パイナップルの解体

たまには軽めの話題で。シンガポールは熱帯なので、そこら中にパイナップルの木があって、お腹が空いたらみんな懐に忍ばせたアーミーナイフで好きなだけ取って食べている、、、なんてことはないけれど、スーパーマーケットで非常に安く売っている。1つ100円しないくらい。以前から気になっていたが、今日ついに購入して、解体した。

やっぱり自分で手を動かしてやってみるのは面白いな。こちらでは外食の方が楽とか、メイドさんにやってもらえばいいとか、そういう考え方をする人が多そうな気がするけど(根拠なし)、個人的にそれってなんか違うと思う。なんでも自分でできるわけじゃないけど、そういうふうに心がけたい。まあ、他の人と違う考え方をしているということは、悪いことじゃなくてむしろ良いことだから問題なし。
終わってから調べて知ったけど、切り方にコツがあるらしい。
http://cookpad.com/recipe/246478http://cookpad.com/recipe/257638
次は試してみよう。そういえばパイナップルナイフなんてものがあったな。使いやすいんだろうか。

模倣品は悪なのか?

近頃Trade Mark(商標)の講義を連続して受けていて、なかなか興味深いやりとりがあったので記録しておこう。
シンガポールは中国系の人が多いけど、長い間英国の統治下にあったので英国に大きく影響されている。そういうわけでサッカーといえばプレミアリーグで、講義中に「アーセナル(Arsenal)のファンの人、手を挙げて」「マンチェスターユナイテッドのファンの人、手を挙げて」みたいなことが聞かれたりする。ここで聞かれた理由は、許可なくアーセナルのグッズを販売する業者に対してアーセナルが訴訟を起こしたケースが講義で取り上げられたから。被告は、ライセンスを受けずにアーセナルのロゴを貼り付けてグッズを販売し、アーセナルの許可は取ってませんと表示していたらしい。
模倣品の問題点の一つは、消費者が間違って買ってしまって、authorizeされたものが売れなくなってしまうことである。しかし、許可をとっていないと明確に表示した場合、消費者が間違う可能性は低い。別の問題点としては、アーセナルのロゴが付いていて、正規品と無許可のものが出まわってしまうとロゴが出所を表示しないことになるということ。お店で「許可を取っていません」とわざわざ書かないとわからないということは、売れた後に区別がつかないわけで、それってどうなの?という話。
講義で出てきた意見としては

  • ファンは、自分が買うことによって少しでもチームや選手にお金が行って欲しいと思っているのでは?
  • 自分は中国の出身で、たぶん無許可だけどグッズを売る店が近くにあって、そこで買ったものを身につけて応援していた。たとえ模倣品だとしても、自分はそれを身につけて応援できてうれしかったので、全面的に否定することはできない。

という感じ。ちなみに結果は、アーセナルの主張が支持されている。
Arsenal wins landmark trade mark ruling
http://www.out-law.com/page-3594
でも、England's Court of AppealとEuropean Court of Justiceで意見が分かれていてなかなか興味深い。これは、被告自身がアーセナルのファンなのがややこしいところ。身近に模倣品があるところで育った人の意見を聞けるというのは、なかなか興味深いと思った。物事を多面的にとらえるように意識しよう。

Introduction to Tort

一応勉強してるぞってことをたまにはアピールしておこう(誰に?)。9月末に最初のテストがあるので、その対策も兼ねて。

Tortとは何か

  • A civil wrong, other than breach of contract, for which a remedy may be obtained.(Black's law dictionaryより)

損害賠償というのが意味的に近いと思う。誰かを怪我させたり、誰かの持ち物を壊してしまったときに、どうやってその埋め合わせ(補償)をするかを規定しているのがLaw of Tort。そのまま埋め合わせをすることをloss shifting。保険を介して埋め合わせをすることをloss distributionというそうだ。

  • Criminal law(刑法)との違い

同じく何かよろしくないことをしたときの取り決め事だけど、刑法は罰することが主な目的で、被害にあった人を救済することは主たる目的ではない。

  • Contract law(契約法)との違い

これは契約があることが前提なので少し異なる。Tortでは、事前の契約を必要としない。要するに道端で誰かにぶつかって怪我をさせてしまった場合にどうするかみたいなケースがTortに該当する。

Tortの例

  • Trespass to the person

他人に危害を加えたり、閉じ込めたりする行為。故意であるならば該当する。

  • Nuisance

迷惑行為。音や臭いで妨害みたいな感じ。故意かどうかに関わらず該当する。

  • Defamation

名誉毀損。知らないうちにやってしまうことがあるから要注意。

  • Breach of statutory duty

違法行為。著作権法の場合、著作権者がどのようなアクションを取れるか規定されている。

Tort of Negligence(Tortの例:過失)

