オープンアクセス週間を締めくくるイベントに行ってきた。
セッション-1 「オープン・アクセスとは何か」
「Open Access “Friday & Night” 2009」セッションのスライドを公開 — オープンアクセス週間
スピーカー: 倉田 敬子(慶應義塾大学, 文学部 人文社会学科 図書館・情報学専攻 教授)
セッション-2「eScienceとしての材料研究リポジトリ“NIMS eSciDoc”の可能性」
スピーカー: 高久 雅生(独立行政法人物質・材料研究機構, 科学情報室 主任エンジニア)
セッション-3「オープン・アクセスとオープンコースウェア」
スピーカー: 山内 祐平(東京大学, 大学院 情報学環 准教授)
セッション-4「オープン・アクセスと著作権」
スピーカー: 野口 祐子(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン, 専務理事)
詳細なレポート
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20091024/1256419451
オープンアクセスと言っても、学術論文の公開に対して購読者ではなく著者が金銭的負担をするビジネスモデルのような狭義のものから、知識へのアクセスをオープンにするという広義なものまである。今回はどちらかといえば論文に限定せず、知識(実験データ、教材など)へのアクセスについての話だった。どのセッションも、自分がなんとなく興味を持っている分野について、第一線で活躍している人がわかりやすく話してくれるものだったので、非常に新鮮で面白かった。
ある情報が公開されていないことで、非常に困っている人とそうでもない人の二極化が起きているというのは、わかる気がする。そういう温度差がオープンアクセスを進める上で障害になっているのだろう。全てをオープンにすべきだとまでは言わないけど、技術的にオープンにする環境が整いつつあるので、オープンにしても差し支えない物をオープンにすることでハッピーになれる人がいるのであれば、その方向になっていけばいいなと思う。
セッション2では、具体的にどんな実験データを共有するのかという話が聞けて良かった。science commonsでデータの共有という言葉を見かけるが、正直あまりピンと来ていなかった。人工ダイヤモンドの画像に実験条件などの情報を付加したものを見せられるとどんなもんかわかる。分野によっていろいろなんだと思うけど、具体的な話が聞けて良かった。
セッション3ではオープンコースウェアの話。実際に東大で先生に協力してもらって授業を公開している人が、目指すところやコストなどの説明をしてくれた。ユタ州立大学ではコストがかかりすぎるということで、オープンコースウェアをやめたというのは知らなかった。アクセスされる側の負担で行われているが、sustainableにしていくには、そろそろ曲がり角なのかもしれない。なんだかんだ言っても東大の講義なので、もっと一般向きなTodai.tvと組み合わせてやっていくとのこと。
セッション4は、著作権の話。事実、データ、アイデアには著作権がないというのは、考えてみればわかるけど、あまり一般的ではなさそうだ。どれだけ入手困難であってもないものはない。クリエイティブコモンズは、標準化されたライセンスで、相互互換性が高まるというメリットがあるが、いくつか気に入らない条文があるものらしい。気に入らない条文をカスタマイズすると心理的バリアが下がって公開が促進されそうだが、互換性が急激に低下するので後続利用が困難という話が面白かった。ちなみにScience Commonsでは、データをCC0(著作権放棄)で共有するように提案しているみたい。どんなライセンスにするかで様々な議論があったけど、解釈に幅があるとすりあわせが困難極まりないので、結局放棄というところに落ちついたとのこと。共有と独占の間のどこを落とし所とするのかが今後も重要になってきそうな気がした。
質疑応答もなかなか面白かった。OCWに協力してくれるように先生に依頼するときに、よく使われるのが「学生を送り込む」らしい。事務方に言われたんじゃなくて、教え子に言われたらしょうがないかと言って協力してくれるそうだ。なかなかテクニカル。ちなみにオープンアクセスは、クオリティを担保するものではなく、それはまた別のお話とのこと。その辺りを明確に線引きしておくのは大切だと思った。天文学はオープンアクセスって話も面白かった。APIの公開とかもそうなんだろうけど、オープンにするというのは、たくさんの人に機会が与えられることであり、何が起こるのか予想できないのが最も面白い点だと、レッシグが言ってたそうだ。同感だ。そんなわけで、何が起こるのかが事前にわかってしまう程度ではつまらないのだ。予想外の展開がいろいろなところで起きるといい。その辺りに関わっていけるともっといい。
そして会合は、Night, SHINYAへと続いたけど、感想はこの辺りにしておこう。スピーカーの方々、主催者の方々、お疲れ様でした。来年はどうなっているんだか。