幽霊を捕まえようとした科学者たち

新聞の広告で見て気になったので買った本。
まず謝辞を読むと良いかもしれない。

これまでわたしは胸騒ぎや予知夢を経験したことも、幽霊を見たとか声を聞いたということも、五感を超える感覚を持ったこともありません。
・・・
だから本書を書くにあたって、わたしは自分を超自然的なものの探求にはうってつけの物書きだと思っていました。常識というがんじょうな錨でがっちりつなぎとめられた、職業的サイエンス・ライターだと。
・・・
書物というものがみなそうであるように(ないしは、そうであってほしいと人が思うように)、本書もわたしのものの考え方を変え、思いあがりをはっきり正してくれました。それでもわたしは第六感にはあこがれないし、現実に基づいたサイエンス・ライターのままでいたいと思っています。当初より少しだけ独善的でなくなり、少しだけ自分の正しさに懐疑的になりました。

読み終わった今だから、何が言いたいのかわかる気がする。

幽霊を捕まえようとした科学者たち
幽霊を捕まえようとした科学者たちデボラ・ブラム 鈴木 恵


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虫の知らせとか気のせいとか世の中にはよくわかんないものが多いけど、
単なる偶然なのか、偶然とは到底思えない確率で起こっているのか
そのあたりを科学的にちゃんと検証しようっていう話。
かなり面白かった。裏科学史みたいに楽しめた。


クルックス管で有名なクルックスがかなり入れ込んでたり、
レイリー散乱で有名なレイリー卿が心霊研究を支援してたり。
霊媒とか心霊現象の95%はインチキだとはこの心霊研究者たちも
認めている。だから、金をとってる職業霊媒は相手にしてない。
でも全てが全て嘘だまやかしだと断言できる根拠はあるのかということ。

ロッジはしだいに違和感を覚えるようになった。もちろん、正確な物理法則や優雅な化学式は十分に尊重している。科学には厳然たる真実と優れた力がある。だが、崇拝するほどの”真実”や全能の”力”があるだろうか。科学を尊重すればするほど、ロッジはそれが唯一の思考体系だとは思えなくなった。あらゆる既存の信仰体系にとってかわる万能の体系だとは。

科学者という名の聖職者という表現がけっこう出てくる。
信仰として盲目になってしまうのはよろしくない。

教養人にして科学者であり、心霊主義者の説く来世など信じていなかった教授は、不思議だということだけは認める、と慎重にジェイムズに書いてきた。

こういうのもけっこう出てきてた。

パイパー夫人は自分をたんなる科学実験の対象、研究目的のため「トランス状態と呼ばれるものになる自動人形」にすぎないと感じていた。18年間も研究して解明されないなぞにはもううんざりです。すべてを捨てて「もっと自分に合った」ことに打ち込むつもりです。夫人はそう述べていた。

研究対象にされた方の立場を考えたことなんてなかったけど、ひどい話だな。
押さえつけられて、意識を失ってる間にいろいろ実験されて。

ジェイムズが残念に思うのは、心霊的試みに関連した度しがたい不正であり、それにしじゅう進歩を妨げられている状況だった。心霊研究者はまともな現象を研究するよりもいかさま師の正体を暴くのに、貴重な時間を絶えずむだにしていた。リチャード・ホジソンによるマダム・ブラヴァツキーの詳細な調査から、エヴァラード・フィールディングによる生者の霊との愉快な出会いまで、いんちき行為はそれこそ無限にあるように思われた。

こういう分野を本気で研究しようとしたら、たしかにかなり大変かもしれない。
ノイズばっかりで本質的なところを調べることすらできないんだから。

「では、わたしからひとつ質問しよう」とエジソンは記者に言った。「きみは何をしにここへ来たんだ?―この地上に」
記者はうまい答えを思いつかなかったと、記事で白状している。
「ほら、そうだろう。われわれはわかっていない。わからないんだ。わかるには限界がありすぎる。本当に重要なことは、人間にはまだつかめていないんだ。

自分が知っていることなんて世の中のほんの一部に過ぎないのに
その一部にあてはまらないというだけで否定してしまうのは、
どう考えても偏狭だろうな。もうちょっと謙虚になる必要がある。
錬金術から化学が生まれたように、こういう研究から
多重人格とか心理学的な知見が得られているわけで
すべて正しいわけではないけど、すべて間違っているわけでもなさそう。
一つ一つ真剣に検証しているのが非常に印象的だった。


でも後半に出てるエウサピア・パラディーノの主催の降霊会の写真はいただけない。
胡散臭すぎるよ。この写真一枚見ただけで、全体の検証の信頼性が落ちた気がする。
まあいろいろな科学者とか心理学者とかが出てきて、
教科書に出てる研究だけしてたわけじゃないんだなというのが
わかって、なかなか面白い本だった。


あと、一ヵ月前のだけど、大幅に追記して書き終えたんで、
こっちも読んでもらえると幸いです。
Lazy Suits - 社員をサーフィンに行かせよう
http://d.hatena.ne.jp/pho/20070530/1180534021
非常に良い本だと思う。