合理的な範囲で(顧客or他人の)行動を予見する義務がある。

  • Donoghue v Stevenson(英国で起きた有名な裁判らしい)

Donoghueさん(原告)が、飲食店で友人に奢ってもらった飲料(密閉されたもの)を飲んでみたらかたつむりが入っていて病気になった、どうしてくれるんだという話。飲料のメーカーがStevenson(被告)。原告が購入したわけではないので原告は客ではなく、被告と原告との間に事前に契約はないが、被告にそこまでの責任があるのかというのが論点。このケース以前は、事前に関係がないと過失もないとされていたが、このケースで事前に関係がなくても隣人(neighbour)に含まれるので、被告に過失があるとされた。
どこまでを合理的な範囲とするかはもうちょっと詳しく見ていく必要があるけど、お腹がすいたのでここまで。ルームメイトがラマダン中で、朝ごはんのためか夜明け前に目覚ましがなってこちらも早く起きてしまい、既に空腹な午前11時。

茶道と空気人形

私の通うNUSという大学には茶道部があって、今年で20年目を迎えるらしい。そこで遠州流茶道13代目grandmasterを招いて講演してもらうというので、ちょっと行ってきた。
http://nussadoclub.wordpress.com/2010/08/09/20th-anniversary-of-enshu-sado-school-at-nus/
半分くらい寝てしまったけど、ステージの上でお茶を点てたりしていてなかなか面白かった。茶室じゃないところでも使えるように茶を点てるテーブルと椅子を作ったとか、非常に熱心で好感が持てた。ありきたりな言い方になってしまうけど、伝統を守りながら、時代に対応していっている様子が伺える。

  • 茶道具を磨きながら、心を磨くのです。
  • 茶道は一人ではできません。お客様がいて初めて成り立ちます。
  • いただきます、ごちそうさまは、お茶を栽培してくれた人、茶器を拵えてくれた人、用意してくれた人全てに感謝の意を込めて。

みたいな感じの言葉が印象的だった。ここでできる最大限のおもてなしを受けた気分にはなったが、京都の寺に訪れて紅葉を見ながらいただいたときとは違うなあと思った。枯山水とか借景とか水琴窟とかいろいろな要素を思い出す。どうしても再現しきれないそういうdetailに意識的になることが大事なのかもしれない。


それからJapanese Film Festival Singaporeなるものがあったので、空気人形(air doll)という映画を見てきた。

最初なんというマニアックな映画かと思ったが、だんだん面白くなったので良いことにする。空気でできた人形が、自分の中の空気を吐き出して炎を消したり綿毛を飛ばしたりするのが非常に印象的だった。ろうそくの炎にフゥーっと息を吹きかけるのと、たんぽぽの綿毛にフゥーっと息を吹きかける場面がオーバーラップするのを見て、自分の小さい頃を思い出したりするのは、自分が日本人だからなのかなと少し思った。他の国の子供もたんぽぽの綿毛にフゥーっと息を吹きかけているかどうかは知らないけど、そういうdetailに意識的になろうかなと思った。


日本人だからわかること、日本で生まれ育ったからわかること、そういうことは少なくない気がする。そしてこの国はよくわからないけど妙に親日的だし、いろいろな面で日本を意識していると感じる(自意識過剰かもしれないけど)。そのあたりをうまく自分の武器にしていくことが今後大切になってくるんだろうな。特に根拠はないけどそんな気がした。

ヤバい経済学

思いもよらないものに相関関係があるよと言って、いろいろ例示してくれる本。

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]

「専門家」は―犯罪学者から不動産屋さんまで―自分の情報優位性を自分の目的のために利用する。しかし、彼らを彼らの土俵の上で打ち負かせることがある。とくにインターネットのおかげで彼らの情報優位はどんどん小さくなっている。それが他にも増して強く現れているのが棺桶と生命保険料の値下がりだ。
何をどうやって測るべきかを知っていれば混み入った世界もずっとわかりやすくなる。データの正しい見方を知れば、解けそうになかった難題が解決できるようになる。折り重なった混乱と矛盾を拭い去るには数学の力を駆使するのが一番だからだ。

情報優位性のお陰で甘い汁を吸ってきた人々が右往左往するのを見るのは痛快だが、さて自分は何を武器にしていこうかと考えるとちょっと大変だなと思ってしまう。フラットな方向へ推し進めながら、本当に価値があるのは何なのかを考えていけば答えは見つかるだろうけど。

