Playing the IP Strategy Game

こちらに来て1ヶ月経った。そもそもなんでここに来たんだっけと時々考えたりしてた。一旦日本から離れてみたかったとか、東南アジアは生活コストが低いとか、シンガポールは治安が良くて暮らしやすそうとか、思いつくのはそんな消極的な理由ばかり。でもシンガポール知的財産庁(IPOS)傘下の教育機関IP Academy主催のこのイベントに参加して、最初の気持ちを思い出すことができた。IP academyのDirector, Agilent TechnologyのIP transactionの人、P&G asia pacificのTrade Markのトップ、PwC会計事務所のTax Partnerという4人の専門家の話を聞ける場にいたおかげである。参加者は20人くらいでカジュアルに質疑応答ができる雰囲気もよかった。

IP academyの人の話

Ocean Tomo, Intellectual Ventures, 360ipなどが出てきて、ここでは特許の流通も一般的なんだなと感じた。SingaporeをIPのhubにするためにIP academyが何を提供しているのか、知財関係者に何を期待しているのかなどを話していた。IPの活用がこの国にとって死活問題であり、国が積極的にバックアップしていると知ることができてよかった。

Agilentの人の話

社員とのagreement、共同で開発するときのagreementなど、特許は誰のもの的な話をしていた。職務発明は自動的に会社に帰属するらしい。日本では職務発明絡みでけっこう訴訟が起きているがそういうのはないのかと聞くと、ないそうだ。「相当の対価」を法律でentitleした国は非常にユニーク、そもそも日本はいろいろとユニークと言われてしまった。あと面白かったのはインドのソフトウェア産業の話。インドのソフトウェア関連の人材はスーパーマーケットみたいに流動的で、昼ごはんを一緒に食べてすぐサインして別の会社に転職しちゃうくらい。だからIPは簡単にリークしちゃうから、日頃からの教育が大切とのこと。シンガポールの人に流動的と言われる転職市場ってどれだけ流動的なんだか。

P&Gの人の話

コピー商品の現状と対策について話してた。要するに、ブランドは一朝一夕でできないし、店で客が混同して買ってしまうのは問題だから断固戦うべしという話。洗剤、シャンプーから乾電池に至るまでcopycatのパクリっぷりが激しかった。一番面白かったのは、SK-II。SK-AからSK-Z、SK-1から5まであるらしい。SK-IIという名前のhair cut shopは、業種が違うので文句を言えないそうだ。これらの対策としては、社員を活用しようとのこと。やっぱり社員の知財教育が重要みたい。別に弁理士、弁護士でなくてもできることだから。どんなふうに報告するかのテンプレートも用意したほうがいいそうだ。それからwatch databaseを紹介していた。
http://www.thomsonbrandy.jp/Homehttps://www.ctcorsearch.com
中国のコピー商品に対処することは今後ますます重要になっていきそうだと思った。

PwCの人の話

ちょっと毛色が違う話でこれも面白かった。法人税が香港は16.5%、シンガポールは17%であるのに対して、日本、アメリカは40%というのはわりと有名な話。でもこの数値はやり方次第でもっと下がりますよとのこと。IP絡みでいうと、IPを創出するR&Dがそれに該当する。R&Dに使ったお金の150%、200%、250%を控除しますという国がたくさん出てきているんだとか。その話はエコノミストで読んだな。
http://ecotai.g.hatena.ne.jp/pho/20100316/1268748334
会社の競争も激しいけど、国も生き残りに必死で、IPを創出する人材をせっせと誘致しているようだ。tax planningにとってなぜIPが重要かといえば、Profit, Portabilityともに他の要素よりも高いから。シンガポールがどれだけ必死かというと、R&Dはもちろんのことデザインの支出も控除対象。特許を他から買いとるのに使ったお金も控除対象。特許出願の費用もそうだし、ライセンス収入の税金は低めのレートに設定される。具体的にはここにまとまってた。
http://www.iras.gov.sg/irashome/PIcredit.aspx
シンガポールの会社でもR&Dを海外でやると、その部分は控除対象とならないみたいで実に徹底している。
IPは、legalの面とbeneficialの面で考える必要があって、legalの面では権利行使できるところにおき、beneficialの面では税金の安い国におくべしとのこと。マイクロソフトはIPの会社をアイルランドに立ち上げたし、ナイキはケイマン諸島に会社を持ってるみたい。わずかな書類で移動させることができて、税金に大きな差が出てくるのであれば、やらない理由はなさそうだ。IPを管理する会社をどこにおくといいかということで、オランダ、スイス、ルクセンブルク、シンガポールを挙げていた。香港、アイルランドも法人税が安いから良さげだけど、バミューダケイマン諸島、Labuan(マレーシアの島)のようなtax havenからは近頃出て行く傾向にあるみたい。

その他感想

やっぱり自分は法律そのものよりもこのへんに関心があるんだな。IPに関してもっと幅広い世界があるとwebで見ながら感じていたけど、それをカジュアルに議論できる場がここにあった。この国は司法の面でもかなりラディカルなのだが、それはまた今度書こう。とりあえず「気球」に乗ったことがない人の意見なんて無視して、自分の直感に頼ってここに来てよかった。ここでしかできないことはたくさんありそうだし、ちょっとだけ方針が見えてきたのでうれしい。