物理学者たちの20世紀

単に半額だったので買ったが、物理的にも内容的にも重量のある本だった。
物理学者たちの20世紀 ボーア、アインシュタイン、オッペンハイマーの思い出 (単行本(ソフトカバー))
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ここは信じられないようなところだ。ボーアが話をしに私の研究室に来る。窓の外を見ると、アインシュタインが助手を連れて家へ歩いていくのが見える。二部屋向こうにはディラックが座っている。下の階で座っているのはオッペンハイマー

という凄まじい環境で、様々な功績を残した素粒子物理学者であるだけでなく、アインシュタイン等の伝記でも知られる「歴史家でもある物理学者にして、物理学者でもある歴史家」のアブラハム・パイスの自伝。

  • オランダで助手をしていたときに、オランダがドイツに占領されて、隠れ家での生活を余儀なくされた戦時中の話
  • 戦後デンマークのボーアの元で研究し、その後プリンストンで研究した頃の話
  • 物理学から物理学史の研究へ転向した後の話

おおざっぱにこの3つの話から構成されており、その間で家族の話があったり、
旅行の話があったり、素粒子物理学の話があったりして、なかなか楽しめる。
ただ、今の自分にとってこの素粒子物理が難解でほとんど理解できないので、
勉強して出直してこようかと思う。まあ長期的な話だけど。
素粒子物理がわかればもっと楽しめそうだが、それ以外の部分も
単純にいろいろ経験した人物のストーリーとして非常に楽しめた。


700ページくらいあって、紹介しきれないので1つだけ。
1963年10月23日全米科学アカデミーの100周年を記念するシンポジウムで、J・F・ケネディ大統領がこのような演説をしたらしい。

あなた方がやる実験のいくつかは、すぐに成果を生まないかもしれません、でも、直ちに実験を始めてください。
昔、フランスの偉大な元帥リヨテが庭師に言った言葉が思い出されます。「あした、木を植えなさい。」すると庭師が言いました。「100年の間、実はなりませんが。」「それなら」とリヨテは庭師に言いました、「今日の午後、植えたまえ。」あなた方の仕事についても、私はまさにこのように思うのであります。

忘れかけていた基礎研究の性質を思い出させてくれた気がする。
こんなふうに長期的な視点で物事を考えられる大統領だったんだな。


長期間にわたって第一線で活躍していた物理学者が、当時のことを
具体的に生き生きと描写してくれたので非常にありがたい。
読んでいてわからない箇所が大量に出てくるけど、それはそれで
多面的に掘り下げて、次に進む貴重な機会とも言えるのである。
決して読みやすい本ではないけれど、出逢えてよかった本だと思った。