眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く

橋本さんの書評がきっかけで気になって買った本。
Passion For The Future: 眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004466.html
かなりヘビー級だけど、面白い。いろいろ別のことも考えた。
読む前になんとなく期待していたのは、眼がどのように進化してきたか
ってことなんだけど、実際に読んでみると、眼の進化が生態系に与えた
非常に大きなインパクトがメインテーマみたい。それはそれで面白い。

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く
眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解くアンドリュー・パーカー 渡辺 政隆 今西 康子

おすすめ平均
stars冗長な駄本と思いません?
stars知的興奮が味わえます。
starsもう1つ
starsダーウィンの心配が杞憂に終わる本
starsパズルのピースの一つ一つが驚愕の事実!

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進化生物学について全くと言っていいほど知識がない自分にとって、
そもそも何が謎だったのかがわからなかった。だから第一章はかなり手強かった。
でも、丁寧に書いてあって非常にわかりやすい本である。

  • 地球上ではこれまでに、38の動物門が進化した。つまり、これまでに起きた遺伝的な大変革はわずか38件のみで、その結果、38の異なる体制が生まれたということである。
  • もしここで、外部形態の特徴からすると、5億4400万年前の時点では3つの動物門しかなかった、と言ったらどうだろう。ほとんどの人は、過去5億4400万年間に、動物門の数は3つから38へと少しずつ増加してきたという筋書きを思い描くだろう。
  • ダーウィンやウォレスは、そういう考え方をしていた。
  • 現在はこう考えられている。地球上の生命の歴史は、長期にわたる漸進的な進化ないし完全な足踏み状態の期間が大半を占めてきた。ところが、そうした停滞期は、突如として起こる「大進化」によって断続的に破られてきた。長い停滞のあとで、短期間に爆発的な進化が炸裂するのだ。
  • カンブリア紀の大爆発とは、5億4300万年前からのわずか500万年間に、すべての動物門が複雑な外部形態をもつにいたった進化上の大事変である。つまり、それまでみな同じような形態だった動物門が、この時期を境に多様な外形へと姿を変えたのだ。
  • 今日見られる多種多様な生物が出現する土台を築いた出来事がこれなのだ。この空前絶後の爆発的進化により、現生するさまざまな動物の外部形態の青写真ができあがった。歯や触手や爪や顎をそなえた動物が突如として出現したのだ。
  • とくにダーウィンなどは、およそ5億4300万年前のカンブリア紀初期の地層から硬い殻をもつ動物化石が突如として現れることと、それらの進化上の祖先が見あたらないことに頭を悩ませていた。
  • 最近の化石研究が導きだした見解は、蠕虫型の軟体性動物から硬い殻をもつ外部形態が進化したのがカンブリア紀の「ビッグバン」だったというものである。

面白い。これまで自分はこんなに面白いものを知らなかったのか、と思った。
知らないことを知ると、更にまた知りたくなる。勉強って楽しい。
なぜこの「ビックバン」が起きたのか。それを解く鍵は「眼」ではないか。
という感じで、少しずつ解き明かしていく本である。
そもそも眼とは何かとか、光を感じるだけのものは含まれないとか、ネコの眼が光る理由とか、
虹色の貝虫とか、紫外線の光に対してだけ浮かび上がる模様とか、読んでいて楽しい。
そんな感じで読み進めていって、第8章で背筋がゾクリとした。「殺戮本能と眼」
5億4300万年前、一つの眼が開いた。三葉虫の眼が。
それまで手探りとか、音に頼って、食料を集めていたのに、眼が開いてしまった。
他の連中の何と無防備な、何と隙だらけなことかって感じなんだろうな。
たまたま見られにくかったとか、やや硬くて食べられにくかったとか
そういうものだけが生き残って、残りは食べられてしまい、進化が急激に加速するという構図。
考えてみれば単純なことだけど、非常に凄まじい。進化ってすごい。


これを読んでいて、まず思ったのはgoogleのこと。
世界を構造化するということは、どこに何があるかわかるようにするということ。
つまり「眼」が開きつつあるということである。それまで接触がなくのんびりと
していたものが、良いか悪いか別として「発見」されてしまうことである。
現に奪い合いが起きて、コモディティ化したものが大変になっている。
海外に仕事を奪われるという話も、「眼」が開いて、「手」が届くから。
サバイバルのためには、自分も「眼」を開いて、逃げられるような俊敏さ、
ちょっとやられても生きられるような「殻」を進化させること、
「歯」や「爪」をもつことあたりが大切なんじゃないかと思う。
現代におけるサバイバルというのは、文字通り生死を意味するわけじゃなくて
主体的に行動できる自由とか、制約少なくやりたいようにできるとか
そう言うことなんだと思う。人それぞれ定義は違うかもしれないけど。

  • 社会をどうこうとか考える前に、現実問題として個がしたたかに生きのびられなければ何も始まらないではないか
  • 若い人たちを見ていて、とにかく生きのびてくれよ、とんでもないことも色々あるこの世の中で何とかサバイバルしてくれよ、といつも願う。気がついたら放り込まれていたこの世の中で、まだ何ものにもなれていない若いときは「サバイバルすること」こそがまず重要で、それが達成できたあと、人生のある時期以降は社会全体のことを強く意識して生きていけばそれでいいと思う。

ウェブ時代をゆく

そんなことを言われても困るけど、サバイブしたいと思う。
「眼」というのは、情報感度に対応しそうだ。
それは、ネット上のトレンドを知ることではない。
トレンドなんてワイドショーを見てるのと一緒だから。
自分が興味をもっている特定の分野について、
コンタクトパーソンを見つけたり、情報源を見つけたりすること
それが大事だと思う。オンラインとオフラインでどこまでできるか。
「殻」は、「歯」や「爪」とオーバーラップしそう。
収入源であり、自分の専門性、自分を安売りしない交渉力などが
何となく考えられる。道具として、うまく活用することが大事。
自分の得意な方向に進化させていって、サバイバルしつつ
自分の好きな場所でやりたいことをする。たぶんそういうことだろう。
googleの他に考えたのは、キャリアプランのこと。

覚えておかねばならないのは、先カンブリア時代に、眼の獲得レースが開始の時を待っていたわけではないということである。進化は、そんなふうには起こらない。そういう、目的論的な見方は間違っている。そうではなく、ある日、ルールを変えてしまうような何かが、環境中にもたらされたのだ。そのとたん、淘汰圧の方向か規模が変わった。進化は、適応放散によって進む。その原因は、たいてい、環境における仕様書の変更である。

先のことはわからない。頑張っても5年が限度だと思う。
それ以降は環境が変わり過ぎて無意味な予測になるような気がする。
年表ありきではなく、年表は単なる結果に過ぎない。
だから、今は直近の数年を強く意識しつつ、感覚を研ぎすますことだけ
意識しようと思った。まあ、そもそも自分が何のために生きてるかということを
考えたら、何か目的達成だけじゃないと思うから、楽しむことも忘れずに。
バランスバランス。便利な言葉だ。