semester1終了

8月に講義が始まって、最初の一ヶ月はIntroduction to lawということでSingaporeやUKのcommon law全般について学んだ。でもいまいち話が聞き取れないし、出てくる単語がわからないものばかりだし、わかったところでロジックが入り組んでて複雑。週3回の一回3時間の講義なので出席している時間自体は短いけれど、なんかあっという間に過ぎてしまう。調べた用語がことごとく辞書に載ってなくて、法律の辞書を買った。これは非常に役立った。
http://itunes.apple.com/us/app/blacks-law-dictionary-9th/id312542731?mt=8
日本では英和辞書しか使ったことがなかったけど、こっちに来ると英英辞書しか使う気が起きない。翻訳するわけじゃなくて理解するだけなんだし、他人に英語で説明するときは英語のまま言い換えられた方が便利なので、日本語はいらない。
9月になると商標の講義が始まった。そして9月末にIntroduction to lawの試験があった。4択問題だけで記述式の問題はないけれど、試験範囲は多岐に渡る。10月に結果が出て、Pって書いてあった。(PassかFailしかないらしい。)
授業は火、木の夜と土の朝のみで、周りの人からはすごく暇そうに見えるみたい。クラスの半分以上が普通に仕事をしているシンガポール人なので、仕事をしながら通うのも不可能ではないようだ。(自分の場合は学生ビザなので、普段は週20時間までしか労働は許可されてないけれど。)わりと英語と聞き取れるようになって、辞書なしで大体講義もわかるようになったけど、まだいろいろと不安が残るので9月末から英語の語学学校に通うことにした。大学の系列の語学学校なので授業料は2割引。平日5日午前中。けっこう宿題も出た。これは本当に行って良かったと思う。いろんな国の人と知り合うことができたし、何より英語で話す自信がついた。この英語の授業は12月10日まで続いた。
10月は著作権の講義。日本で弁理士の予備校に行ったときは著作権なんてほとんどやってなかったけど、こちらでは特許、商標、著作権が三本柱という感じ。実用新案は存在してなくて、意匠は著作権のおまけ的な感じ。フェアユースという名前はよく聞いていたけれども、具体的にどういうものなのか知ることができてよかった。
11月の初めにIPOSというシンガポールの特許庁的なところに行って実務の講義を聞いたり、法律事務所から来た人の講義を聞いたりして、とりあえず講義は終了。残る試験は商標I、商標II、著作権(意匠も含む)の3つ。商標Iが11月中旬で、商標IIが11月下旬、著作権が12月上旬。商標Iはshort answer形式で15問1時間。商標IIと著作権はessay examで5問選択3時間45分。
商標Iは、商標の更新は何年毎って聞かれたら10yearsって書けよと先生が予告していたので、一問一行ずつ答える形式なんだろうなと思って勉強してた。ちなみに講義資料はすべてpowerpoint形式で配布される。reading guideなるものも配布される。で、実際に試験を受けてみたら、15ページの問題用紙兼解答用紙が配られた。問題は2、3行であと空いたスペースにひたすら書けというもの。あとで知ったのだが、商標Iは条文の記憶力を試すための試験らしい。だから持ち込みは不可。現場に行ったときに最低限の条文やら何やらは、何も見ないでもいえるようになるのが望ましいとか。全問手をつけたけど、ものによっては2、3行しか書けなかった。確かに10yearsって書く問題も出たけど、ほとんどが1ページの論述を必要としてた。
商標IIと著作権は条文とreading guideが提供される。A4サイズの紙1枚の持ち込みが許可されている。両面にぎっちり書き込んで試験に臨んだ。3時間45分があっという間に過ぎた。ペットボトルの水を持ち込んだが、存在自体忘れるほど没頭する感じ。10ページの解答冊子を5部渡され、選択した問題1問に対して1部使って解答する。10ページの冊子に1ページしか書けなかったりして、撃沈という感じだった。英語のwritingが弱いのかななんて思った。
結局3つ試験を落として、12月末に商標Iと商標II、1月3日に著作権の追試を受けることになった。追試には一つ約7000円の事務手数料がかかった。1500円くらい払えば、採点済み答案と各問題のbest answerが見られるよと教えてもらったので、essay examの2つを見せてもらうことにした。商標Iの答案開示はしてないそうだ。読んでみて思ったのは、みんな字が汚い。best answerの半分くらいは読むのが困難で断念しそうになりそうなくらい。それから、みんなたくさん書いてる。10ページをフルに使ってる人もいる。少なくとも自分の3倍くらいのスペースを埋めているのがわかった。ぎっちり詰めて書いていたけど、一行おきでいいのかとか、端的な表現じゃなくて周辺情報を入れてもうちょっと膨らませた方がいいのかとか、いろいろ知ることができて良かった。そして減点方式じゃなくて加点方式なのが採点を見てすぐわかった。必要なポイントを押さえているときはチェック、何言ってるんだこいつとなったときは?この2つしかなかった。そういえば講義のときに言っていたが、大切なのは最終的な答えじゃなくて、物事を様々な方向から見て深い議論を通じて、いかに最終的な答えにたどりつくかなのである。
