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「無料より優れたもの」を読んで

ケヴィン・ケリー著作選集 1』が面白くていろんなところでオススメしたくなっている。堺屋七左衛門氏の翻訳は一通り読んでいるので別に何か目新しい物があるわけではないのだが、形態が変わるとそれに対するスタンスが変わって、違った印象を与えるのだろう。ケヴィン・ケリーの文章は基本的に長いので、ブログだといつも割り込み作業が入ったり終盤では前半を忘れてしまったりするのだが、電子書籍で腰を据えて時折読み返したりしながら読むと、実に奥が深い。とりあえず『無料より優れたもの(Better than free)』の感想を書いておこう。

ネットワーク経済に関する私の研究によれば、無料でありうるものにお金を払うような無形の価値として、八つのカテゴリーがあると思われる。
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1. 即時性, 2. 個人化, 3. 解釈, 4. 信憑性, 5. アクセスしやすいこと, 6. 具体化, 7. 後援, 8. 見つけやすいこと

「無料より優れたもの」: 七左衛門のメモ帳

詳しくはリンク先を読んでいただきたいが、この8つの分類は実に的確だと思った。いくつかの例に対して、無料と有料のもので何が違うのかを考えてみた。

海賊版音楽ファイル vs iTunes music store(4,7,8)

ネット上で検索すれば無料で違法アップロードされた音楽ファイルが手に入るかもしれないのに、なぜ人はiTunes music storeで購入するのか。一つには「4.信憑性」が挙げられる。正規ルートで購入すればウイルスに感染する心配もなく、ファイルが壊れてるなんてこともない。次に「7.後援」があるだろう。ちゃんと作り手にお金が行くのならお金を払うって人が多数派なんだから(国によるけど)。最後は「8.見つけやすいこと」。ちょっとお金を払って、時間が節約できるなら払わない理由はない。

法律・オープンソースソフトウェア vs 専門家(2,3,4)

法律は誰でも読める状態にあるし、OSSのソースコードもまた然り。でもそれを活用する必要がある場面で専門家に依頼することが多いと思う。餅は餅屋ということだろう。専門家を利用するメリットとして「2.個人化」が挙げられる。個人が抱える問題に対応するようにカスタマイズしてくれるのは大きな違いだ。知識がなければ手に負えない内容を「3.解釈」してくれることも重要。そしてやはりここでも「4.信憑性」が大切な気がする。人は安心したいから。

OCW vs 大学(4,6)

OCWは非常に優れていて上記の8カテゴリの大半を備えている。しかし、「6.具体化」がまだない気がする。教材があって先生が教える動画があっても、試験とか宿題とかいう強制力がないとなかなか実際に勉強しないものだ。社会人から大学院生に戻った自分にはよくわかる。そして「4.信憑性」。終えた後の就職を考えたとき、オープンコースウェアで自習しましたってのと、どっかの大学のコースを修了しましたってのはやっぱりまだ違うと思う。

ペーパーバックス vs kindle用の本(1,5)

amazon.comとか見れば分かるけど電子書籍よりもペーパーバックスの方が安いことが多い。無料じゃないけど一応ここに含めることにする。日本の書籍の話はしてないし紙の本の好き嫌いの話もしていないので、そのあたりは割愛。ここで重要な違いとして「1.即時性」が挙げられる。kindle版なら在庫がないとか絶版だとか言われず、すぐにダウンロードできる。インドとアメリカからシンガポールに中古の本を郵送してもらおうとしたが、どちらも届かず返金扱いになったことを付け加えておこう。あと「アクセスしやすい」こと。kindleからでもipadからでもmacからでも同じ本にアクセスできて、シームレスに読み進めることができる。好みの媒体を選ぶことができるというのは、非常に大切なことだろう。

まとめ

タイトルには「優れたもの」とあるが、自分としてはまだどちらが優れているか結論を出せる段階にないと考えている。人は支払うお金と上記の差分を天秤にかけて、その差が払うお金に見合う物なのかを判断しているはずだ。だから有料の方が安泰だとかそんなことは全然なくて、その差を埋めた破壊的イノベーションが分野によっては既に来ていると思う。機械学習とかがそのあたりのキーになりそうだが、単にオーバースペックな選択肢しかないところならもっとシンプルな解もたくさんありそうだ。いずれにせよ、上の8つのカテゴリは今後5年〜10年を考える上で重要な指標になるような気がする。