1984年、研究所の経営陣が変わったのを機に、フェルドマンは自分の仕事を顧みて顔を曇らせた。退職してベイグルを売って暮らすことに決めた。エコノミストの友人たちには正気を失ったと思われたが、妻は賛成してくれた。子供は3人いたが、末っ子がそろそろ大学を出るころだったし、住宅ローンの返済も終わっていた。
ワシントン周辺のオフィス街を来るまで売り込みに回った。彼の売り文句は単純だ。朝早く、彼がベイグルと代金入れを会社のカフェテリアに届ける。ランチタイムの前にまたやってきて代金と売れ残りを回収する。支払いは自己申告に頼った商売だったがうまくいった。
・・・
フェルドマンは初めから商売の詳しいデータを取っていた。だから、回収できたお金の額と持って行かれたベイグルの数を比べれば、お客がどれだけ正直か1セント単位で測れることに気づいた。お客は彼のベイグルを盗んでいるのだろうか。もし盗んでいるなら、盗む人がいる会社といない会社はどんな特徴をもっているだろう。盗みが増えるのはどんなときで、減るのはどんなときだろう。

こういう副産物は面白い。ベイグルはきっかけにすぎず、客となった会社の人ですら把握していない情報を知らず知らずのうちに手にしているわけだ。実際にやってみることは現場に行かずに考えることよりもずっと大変なことだけど、全然予想もしなかったことが起きたりして楽しいと思う。

ケネディはとても頭にきて、そのおかげか、閃きが舞い降りた。ある日、男の子たちがスパイごっこみたいなことをしていて、たわいのない秘密の合言葉を言い合っているのを見かけて思った。KKKの合言葉やなんかの秘密を国中の子供たちにばら撒いたらすごくないか?秘密結社の牙を抜くのに、結社の最高機密をガキ扱いする―さらに公にする―よりもうまいやり方なんてあるだろうか。
・・・
ケネディはスーパーマンのプロデューサーたちに最高のKKK情報を流した。
・・・
スーパーマンの番組が放送されていき、ジョン・ブラウンが手に入れたKKKの秘密をケネディが他のラジオ番組や記者に流すにつれて、うれしいことが起きた:KKKの集会にやってくる人は急に減り、入団希望者も激減した。

これも発想が面白いな。メディアとはこういうふうに使うのかと思った。「殺菌には日の光に晒すのが一番だそうだ」という言葉が印象的。

あなたが賢くてよく働いてよく勉強してお給料も高くて、同じぐらいよくできた人と結婚したなら、あなたのお子さんも成功する可能性が高いでしょう(そしてもちろん、正直で、思いやりがあって、子供を愛し、いろんなことに興味を持てる人であるのも決して邪魔にはならないでしょう)。でも、あなたが親として何をするかはあんまり大事じゃない―大事なのは、あなたがどんな人かなのだ。そういう意味で、あれこれ手を出す親は、お金があれば選挙に勝てると思い込んでる候補者みたいなものだ。本当は、そもそも有権者がその候補を嫌いだったら、世界中のお金があっても当選なんかできるわけないのに。

データからこういう身も蓋もない話が出てくるのも良かった。続編も出ていてけっこう人気のようなので読むつもり。

Playing the IP Strategy Game

こちらに来て1ヶ月経った。そもそもなんでここに来たんだっけと時々考えたりしてた。一旦日本から離れてみたかったとか、東南アジアは生活コストが低いとか、シンガポールは治安が良くて暮らしやすそうとか、思いつくのはそんな消極的な理由ばかり。でもシンガポール知的財産庁(IPOS)傘下の教育機関IP Academy主催のこのイベントに参加して、最初の気持ちを思い出すことができた。IP academyのDirector, Agilent TechnologyのIP transactionの人、P&G asia pacificのTrade Markのトップ、PwC会計事務所のTax Partnerという4人の専門家の話を聞ける場にいたおかげである。参加者は20人くらいでカジュアルに質疑応答ができる雰囲気もよかった。

IP academyの人の話

Ocean Tomo, Intellectual Ventures, 360ipなどが出てきて、ここでは特許の流通も一般的なんだなと感じた。SingaporeをIPのhubにするためにIP academyが何を提供しているのか、知財関係者に何を期待しているのかなどを話していた。IPの活用がこの国にとって死活問題であり、国が積極的にバックアップしていると知ることができてよかった。

Agilentの人の話

社員とのagreement、共同で開発するときのagreementなど、特許は誰のもの的な話をしていた。職務発明は自動的に会社に帰属するらしい。日本では職務発明絡みでけっこう訴訟が起きているがそういうのはないのかと聞くと、ないそうだ。「相当の対価」を法律でentitleした国は非常にユニーク、そもそも日本はいろいろとユニークと言われてしまった。あと面白かったのはインドのソフトウェア産業の話。インドのソフトウェア関連の人材はスーパーマーケットみたいに流動的で、昼ごはんを一緒に食べてすぐサインして別の会社に転職しちゃうくらい。だからIPは簡単にリークしちゃうから、日頃からの教育が大切とのこと。シンガポールの人に流動的と言われる転職市場ってどれだけ流動的なんだか。

