば良さそうというところに落ち着いている気がする(だから業務用では誰もChatGPTを使ってなくてAzure OpenAI Serviceが大人気だったり、Adobe Fireflyが注目されてるみたいな)。

それはそれとして、ChatGPTとか便利そうだけど実際のところしっくりこないところがあって、これはまだ使い慣れていないんだろうなあと感じているところである。そろそろちゃんと考えてみようと思って、今月出たばかりのこの本を買って、半分くらい読んだ。

著者のところてん氏は、この数年様々な怪文書を拝見していて、この人賢いし言語化が上手いなあと思っていたので、有象無象のChatGPT本の中でもこの本は間違いないだろうと思っている。

まずちょっとびっくりするのが「気分よく、今日という一日を始めたいなあ。」という雑な質問でも指示ですらないつぶやきをChatGPTに放り込んで反応を見ているところである。ここまでガッツリハードルを下げるところが素晴らしい。

検索してわかることはChatGPTに尋ねるなということかと思う。質問をするのではなく、相談をする相手であって、前提知識をちゃんと伝えて対話をすることが大事。

ChatGPTというのは、とても物知りで、忍耐強く、こちらに寄り添ってくれて、ちょっとポンコツなところがあるけれど、言葉を使う仕事に関してはめちゃくちゃ優秀で、けれど現実の肉体を持っていない、絶対に主体的な行動を取らない究極の指示待ち体質な−話し相手です。

この「話し相手」というのがポイントなのだろう。

GPT-3の時にはタスクの説明と例示を行います、最後に一行だけ目的とする言葉を書くというインターフェースだったという背景の解説もありがたい。ChatGPTの根本は「次の言葉を予測するAI」であって、何かを回答を出すものではないということがよくわかる。連想ゲームをしているだけなのかもしれない。ChatGPTがさらにポンコツになったら、言葉の上っ面だけ捉えてゴミみたいなダジャレを垂れ流す中年のおっさんみたいになるのかなあと想像して、それはちょっとという気分になった。

今後、ホワイトカラーの仕事はAIにどんどん取って代わられると思います。しかしAIが仕事を奪うのではないのです。AIを使いこなす人間が仕事を奪うのです。AIを脅威と感じるのではなく、AIの使い方を身につけた人間に脅威を感じてください。

これはよく言われる話だけど、全くその通りだと思う。エシカルデータのところは今の仕事のど真ん中のところなので割愛。

さて、本命の具体的な使い方であるがこのコツがわかりやすかった。

コツは、ChatGPTを「何も知らない新規の外注先」「入社したばかりの新入社員」だと考えてみることです。慣れ親しんだ同僚相手なら省略できるような様々な情報をこの人たちは持っておらず、あなたの常識は通用しません。

コンテキストを共有していない相手とのコミュニケーションと考えれば良さそう。

愚者は知識を問い、賢者は議論をする

これは何度も繰り返し意識すべきところかと思う。相談相手なので何度も対話しながら自分が答えにたどり着けば良いのであって、答えを出してもらうものではない。

ChatGPTを高く評価している人達は人達は何を行っているかというと、「知識の質問」ではなく「課題の相談」に使っているのです。ChatGPTのもつ高い演繹能力、高いアイディア提示能力、高い抽象化能力を元に、知的生産活動における議論のパートナーとして活用しているのです。ChatGPTを、正しい知識を返す専門家として利用するのではなく、自分専用で何時間でも粘り強く議論してくれるコンサルタントとして使うべきなのです。

具体的な使い方としては、質問をするのではなく質問をさせるとか、箇条書きから文章をリライトしてもらうとか、録音データの文章を整えてもらうとかに使うのが良さそう。

この度私は新卒研修を終えて、新しく法人営業部に配属されました。そこで使うための自己紹介文を用意したいです。自己紹介文を作るために必要な要素について、私に質問してください。

みたいな感じで質問をさせて、対話しながら完成させていく使い方が良さそうだ。いい感じにやっておいて、みたいな雑な丸投げを受け止めてくれる魔法のツールではなく、対話をしながらコンテキストを言語化して共有していくのが基本的な使い方なのだと思う。

多くの人が言及している言葉は学習データが多くうまく学習されるが、ほとんど言及されない個別事象の言葉は、学習データが少ないためうまく学習できない

抽象度の高い概念はうまく表現できるが、抽象度の低い個別具体の事例はうまく表現できない

対話やプラグインを通じて、適切な形でコンテキストを共有するという作業が不可欠ということはようやくわかってきた。残りの半分も読むのが楽しみである。

最近の仕事(技術が社会を変えていくのを見たい)

技術が社会を変えていくのを見たいし、そこに関わっていきたいというのは大学に入る前から考えていたと思う。基礎研究よりも応用寄りの部分に興味があったので工学系に進んだし、新しい技術が出てくるところを見たいと思ったから電気・ICT系の特許の仕事をやっていた。先進国よりも新興国の方がリープフロッグとかで面白い技術による社会の変化が見られるんじゃないかと思ったからシンガポールやインドに住むことにしたし、色々な社会を自分の目で見たいから色々な文化圏を旅行している。
 そして一昨年あたりから取り組んでいるのは、技術の社会実装の支援である。せっかく技術があるのに何かよくわからなくて不安だからとか社内でうまく説明できずに止まってしまうのは勿体無いわけで、そこをうまく整理し、うまく言語化や説明をすることで社会実装を推進させられたら良いと考えている。例えば個人情報とかプライバシーとかややこしいからやめておこうみたいにならないように、プライバシーガバナンス支援をよくやっている。詳細は同僚が書いた記事を参照されたい。
最近だとAIをビジネスに使う上での懸念も多いので、AIガバナンスやAI倫理の観点からどういう点に気を付けるべきかという話も増えてきてこんな記事を出したりしている。
また1月に実施したセミナーの動画を先ほど公開したのでそちらも参照されたい。
このセミナーではAIに対する人間の関与のところを担当したのだが、なぜ関与が必要なのか、そもそも人間がこれまでやってきてOKだったことをAIがやるとNGになるのはなぜなのか、大雑把にバイアスというけど具体的にどんなバイアスがどう関与するのか、みたいな割と突っ込んだ内容になっている。
こんな感じのことを弁護士と一緒にやっているけれども、法律の条文がどうのこうのという話はほとんどなくて、どちらかというと社会とか倫理とか明文化されていないルールについて議論してビジネスに落とし込んでいくことが多い。このようなデータの使い方はこういう権利を侵害するんじゃないかとか、そこでこういう手続きやこういう選択肢を用意すれば実施していいんじゃないかとか、どこに線を引いてそれはなぜなのかを言語化することにより、技術を使った新事業の推進に関する判断材料を提供したり、それを社内で検討できるような仕組みづくりを手伝ったりしている。