legal padという試験の解答用紙に似た紙も買っていろいろ書いてみた。書くのはゲルインキじゃなくて水性ボールペンの方がいいという結論に達し、その場で文章を考えながら書くのは不可能という結論にも達した。大切なのは独自研究ではなくて、裁判官がどういうロジックによりどんな結論に達したかということである。そんなわけで裁判官の発言ばかりをひたすらA4の紙に書き込んだ。商標Iについても、だいたい問題は予想できたので、この問題が来たらこう書くみたいなのをひたすら書いた。この一ヶ月でけっこう追試の勉強をした。自分がいかに勉強不足だったかというのは、勉強すればするほどわかる。
当日は持ち込んだ紙に書いてある判例をひたすら解答用紙に書き写し、そのあとで数行その問題に対する当てはめ方を書いた。書き写し作業がメインならば自分でも時間内にそのくらいの長さの解答を書ける、というのは大きな進歩だと思う。ルールをわかっていなかったらできるものもできなくなってしまうというのがわかった。そして3つ目の追試が終わった。まだ追試の結果は来ていない。
追試を受けるというと、いろんな反応があった。さぼっていたのかと聞かれると返答に困る。毎回授業に出席して、ノートも取って、試験前に復習をしたんだから、そんなにさぼっていたわけじゃないと思う。でも他の人と比べて勉強時間、勉強の質が足りてないといわれれば返す言葉がない。追試の勉強を終えた今から見ると、内容を全然理解してなかったから落ちて良かったんじゃないかという気もする。卒業しましたけど何もできませんでは困るのだから。英語力の問題かと最初思ったが、たぶんそれは違う。強いて言うならば、試験の暗黙のルールみたいなものを理解していなかったからかもしれない。最初解答の流れみたいなのがいまいちピンと来なかったけど、今ならこの論点とこの論点を含めればいいのかというくらいは、問題を見てすぐにわかる。必要なのは判例や条文による権威付けであり、裏付けのない独自の意見には何の価値もないことがわかった。時間もかかるし、裏付けがなければ点数にならない。「なぜならば」はどの問題でも常に心がけておく必要があると思った。
追試の結果はまだ受け取っていないので、どうなるかは全然わからない。3年以内にすべての科目で一定の水準をみたすべしとどっかに書いてあったが、来年これらの科目を受けるのは嫌だ。知的財産のコースと並行して英語のコースを受けてみて、けっこう大変だったけど後悔はしていない。自分には必要なプロセスだったんだから。セメスター2からアルバイトでもやろうかなんて考えたこともあったけど、とりあえずやめることにする。人と会って中身のある話をすることと、本格的に勉強することを両立するのは、自分には不可能だから。そういえば工学部の大学院生のときも大学の外で出歩き回っていたときは、全然実験なんてできなかったな。ネットワークは大切なのかもしれないけど、今の自分にはこれだけは世界の誰にも負けないというものがないし、この国で即効性のある能力もないので、最初の一年くらいは集中して勉強しようかと思う。減ってきたけどそのくらいの蓄えはあるんだから。(仕事を選ばずに)働こうと思えば働けるんだろうけど、それは無意味だろう。せっかくお金で時間を買ったのに、その時間でお金を買ってしまうなんてばかばかしい。来年の今頃はそんなことを言う余裕がなくなっているかもしれないけど、余裕があるうちは余裕を持とう。
勉強というのは不思議なもので、わかればわかるほど面白くなる。いまようやく面白いと思える時期に来た。多少はコツがわかったのかもしれない。自分が見ている世界というのは、他人には見えていないんだから、結局自分で道を切り開いていくしかないと思う。周りに何を言われようと、自分のペースで自分なりにやっていくのが自分にあっている気がした。不器用なのかもしれないけど、そこに戻ってきた。
今こういう道を選んでいることを後悔したことはない。日本にいたってどうせ貯金が800万から1000万になるだけで、面白くも何ともない。この数ヶ月間に吸収したものと比べたら微々たるものだろう。Intellectual Property asset managementからstructured financeに近い雰囲気を感じることはなかっただろうし、外に出たから見えてくるものは多い。あと今月6日7日にIPの大きなイベントがあるので、それも楽しみだ。
http://www.globalforumip.com/
反知的独占や野口さんの著作権本を読んでいて感じたけど、今は非常に面白い時代なんだな。やりがいがありそうな問題が山積みだし、使えるツールもいろいろ増えてきた。何の縁か知らないけど今こうして選んでいる知的財産というやつは、つぶすにしても拡大するにしても破壊力があって実に魅力的なおもちゃだ。