読書感想文7つ目。面白いけどやや取っつきにくそうな本。
渋江抽斎 岩波文庫 (文庫)
森鴎外が渋江抽斎なる人物に興味を抱き、墓や子孫を探して、いろいろと話を聞いて、この人物に近づいていく話。淡々と書かれているが、抽斎とその妻の五百(いお)の人柄が活き活きと描写されていて、非常に興味深い。一見なんということもない文章だけれども、書けと言われたら絶対無理と即答してしまうだろう。なんとも表現しにくいのだが、さらさらさらと流れるように書いてあるのである。
二人(引用者注:優善と塩田良三)は酒量なきにかかわらず、町々の料理屋に出入し、またしばしば吉原に遊んだ。そして借財が出来ると、親戚故旧をして償わしめ、度重なって償う道が塞がると、跡を晦ましてしまう。抽斎が優善のために座敷牢を作らせたのは、そういう失踪の間の事で、その早晩還り来るを候ってこの中に投ぜようとしたのである。
温厚な抽斎をして座敷牢を作らせるとは、どれほどひどかったんだか。この二人は、この後もしばらくひどい有様だが、最後の方でちょっと状況が変わってくるのが面白かった。明治維新という大きな変化も影響しているのかもしれない。
鰻を嗜んだ抽斎は、酒を飲むようになってから、しばしば鰻酒ということをした。茶碗に鰻の蒲焼を入れ、些しのたれを注ぎ、熱酒を湛えて蓋を覆って置き、少選してから飲むのである。
これはちょっと気になった。どんな味がするのかな。
咀嚼できてないからだと思うが、感想を書くのが非常に難しい。文を切り出すと意味がなくなってしまいそうなので、自分の言葉で書くか。淡々としているようでいて、一癖ある登場人物が次から次へと出てきて、全然飽きさせなかった。質素な生活をしながら、惜しみなく書物を買い、客をもてなす。抽斎の没後、子供たちは、大きく変化する時代に適応しながらなんとかやっていく。普通という言い方が適切じゃないかもしれないけど、貴族でも大名でもない普通の人々の生活が具体的に記されていてよくわかる。マクロに見ると一行、二行で終わってしまうものも、ミクロに見れば壮大なストーリーとなる。当たり前のことだけど、いつの時代も人は、いろいろ悩んだり、とりあえずチャレンジしてみたりして生きているんだな。うまく表現できないけど、そんな読後感だった。