最初にダニエルの目をとらえたのは"移動式住宅("トレーラーハウス"より聞こえがいい)"という区分の繰り上げ返済率が高いことだ。トレーラーハウスは、車輪のない普通の住宅とは異なる。購入した瞬間から価値が下がっていく。トレーラーハウスの買い手は、一般住宅の買い手と違って、二年以内に借り換えをしても得になることはないはずだ。なぜ、こんなに早く返済されているのか?ダニエルは自問した。「筋が通りませんよね。でも、そのうち、繰り上げ返済の率がそこまで高いのは、強制的なものだからではないかと思えてきました」
何かがおかしいという感覚を持ち、その背景にある理由を考える。
"強制的な繰り上げ返済"とは、実際には"債務不履行"によるものだ。トレーラーハウスの買い手たちが債務を履行できなくなり、ハウスは差し押さえられて、金を貸した側は元々のローンの返済分の一部を懐に入れているという仕掛けだった。
現実というのは得てしてそういうものなのかもしれない。
『"こいつ"を空売り(ショート)して、大儲けする日が来るだろう。"こいつ"は必ず粉々に吹っ飛ぶ。わからないのは、いつ、どうやって吹っ飛ぶかということだけだ』
いつだって難しいのはタイミング。
CDSは、マイケル・バーリの投資目標につきまとう最大の不確定要素であるタイミングの問題を解決してくれそうだった。バーリの予測では、2005年初めに組まれたサブプライム・モーゲージ・ローンはほぼ確実に焦げつくと思われた。ただし、金利が不自然なほど低く設定されていて、二年間は見直しもなされないので、焦げつきが始まるまでには2年の猶予がある。
時期を見極められるかが鍵となる。
「あれが、マイク・バーリの本領ですよ。十倍に跳ね上がるけれど、その前にまず半分に下がる」
リスクを取るというのがこういうことなんだな。
人は、2、3、年間の+5%乃至-5%の範囲内ではしゃいだり落ち込んだりしがちです。しかし、ほんとうの問題は、10年という長い目で見て、誰が年率10%以上の利回りを稼げるかということでしょう。
じっくり待つことが大切なのがよくわかる。
昔ながらのバリュー投資家がオプションに手を出したがらないのは、割安株の価格変動のタイミングを測る力が求められるからだ。グリーンブラットに言わせれば、ある株価が将来の出来事の呼び水となることが明らかで、その出来事の日にち(例えば、吸収合併の日付や、判決期日)がわかっているなら、バリュー投資家が自らの見解を示すためにオプションを採り入れるのは、道義にもとる行為ではない。
タイミングの大切さは頭ではわかっているけれども、まだ実感としてわかるレベルには達していない。
キャピタル・ワンの株を、この先二年半、いつでもひと株40ドルで買える権利が、3ドル強で手に入る。
ここまでリスクが限定されるというのは興味深い。
もし株価が翌年ゼロか100ドルになる株があるとしたら、それをひと株50ドルで買うための1年ものオプションを3ドルで売るのは、愚行でしかない。なのに、市場ではそれに類することが頻繁に起こっている。
こういうおかしな値付けのものを見つけて、そこを突くという繰り返しなんだろうな。
図体の大きなゴールドマン・サックスは、この界隈のがき大将で、ゲームを取り仕切っている。小柄で太っちょのメリル・リンチは、いつもいちばんうだつの上がらない役をあてがわれるが、仲間に入れてもらえるだけで喜んでいる。そして、下っ端がむち打たれるゲームが、延々と繰り広げられる。メリル・リンチは、序列の一番下の地位にずっと甘んじてきたのだ。
実情はよく知らないけれども、なんとなく表現が面白かった。
もしかすると、最も的確な"投資"の定義とは、"自分に有利なオッズで行なう博打"かもしれない。サブプライム・モーゲージ市場のショート側にいた人々は、自分たちに有利なオッズで博打をしていた。
この本全体を通じて感じたことは、自分が何をしているのかもっと知った方がいいということである。もし全体像があまりにも複雑過ぎて理解できないのならば、なぜそれを知らずに物事を進められるのかを考えた方がいいだろう。全てを知ることはできないし、ある程度ブラックボックスになるのは避けられないのは事実。でも、ブラックボックスならブラックボックスでどの程度出力に振れ幅のあるブラックボックスか想定しておくに超したことはない。
そんなことを感じたが、単純に読み物としても面白い本だった。