三国志は、演義の方だと60冊ある漫画は途中で挫折し、吉川英治文庫も1冊目で挫折した。でも漫画の蒼天航路はスルスルと最後まで読めた。そんなわけでこの本を手に取ってみた。どちらも正史に基づいているわけだが、多くのエピソードが重なっていて驚いた。出てくる人物が皆蒼天航路の絵で脳内再生される。ストーリーは普通に三国志なので、いくつか気になった所をピックアップしてみる。
「そんな遠い所へ、なにをしに行くのですか?交易ですか?」
と、曹操は訊いた。
「いえ」八珍伯は首を振った。—「この漢以外にも、国がたくさんあること、漢よりも広そうな国があることを知るためです」
・・中略・・
「孟徳さん、あなたにしかできないことがありそうに思います。そのことに役立つのではないでしょうか。……」
当時の中国から見たローマ帝国が今で言う所の何に相当するのかはよくわからないが、外の世界を知ることの大切さは現代にも通じるものがある。ありきたりのことだけど、やっぱり行ってみないとわからないことって多いし、与える影響は計り知れない。
三国の動乱初期の英雄たちは、ほとんど黄巾の乱平定に関わりをもっている。
曹操はこの年、三十歳であり、のちに数えきれないほどの戦場経験をもつことになった彼も、この潁川黄巾鎮圧が初陣だったのである。
これにはけっこう驚いた。30歳で初陣だったとは。何事も始めるのに遅すぎるってことはないと思わせてくれるのがいい。
「紙に書いたものは、筆と墨以上の力をもつのだ。それは霊力といってよい。あるいは、ときによると、魔力かもしれんな」
人を信じさせる何かがあるのかもしれない。
解県では塩の密売が半ば公認となっている。
そのかわり、一年に一人の犯人を出さねばならない。番があたるとは、そのことである。懲役二年と相場はきまっていて、つとめあげると、近在では尊敬される。表の舞台には出られないが、皆の恩人として、隠然たる力をふるうこともあった。
この本を読むまで知らなかったが、関羽の実家は塩の密売をする豪族みたいなとこで、引用部分のようなことが普通に行われていたそうだ。まさに御勤めご苦労様ですという感じ。役人サイドと密売人サイドの間でこういう落とし所に落ち着いたのかと思うとなかなか興味深い。
「それにしても」と八珍伯はもういちど店内を見渡して言った。—「人間、国事を語らなくなると、こんなにも元気がなくなるものか。嘆かわしいなぁ」
このエピソードも現代に通じるものがある。すぐに日本人はどうとか日本の景気がどうと語りたがる主語が大きい系のおっさんにはあまり近寄りたくないものであるが、そういう主語が大きい系のおっさんがいなくなると、活気がなくなってしまうのかもしれない。主語が大きい系は中身空っぽでつまんないと思っていたが、一応存在価値があるんだと思わせてくれる台詞である。
そんな感じで一通り楽しく読めた上下巻だった。