シンガポールの特許事務所で働くということ
朝7時頃に起きて、朝食を食べ、大体7時50分頃に家を出る。バスや電車に乗って会社に着くのは8時半頃。東京ほどひどくはないがシンガポールにも満員電車というのはあって、それを避けるために迂回ルートを取っているから乗り換えは増えるが、通勤自体は快適。iPad miniで読書をしながら通勤している。ちなみに交通費は往復200円くらいだが、支給されない。
シンガポールには珍しくタイムカードという奴隷システムがある会社であり、遅刻したら遅刻分の倍の時間残業して埋め合わせるというブラックシステムだったりする。もちろん残業代という概念はない。
会社についたらPCを立ち上げて、Outlookを起動する。社内システムのTo do listがあるのでそれで期限が迫っているものがないかも確認する。ボスが60代シンガポール人女性でPCを使えないため、社内には紙がたくさんあり、紙を減らせと言われたことは一度もない。基本的にペーパーレスでも作業ができるけど、特許明細書をじっくり読みたいときに紙があると便利なのでありがたい。
朝メールをチェックすると大体20通くらい届いている。主にアメリカやヨーロッパからのメールだ。前の日に送っておいたリマインダーに対する返信が多いが、問い合わせも時々来る。シンガポール、インドネシア、ベトナム、タイ、フィリピン、インドの特許の基本的なことなら大体自分で答えられるのでその場で返信する。込み入った内容や各国の特許庁に確認する必要があるときは、そっちに投げる。なるべく自分がボトルネックにならないようにしている。
メールを消化していると、アシスタントがいくつか紙ファイルを抱えて部屋に持ってくる。前の日に指示を出しておいた案件や、お客さんの指示に基づいて準備した書類やメールの草稿である。請求書の項目、金額をチェックしてサインし、シンガポールE-filingの下書きが国際出願の内容と一致しているか確認し、各国の代理人から届いた報告がちゃんと指示通りになっているか確認したりしている。既に終わった案件で、お客さんからお金をきちんともらったか確認し、ファイルを閉じる作業もする。
昼休みは12時45分から13時45分。都心なのであまり格安の店はない。フードコートやレストラン、ファーストフードなどいろいろで、値段も400円から1200円くらいまで場所による。
戻ってきて仕事を再開。時差が1時間の日本や時差のない中国からのメールはリアルタイムでやってくる。あと東南アジア各国の代理人からのメールもリアルタイムで受け取るし、電話もかかってくる。社内の規定でお客さんからのメールには24時間以内に返信せよというのがあるので、もうとっとと返信するのには慣れた。シンガポール案件に関しては、リクエストがあれば拒絶理由通知の応答もやっているので、急ぎの案件を片付けた後にやっている。拒絶理由通知を読んで、本願明細書を読んで、引例を読んで、また拒絶理由通知を読んで、明細書、引例を読んで、気が済んだら応答書類の下書きと補正案を書くという御馴染みの作業だ。
夕方になるとドイツ、オランダ、イギリス辺りからメールが来る。インドが動き出すのもなぜかその時間。インドとはそこまで時差はないと思うのだが。逆に急ぎの案件なら、ヨーロッパの朝にメールを書いたりする。
あとは突発的なものか。この客から長らく金をもらってないんだが、うちで扱ってるのは何件か、一番近い期限はいつか、その期限を過ぎるとどうなるか、なんてことをボスに聞かれる。それから日本からお客さんが来るとか、ローカルのお客さんが特許を出したいって言ってるからミーティングに出てくれとか。自分の中の優先順位付けとして、法定期限、ボス案件、お客さん案件、現地代理人案件という感じで処理してる。法定期限に間に合わないと案件が死ぬし、ボス案件を無視すると自分のクビが飛ぶし、お客さん案件を忘れるとお客さんに怒られるし、現地代理人案件を忘れると後で面倒になるわけで、まあ全部重要だ。
そんな感じで自分としては淡々と仕事を処理しているわけだが、社内では時々ボスの怒鳴り声が聞こえる。前はけっこう頻繁だったが最近はかなり減った。どうしようもないミスを何度もやらかしたやつが怒鳴られてクビになるのは正常というか、そうしてくれないと他の人のモチベーションが下がるわけでいいんじゃないのかなと思うようになった。ケアレスミスは努力してどうにかなるものではなく、仕事の適性みたいなものだから、しょうがない気がする。別に自分は怒られたことないし。まだ入社して一年半くらいだけど、既に半分くらいは自分より後に入社している。辞める人も辞めさせられる人も多く、回転の速さが凄まじいのだがもう慣れた。
終業時間は18時。日本よりちょっと遅い。30分くらいサービス残業することもある。買い物をして帰ると、家に着くのは19時ちょっと過ぎ。ご飯作って、食べて、Codecademyやったり、Listen-ITやったり、Hexagonやったり、Facebookみたり、Twitterみたり、Reederみたり、The Economist読んだり、シャワー浴びたり、Podcastを聞いたりして24時就寝という感じ。
はてなで日記を書き始めて今月で10年。あの頃はまだ大学4回生になったばかりで、京都のあの寮に住んでいた。修士に進んで、就職して、結婚して、留学して、転職して、今に至る。10年後自分は何をやっているのかなと想像しようとしたが、どう考えても無理そうだ。場所も仕事もまったく想像できそうにない。