クアルコムの野望

482220898221世紀の挑戦者 クアルコムの野望
稲川 哲浩
日経BP社 2006-07

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きっかけとしては、雑誌かネットの記事でBREW4.0がどうのこうのというやつを読んだり、
mobile WiMaxではなく、IEEE802.20をクアルコムが提案とか、まあそういうのを読んだりして
クアルコムって一体なんなんだ、と気になっていた。そんなときに見つけたのがこの本。
実に面白かったしためになった。クアルコムについてよくわかったし、携帯電話についても
技術的な側面に関しては理解が深まった。コンテンツの方はさっぱりだけど。
内容は、CDMA、無線ブロードバンド、BREW、メディアフロー、会社の歴史
知財戦略、チップ製造工場、グローバル戦略、日本市場、インタビューいろいろ
という感じでかなり盛りだくさん。大学のときにOFDMAとかCDMAとか
情報伝送工学などの講義で聴いていたので、ある程度ついていくことができたが
そういうバックグラウンドがないとちょっときついかもしれない。


大雑把にこのクアルコムという会社がはじまった経緯としては、
MITにいたアーウィン・ジェイコブズ博士が、サンディエゴに移ってきて
軍関係の会社のコンサルティングをしてて、ビタビアルゴリズム(懐かしい)で有名な
ビタービ博士や、その後「インターネットの父」と呼ばれるようになる
レン・クラインロック博士などと一緒にリンカビットという会社を設立したことらしい。
リンカビットはいろいろと技術開発をしてたけど、合併してカルチャーが変わって
あまりうまくいかなくなったので、ジェイコブズ博士は、退社して何人かで
クアルコムを設立したそうだ。時間で分割して多重化するTDMAや
周波数で分割して多重化するFDMAが主流だったなかで、符号で分割して多重化する
CDMAにこだわって、せっせと研究を続けたらしい。
その結果第三世代携帯電話サービスの主要技術であるこのCDMA知的所有権
ほとんどクアルコムがおさえることになった。KDDIが採用するCDMA2000はもちろんのこと
docomoが採用するW-CDMAクアルコムがおさえていて、多額のライセンス料を
払わざるを得ない状況にあるわけだから、その影響力はすさまじい。
ABQという言葉があるくらいだ。Anything but Qualcommクアルコムじゃなければなんでもいい」


社員の6割が技術者で、自由にやらせるという伝統があるみたい。
自社にない技術は企業買収や戦略提携によって手に入れていくという基本方針がある。
ロイヤリティ収入を技術開発と買収に費やして世界の中央研究所を目指すと言ってるが
中身を1つ1つ見ていったらあながち冗談というわけでもなさそうだ。
日本のメディアに取り上げられている企業しか注目してなかったら
ずいぶんと取り残されてしまうだろうとなんとなく思った。
インフラの整備と端末の販売は、端末を買ってもらわないとインフラが整備できず、
インフラが整ってないと端末が買ってもらえない、という「鶏と卵」の関係になりがちだが、
そこでこの会社が取った戦略が興味深い。どっちも自ら開発と製造を始めたのである。
CDMAサービスを自分たちの手だけでも実現するというアピールだろう。


それからBREWについて。これはクアルコムが開発した携帯用のOS。
ローエンドでも使えるようにとにかく軽くしたそうだ。開発キットを提供し
課金システムを容易に利用できるようにしたらしい。
PCのOSのようにマルチタスクを追求せず、機敏な動作とトラブルをなくす
堅牢性を重視して、開発していて、EV-DO端末向けにつくられたものも
HSDPA/HSUPA端末にも利用できるようにするとのこと。
Javaと比較すると、マルチプラットフォームではなくクアルコムのMSMチップ上でしか
動作しないが、消費電力は少なく、アプリの起動も1秒である。
Javaは数十秒かかるそうだ。使ったことないから知らないけど。
通信プロトコルもHTTPだけじゃなくて、TCP/IP全てに対応しているので、
メール、スケジュール、インスタントメッセージなどにも対応するとのこと。
そういうのを読んでいると、BREW上でJavaを動かしてどうするんだよ、と思う。
スラッシュドット ジャパン | auがBREW上のJava実行環境をリリース
http://slashdot.jp/mobile/article.pl?sid=06/10/10/2247258&from=rss
審査と検証に時間がかかってアプリが少なくなるんだから仕方ないか。
それにしても、携帯でメッセンジャーが使えるんだからすごいと思う。
マイクロソフト、「Windows Live メッセンジャー」のBREW版を提供。 Narinari.com
http://www.narinari.com/Nd/2006096531.html


他にもCEOが忍者の姿で登場とかいろいろ書いてあるけど、紹介しきれない。
メディアフローとかワンチップでつくるとかIEEE802.20とか
目が離せない企業ではないかと思う。技術開発や企業戦略など
いろいろと応用ができそう。あとは携帯のコンテンツ方面をキャッチアップすればいいか。
個人的にユーザーとして携帯電話は嫌いなんだけど、こういう話は好き。


モバイル関連の本はウィルコム本以来だろうか。これもかなり面白かった。

4478312133逆転戦略 ウィルコム-「弱み」を「強み」に変える意志の経営
鈴木 貴博
ダイヤモンド社 2005-01-28

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