貧困のない世界を創る

今からちょうど一年くらい前に、ムハマド・ユヌスが来日すると知ったので、講演会に参加した。そのときに買ったのがこの本。
貧困のない世界を創る (単行本)
415208944X
この人すごいけど、この本って同じことを繰り返してて、長ったらしく間延びして、読みにくいなあというのが率直な感想。ダノンと提携してグラミン・ダノンでヨーグルトを販売するところは非常に面白かった。フランク・リブーと話す場面が印象的。

ソーシャル・ビジネスの企業は、配当をまったく支払いません。会社が自己持続できる価格で製品を販売するのです。会社の所有者は、ある一定期間で、会社に費やした投資分を取り戻すことができます。しかし、配当という形での利益は、投資家には全く支払われることはありません。その代わり、利益はすべてその中にとどめておくことができます。つまり融資の拡大や、新たな製品やサービスを生み出すこと、あるいは、世界にとってよりよいことをする、ということです。

CSRでもチャリティでもないソーシャル・ビジネス。配当を出さないけれども、出資金はきっちり返している。明確に線引きをしているのが興味深いと思った。ソーシャルアントレプレナーって結局ファンドレイジング重視のチャリティっぽいのが多いという印象を抱いていたけど、このソーシャルビジネスは面白いと思った。

私たちは、借り手には自分自身を大切な存在であると感じてほしい。ビジネスの経験がまったくないからとか、お金を手にしたくないからと言いながら、借り手が融資の申し出を受けるのをためらうときには、私たちは、彼女が自分自身のビジネスのためのアイデアを思いつくことができるのだと確信させる。初めてのビジネスの経験?それは問題ではない。あらゆることがらは、どこかで始まらなければならないのだから、と、私たちは借り手に言うのである。

単にお金を貸すだけじゃなくて、借り手に頭を使わせるところがいい。あらゆることがらは、どこかで始まらなければならない。まさしくそう思う。

CSRに1セントを捧げる会社が、社会問題を悪化させる金儲けのためのプロジェクトに99セントを費やしているケースもある。

1%寄付したからって、他の全てが正当化されるわけじゃない。こういうこともずばっと書いてあって、なかなか面白かった。

利潤の最大化と社会的利益の2つの相反する目標を抱いてビジネスを経営するのは、非常に難しいだろう。〜中略〜たとえば、食品会社の最高経営責任者に対して、「利益を最大にしたうえで、できるかぎり安い価格で高品質な食事を提供し、貧しい子供たちが確実に栄養を摂取できるようにすること」という命令を下すと仮定しよう。最高経営責任者は、その指示のどの部分が本当の指示なのか、混乱するはずだ。

両立することは不可能じゃないかもしれないけど、プライオリティの問題はついて回る気がする。踏み越えてはいけない一線はどこにでもあるんだろうけど、現在営利企業において最も重要なことであり、最も期待されていることは、利益を出すことなんだろう。雇用を守るとか、地域に貢献するとか、株価をどうするとかいろいろあると判断が遅れても無理ない気がした。

今日では、携帯電話を使える農民は、2,3本の電話をかけるだけで店を比較し、市場価格の変動をチェックすることができ、地方の商人や仲買人に、より公正な取引を求めることができるポジションに身を置いているのだ。情報はパワーであり、携帯電話の革命は、最終的にそのパワーのうちの少しの部分を農村の貧しい人々に授けることになった。

携帯電話が与えたインパクトというのは、先進国にいては想像できないほど大きいのかもしれない。情報がパワーだという非常にわかりやすい例。こういう変化は、事例を知るだけでもわくわくしてくる。

ヨーグルトが朝に製造ラインを出発し、48時間以内に子供たちの胃に収まるようにするのだ。私たちのヨーグルトの風味、口あたり、酸味が一貫していることを保証するには、これが唯一の方法に違いない。
私たちは頭の中にこういった普通ではない必要条件を置いて計画を立て始めた。私たちが編み出した流通システムは、グラミン銀行の借り手であり、商品を供給する村に住んでいる「グラミン・レディー」を使うというものだ。この女性たちは、私たちのヨーグルトの販売計画の鍵になるだろう。そして、彼女たちの助けによって、冷蔵庫のあるなしにかかわらず、ヨーグルトの配達と販売の過程を経てもなお、おいしさとヘルシーさを保つことができるだろう。

冷却システムを整備するよりも、流通のスピードを上げるのが面白い。そして顧客ターゲット層の販売員がグラミン銀行の借り手というのも、よくできている。グラミン・レディーは電話事業にも関わっていて大活躍。
そんなわけで、同じことを繰り返し言ってて無駄に長くなっているが、ユヌス氏のこれまで取り組んできた試みが具体的にわかりやすく紹介されていて面白いし、ソーシャルビジネスという考え方もなかなか斬新なので、一度読んでみる価値はあると思う。

すべての人間には、単に自分の世話をするだけではなく、世界全体の幸福を増加させるために貢献しようという内なる能力がある。自分の可能性についてある程度探索する機会を得た人もいる。しかし多くの人は、彼らが生まれつき持っている、この素晴らしい贈り物を開ける機会をまったく得ていないのだ。彼らは自分たちの贈り物を活かすことなく死んでいく。そうなれば、世界は彼らがなしとげたかもしれない成果の全てを奪われたことになるのだ。
グラミン銀行での仕事で、私は最も貧しい人々と密接に関わることができた。この経験は、人間の創造性に対する揺るぎない信念を私に与えてくれた。彼らの誰一人として、飢餓や貧困の災いを受けるために生まれてきた者はいないのだ。災いを受けたそれぞれの人には、この世界の他の誰かと同じだけ成功する可能性が備わっているのである。
この世界から貧困を根絶することは可能である。なぜなら貧困は自然な人間の姿ではないからだ。それは人の手によって彼らに課されたものなのである。できるだけ早く貧困を終焉に導き、貧困を永遠に博物館に入れるために、この身を捧げようではないか。

自分がこんなことを言える日は来るのかな。なんとなくそんなことを考えた。