タックスヘイブンの続き

タックスヘイブンという本の感想の続き。

なぜスイスの銀行が(政府に対してさえも)秘密厳守できるのか

スイスの銀行家たちは、彼らの銀行の秘密を不可侵の聖域にしたのは、ユダヤ人の財産をナチスから守るためだと信じ込ませようとしているが、後に述べるように、それは何よりも彼ら自身の利益を守るためであった。

1932年6月、フランスで財政赤字の削減のため、脱税を見逃すまいとし、スイスに目を付けて本格的な摘発に乗り出した。そして、24万5000フランの現金、スイス・フラン、情報ファイル、現金出納簿、およそ2000人の名前を記載した10冊のノートに行き当たった。新聞がこのノートにあった名前を追求し始め、スイス・ネットワークの大きさが明らかになる。さらにフランスからの圧力がかかったとき

もう取り返しの付かないことが起きていた。スイスの銀行の外国人顧客の多くがあわてふためいて預けてあったお金を引き出し始めたのである。今度は、スイスの新聞ジャーナリズムが、この大規模なお金の引き出しを心配し始める。バーゼル商業銀行は巨額な額を払い戻ししなければならず、ジュネーブ割引銀行はもうやっていけなくなるかもしれない。

そこでスイスでは銀行の秘密厳守を強化し、銀行の秘密厳守への侵害を、職務違反として刑事訴追の対象にした。

アメリカ合衆国議会が税金逃れを組織犯罪について絶えず聞き取り調査をし、そのたびにスイスの銀行の秘密厳守が問題になるので、スイスの銀行家たちは1966年、ユダヤ人の資産保護という伝説をでっち上げたのである。

こういう歴史的背景があったとは知らなかった。実に賢い戦略である。

ロンドン市場が最大のタックスヘイブンとなった経緯

ボルトンは、特権的な観察のできる立場にあったので、ポンドが世界の基軸通貨としての位置を決定的にドルに奪われていることを、早くから認識していた。しかし彼は同時に、ロンドンの金融街シティーが、アメリカ合衆国以外のところで流通するドルのビジネスが集中する場所となることによって、世界的な金融市場のトップに立てることを確信していた。

ここでイングランド銀行は、ユーロダラーという規制を受けない新市場のやりたい放題を放置するだけでなく、この市場の生み出す危険性を最小限に評価することで、国際決済銀行に加盟する各国の中央銀行が表明する危機感を鎮めようとした。その結果

  • シティーは2006年現在世界第1の金融市場であり、外国の銀行が、最初に参入したがる場所でもあるからである。さらに言うなら、ここは世界の為替取引の約三分の一が行われ、銀行がもっとも多くの国際資産を所持している場所でもある。
  • 「重要なのは、国際貿易がポンド建てで行われることではなくて、それがロンドン市場で行われることである」
  • 「同額の貸し付けを何十回となく繰り返し行うことが可能なこの市場においては、金を借りた者が、その金を別の長期や短期の貸し付けに使うのか、貿易や国内取引に融資するために使うのか、あるいはサヤ取り売買や投機のために使うのかということを、いかなる貸し手も知ることはできない。貸し手は自分のユーロダラーの預金が、どの国、どの企業に送られるのか、皆目わからないのである。最終的な借り手がユーロダラーをどう使うかは、最初の貸し手は推測することすらできない。なぜなら、貸し手の方は、最終的な借り手の素性を知るための、いかなる手段も持っていないからである」

国家というレベルだけど、ルールを適宜変更しながらいかに有利に物事を進めていくのかという点で、これらのケースから学べることはいろいろとありそうだ。
タックスヘイブン—グローバル経済を動かす闇のシステム (単行本)
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