今だから言えること

 夕暮れ時にライトアップされた時計塔を見て京大生になったという実感が不意に湧いてきた。合格してから一ヶ月経った現在、高校時代が妙になつかしく遠い昔の出来事のように感じられる。当時はよく大学生活を思い浮かべようとしたが結局うまくできなかった。しかしその大学生活がこれからはじまるのである。充実したものになるかはすべて自分次第である。
 今思えば僕の学習方法は他の人とは少し違っていたと思う。おそらく僕の性格上仕方のないことだが、学習計画から勉強法、実行に至るまですべて自分で行った。確かに予備校や学校の先生に言われたとおりに授業の進度に合わせて予習復習をすれば頭を使わないし何より楽である。しかしそんなことで本当に効率よくできるだろうか。人それぞれ目標もやる気も興味、関心も異なるのにレディーメードな学習方法が数多くの人の役に立つなどとは僕には信じられない。集中力がどれだけ持続するのか、やる気がどれほどあるのか、現在どれほどの能力があるのかなどは自分が一番良く知っているのだから、自分以外の人間には決して計画など立てられないと思う。
 だから僕はこの方法を選んだ。無論失敗すれば弁解の余地はない。先生が悪いなどという空々しい言い訳もできない。悪いのは自分一人だけなのだから。考え方によってはすっきりしていていいと思う。
 具体的に言うと、アンケートにも書いたが、本屋で現時点の自分の能力と入試とのギャップを埋める参考書・問題集を買って解くだけである。何冊か手にとって解答・解説をよく読んで自分に合うもの(やる気が出るもの)を選べばよい。ロングセラーならまちがいが少ないが断言はできない。
 口で言うのは簡単だが実行に移すと行きづまることが多い。そんな時はやはり相談してみればいいと思う。先生でもその科目が得意な友達でも誰でもよいが、大切なのはその意見を吟味して自分でも良いと思ったことを取り入れることである。自分の受ける大学・学部の合格体験記を十人分ぐらい読んでもきっと得られるものがあると思う(実際にためになった)。
 模擬試験について言えばたくさん受けた方がいい。年間三十近く受けたので入試当日も落ち着いていられた。そんなに受けたらお金がかかって大変だと思うかもしれないが、スカラシップで大半が無料だったので問題ないし、一日中ある程度集中しているわけだからいい訓練になると思う。プレテストや実戦模試は完成度が高いので自分が受ける大学にかかわらず受けておいた方がいい。僕は京大系を五回、東大系を四回受験した。中でも七月の東大プレは最初のプレテストで自分の甘さが身にしみるので受けておいた方が良い。マーク模試も解説が充実しているので必要である。
 現役で合格するために最も必要なことは、言うまでもなく上手に時間を使うことだと思う。テレビはスポーツ中継は見たが他は全てがくだらなく感じて見るにたえられなくなった。ただでさえ長かった睡眠時間がそのおかげで増大し早寝遅起の健康的な生活が確立された。そのおかげで学習中の集中力が高まり、理解力も高まり、記憶力も高まった。良い循環ができあがるとあとは楽である。結局受験は全国数十万人のゲームであり、一分一秒惜しむ必要などない。H先生の世界史講習会のように、目先を変えてみることも視野を広げるうえで大切である。
 今このようにえらそうに書いているが、不合格なら今頃Z会の答案を書いているかもしれない。人生なんてきっとそんなものだろうし、どう転ぶかわからない。気楽に遊び心を忘れずに、そして悔いを残さぬように。
(2000年5月に書いた合格体験記より転載)
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http://d.hatena.ne.jp/shiumachi/20080217/1203206972