知的財産の取引が活発化するという主張の背景

From Ideas to Assetsという本の第2部Exploiting Intellectual propertyの第5章Managing IP Financial Assets/principles from the securities marketsという部分が面白そうなのでじっくり読んでみた。Alexander K. Arrowという人が書いている。
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an anachronistic legal mind-set, in which managers view their patents as static legal documents, locked up and brought out for use only in the event of litigation.

特許を訴訟にだけ使える静的な法律文書として見る、時代遅れな法律マインドは良くないと主張する。知的財産はこれまで使えなかったツールによりマネタイズすることができるのだと。そこで使うのがMyron ScholesとFischer BlackによるBlack Scholes方程式。オプションプライシングモデルが、特許資産を取引するための流動的で透明なマーケットを可能にすると著者は信じている。従来の会計基準GAAPでは価値を算定できなかった知的財産だが、状況が変わってきた。

  • 変化1 企業の経営者が知的資産(IP asset)に注意を向け始めた
  • 変化2 知的資産の売買がより簡単かつ安全になった

知的財産は証券ではないけれども、インターネットにより知的財産の取引を可能にする金融ツールを大規模に使えるようになったそうだ。最初の取引は2000年11月に米国の売り手とドイツの買い手の間で行われている。企業のマネージャーが金融資産管理をする上で重要な2つの原則が知られている。

  • 企業の資産を最も価値が出るように展開することでリターンを最大化する
  • コストより低いリターンしか出ていない資産を手放す

しかしながら知的財産の場合、これとはほど遠い行動をしている。使ってもいなくて、ライセンスもしていない知的財産を大量に保有しているというのが普通だからだ。でも資産として認識し始めると、売却したりライセンスしたりしたくなる。

特許の価値とコールオプションバリュー

これまでオープンなマーケットで技術の取引は行われていない。株や債券、コモディティではあるのにである。流動性の欠如はそれほど明らかではないが、同じくらい重要なのが特許の価値の算定、すなわちプライシングである。そこで特許の定義に立ち返って考える。法的な定義は既にあるが、金融の面から見た定義もあるだろう。

When framed in a financial perspective, a patent is best defined as the right to a future series of cash flows that may or may not ever materialize.

キャッシュフローベースで特許を考える。Black-Scholes方程式では、価値の変動はランダムで、ブラウン運動の考え方が使えるのではないかという発想が元になっている。このような量に依存した関数に対する価値と時間の特性を考えるため、伊藤の補題を使った。これは、リスク中立という境界条件をオプション契約に適用し、オプションの現在の価値を導出する基礎を与えた。以下の3つが仮定されている。

  • リスク中立者である
  • 価値が短期的にランダムに変動する資産である
  • リターンが対数正規分布する

知的財産の価値に関する売り手と買い手の合意は、知的財産移転の交渉において最も高いハードルである。売り手はサンクコストをリターンに買えたいと期待する。一方買い手は、ライセンスフィーと、商品開発した後に使われる時間と費用から大きなリターンを得ようとする。売り手は報奨(reward)にフォーカスするが、買い手はリスクにフォーカスする。riskとrewardの標準的な公式というものはない。

進捗・感想

このデータの時代に定性評価だけやってもしょうがないでしょう、ということで今の自分にとって関心があるのは定量的評価。知財の価値なんて訴訟を起こしてみないとわからないけれども、実際にシカゴで市場がオープンするわけだし、そこで何がどんなロジックに基づいて動いているのかはちゃんと理解して応用したいと思っている。この章の残りは、よくある反論みたいなのに答えている。そこらへんも読んで概要をつかんだら、数式をきちんと追いかけるのと、シカゴで何が行われようとしているのかを追いかけて行くつもり。何でもかんでもブラックボックスにしまっておけば何も考えなくてもいいけど、自分で中の仕組みがわかってないと故障を直すことも改善することもできない。
一回生のときに受けた電気回路の講義で、微分方程式とフェーザ表示が出てきて、工業高校でやるのはフェーザ表示だけ、でも過渡応答などの状況に対応するには微分方程式が必要と先生が言ってた気がする。簡略化された便利なツールがあっても、その中身を知ってから使うのと知らずに使うのとでは全然違うわけで、願わくは前者でありたいと思う。