P&Gの人の話

コピー商品の現状と対策について話してた。要するに、ブランドは一朝一夕でできないし、店で客が混同して買ってしまうのは問題だから断固戦うべしという話。洗剤、シャンプーから乾電池に至るまでcopycatのパクリっぷりが激しかった。一番面白かったのは、SK-II。SK-AからSK-Z、SK-1から5まであるらしい。SK-IIという名前のhair cut shopは、業種が違うので文句を言えないそうだ。これらの対策としては、社員を活用しようとのこと。やっぱり社員の知財教育が重要みたい。別に弁理士、弁護士でなくてもできることだから。どんなふうに報告するかのテンプレートも用意したほうがいいそうだ。それからwatch databaseを紹介していた。
http://www.thomsonbrandy.jp/Homehttps://www.ctcorsearch.com
中国のコピー商品に対処することは今後ますます重要になっていきそうだと思った。

PwCの人の話

ちょっと毛色が違う話でこれも面白かった。法人税が香港は16.5%、シンガポールは17%であるのに対して、日本、アメリカは40%というのはわりと有名な話。でもこの数値はやり方次第でもっと下がりますよとのこと。IP絡みでいうと、IPを創出するR&Dがそれに該当する。R&Dに使ったお金の150%、200%、250%を控除しますという国がたくさん出てきているんだとか。その話はエコノミストで読んだな。
http://ecotai.g.hatena.ne.jp/pho/20100316/1268748334
会社の競争も激しいけど、国も生き残りに必死で、IPを創出する人材をせっせと誘致しているようだ。tax planningにとってなぜIPが重要かといえば、Profit, Portabilityともに他の要素よりも高いから。シンガポールがどれだけ必死かというと、R&Dはもちろんのことデザインの支出も控除対象。特許を他から買いとるのに使ったお金も控除対象。特許出願の費用もそうだし、ライセンス収入の税金は低めのレートに設定される。具体的にはここにまとまってた。
http://www.iras.gov.sg/irashome/PIcredit.aspx
シンガポールの会社でもR&Dを海外でやると、その部分は控除対象とならないみたいで実に徹底している。
IPは、legalの面とbeneficialの面で考える必要があって、legalの面では権利行使できるところにおき、beneficialの面では税金の安い国におくべしとのこと。マイクロソフトはIPの会社をアイルランドに立ち上げたし、ナイキはケイマン諸島に会社を持ってるみたい。わずかな書類で移動させることができて、税金に大きな差が出てくるのであれば、やらない理由はなさそうだ。IPを管理する会社をどこにおくといいかということで、オランダ、スイス、ルクセンブルク、シンガポールを挙げていた。香港、アイルランドも法人税が安いから良さげだけど、バミューダケイマン諸島、Labuan(マレーシアの島)のようなtax havenからは近頃出て行く傾向にあるみたい。

その他感想

やっぱり自分は法律そのものよりもこのへんに関心があるんだな。IPに関してもっと幅広い世界があるとwebで見ながら感じていたけど、それをカジュアルに議論できる場がここにあった。この国は司法の面でもかなりラディカルなのだが、それはまた今度書こう。とりあえず「気球」に乗ったことがない人の意見なんて無視して、自分の直感に頼ってここに来てよかった。ここでしかできないことはたくさんありそうだし、ちょっとだけ方針が見えてきたのでうれしい。

Erin Brockovich(エリン・ブロコビッチ)

講義で紹介されたので見てみた。

ちなみにこれは実話に基づいた映画で、2000年に日本でも公開されている。
http://www.southwave.co.jp/swave/8_cover/cover_200019.htmhttp://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=1323
全米史上最高の和解金を獲得することになったケースをとりあげているので、訴訟のプロセスを知るのに便利だよーとのことで見たが、確かに映画って手軽でいいなと思った。非常に単純でわかりやすい話だったけど、大企業を悪者にして懲らしめてやりましたというのは単純化し過ぎじゃないかな。あと言葉遣い汚すぎ。誇張してるんだろうけど、そんなfxxxって連呼しなくても。
なんか変だなと思ったものをきちんと調べてみるとか、実際に現地に行って話を聞いてみるとか、現地で資料を集めるとか、説得するとか、信頼を勝ちとるとか、十把一絡げにしないで一人ひとりのケースを理解するとか、うまく専門家を活用するとかは、何にでも通じることだろう。法律事務所は成功報酬40%とか言ってるけど、そこに至るまでのコストは自ら負担しているので意外とハイリスクハイリターン。細かく見ていけば割と奥が深くて面白かった。大学の図書館でこういうDVDを借りられるのは、非常に便利でありがたい。