シンガポールでビールをつくった(法律編)
ホームベーカリーでパンを焼きながら、この高温多湿の国で何かできることはないかなと考えていて、ふとパンができるならビールもできるのではないかと考えたのは半年前のこと。どちらもメソポタミア文明を起源とするのできっと似たようなものだろうと考え、具体的にどうしたらいいかを調べていて以下のサイトに行き着いた。
Homebrewというとパッケージ管理システムを思い出すが、家で醸造することをHomebrewという。ここはシンガポールで数少ない醸造に関する材料や道具を売っている店である。ibrewという店もあるがそちらに行ったことはなく、こちらHomebrewという店に月一回くらい顔を出している。
そもそもお酒を作っていいのかという疑問が当然ながらあった。例えば日本には酒税法がある。
アルコール分一度以上の飲料が酒類に指定され、税金を納める義務が発生する。少しお金を払うくらいならいいが、そもそも製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならないというのが厄介である。しかも誰でも免許が受けられるわけではなく、一年間に製造しようとする酒類の見込数量がビールだと60キロリットルに達しない場合は免許が受けられないのだそうだ。個人でこんな途方も無い量のビールを製造するはずもなく、現実的な話ではないということだ。
一方シンガポールは、2004年2月にHomebrew schemeという家庭で個人的に消費するための酒造りに関する免許制度が導入された。しかしシンガポールの税関(Custom)はこの免許制度を見直し、健康に害がなく食品衛生上も世の中に害がない程度なら免許を不要にしてもいいのではないかと判断した。
具体的には2008年4月の税関法改正で税関令にHomebrewの除外条項が設けられた。正式名称はCUSTOMS (HOME-BREWING OF FERMENTED LIQUORS) (EXEMPTION) ORDERであり、訳は「税関令・発酵による酒類の自家醸造の例外規定」とでもなるだろう。どんな場合に免許が不要になるかが列挙されている。
- 18歳以上
- 製造する酒が発酵によるもので、蒸留によるものではないこと。
- 製造する酒の量が以下の量を超えないこと:ビールに関しては一ヶ月に世帯あたり30リットル、他の発酵による酒に関しては一ヶ月に世帯あたり合計30リットル。
- 製造する酒は個人使用目的であり、販売目的ではない。
- 製造活動は近所迷惑にならず、環境に悪影響をもたらさない。
- 自家醸造は、個人の家庭内で行われるもので、公団住宅や私有地でもよい。
これらの条件を満たす場合、免許が不要となる。焼酎やウォッカのような蒸留による酒は違法だが、ビールや日本酒、ワインのような発酵による酒であれば計30リットルまで製造して良いということだ。下記のシンガポール税関のサイトに詳しく書いてある。
Home-Brewed Beer & Other Fermented Liquors | Singapore Customs
ちなみに焼酎を使った梅酒は問題ない。それは既に蒸留して製造された焼酎を買ってきて梅を漬け込むので、家で蒸留しているわけではないからである。
税関ついでにもう一つ。先日、シンガポールで作ったビールを6本持って日本に一時帰国した。もちろんきちんと空港の税関で申告した。
3本までは免税の範囲内なので、それを超える3本分の税金を支払えば良いということだった。ビールの税金は1リットルあたり200円なので、720mlを3本だと2リットルと少しだが、400円ということだった。自己申告で特に実物をチェックするようなことはなく、その場で計算した金額の請求書を渡され、税関の後ろにあるみずほ銀行で400円支払ったらそれで終わり。案外すんなり終わった。
そんなわけで日本だと1%を超えるものを許可無く作ることはできないが、シンガポールでは蒸留さえせず月30リットルまでなら許可無くお酒を作ることができるのである。今計算してみると、この半年の間で毎月だいたい月20リットルくらいお酒を作っている。
法律編 (この記事)
http://pho.hatenablog.com/entry/2015/06/13/014204
製造準備編
http://pho.hatenablog.com/entry/2015/06/14/223627
製造編
http://pho.hatenablog.com/entry/2016/01/20/013335
ラベル編
http://pho.hatenablog.com/entry/2016/01/21/014145