当たり前のことができていないのが新興国(2021年5月5日の記録)

インドに住んでいるけれども家から出ていないので情報源はネットのニュースサイトになる。そういうわけで見えている世界は他の国から見ている世界と何ら変わりがない。違うとすれば、自分の生活、いざというときの自分の命に直結しそう、という緊張感だけである。元々自分の住んでいる地域以外のことはインドのことでもネットのニュース以上のことはわからなかったので、何も違いはないのかもしれない。 そのなかで自分が興味深いと思ったニュースは、私の住むHaryana州で液体酸素を運んでいたタンカーが消えたというニュースである。

病院で酸素が足りないと言い始めていた頃に流れてきたニュースである。ブラックマーケットで高値で取引されるなんて話もあるので、そういう方面に消えていったのかも知れない。そこで終わればいつものインドなのだが、GPSトラッカーで位置情報をトラッキングしようという話が出てきた。

当たり前といえば当たり前の話だけど、管理しようという姿勢があるんだなというのが興味深かった。 それに似た話としてコロナ治療薬Remdesivirのニュースも最近良く見かける。私の住むグルガオンの病院職員がブラックマーケットに横流ししていたそうだ。それを受けて在庫をきちんと管理しようという話が出ている。

これも当たり前といえば当たり前なのだが、当たり前ができていないのが新興国である。それにどこの国の人であれ人間とは悪意の有無に関わらず信用できないものだから、システムで管理して全部記録が残る方向に向かうのは大きな進歩だろう。いろいろな問題に実際に直面してそこから改善していく気があるのであれば、それは喜ばしいことだと思う。

インドワクチンサイトのOpen API(2021年5月3日の記録)

この1年間完全リモートワークなので、インドに居る理由は正直一切なくて、帰ろうと思ったらいつでも帰って良くて、自分の意志でインドに残っている。日本に行ってもこんな快適な在宅勤務環境がないからというのが主な理由だったが、今帰国したらどう考えても空港と飛行機で感染するだろうという理由もある。それを裏付けるようなニュースも出てしまった。

この人飛行機乗って日本に帰国できてるということは、インドで感染してなくて問題なく陰性証明書を取れているし、酸素が潤沢にある日本の医療機関で亡くなっているのでインドの医療崩壊とも関係がない。とりあえず空港と飛行機怖いと思った。で、インドでじっとしていれば安全かというとそうでもないというニュースも出てしまっている。 

この人がどれだけ外出していたのか、どんな持病を抱えていたのかもよくわからないが、インドでじっとしていてもどうにもならないようである。 となるとワクチンか、ということになる。

https://www.cowin.gov.in/

インドのワクチンサイトCowinにはOpen APIがあって、日曜日に色々JSON形式のデータ取得を試したのでどんなデータが取れるのかはわかっている。これで45歳以下の人のワクチンスロットのアラートが来たら便利だなーとなんとなく思っていたら、既に作った人がいた。 

https://getjab.in/

https://under45.in/

今TelegramでGurgaonのワクチンスロット情報を購読している。意外と45歳以下のワクチン供給もありそうなので、今月と来月にタイミングを見計らって予約してワクチン2回接種し、あとはひきこもるという作戦がどうにかなりそうである。

今年も暑いインド生活(2021年5月1日の記録)

最近の動向としては、気温が連日40℃まで上がった結果ドアが膨張して開閉しにくくなった。それから高温と乾燥が原因か壁の漆喰の傷みが激しく、壁にがっちりネジ止めしているタオルかけが落下しそうである。まあ去年も2年前もこの季節を経験しているので、あまり驚きはない。

さて今週末はグルガオンもロックダウンとのことであるが、毎週注文しているIrohaさんから普通にパンも肉も日本米も届いたし、週3回部屋の掃除をしてくれているメイドもいつも通り来て掃除してくれている。zomatoから昼食も届いたし、自分の生活スタイルには一切影響なかった。

家の周りのコロナの状況については、同じフロアの一世帯が陽性者4名の隔離期間2週間を終え、張り紙が剥がされていた。同じフロアのもう一世帯の陽性者3名の隔離期間もあと2日で終わるようであるので差し迫った危機は回避できそうである。5月1日から18歳以上に対してワクチン接種開始ということなので、すぐ行くかどうかは別としてとりあえず電話番号とIDをアプリ上で登録してみた。次のステップはどの病院でいつワクチンを接種するか選択するプロセスである。とりあえず今の時期は外出したくないな、ワクチン接種で感染とか笑えないって思っていたが、そんな心配をするまでもなくほとんどの病院がまだ45歳以上しか受け付けておらず、18歳以上を受け付ける病院もすぐに予約で一杯になっている。

慌ててこれから日本に戻ろうとしても、PCR検査を受けるために外出して感染し、混雑したデリー空港でまた感染し、飛行機の中で感染すると考えられるわけで、一ヶ月くらいひきこもってどこかのタイミングで2回ワクチンを接種するのが最も現実的で望ましいかと思った。

同じフロアに感染者がいる生活(2021年4月25日の記録)

1月19日にコルカタから戻ってきて以来旅行に行ってない。もう3ヶ月も経過している。2月3月は仕事が立て込んでいて4月こそはと思っていたが、もう手遅れな状況だ。どんなに楽観的に考えても4〜5ヶ月後までインド国内旅行は無理だろう。

さて今住んでいるグルガオンの状況だが、住んでいるコンドミニアムの同じフロアで2世帯合計7名が感染しているので、去年よりもよほどピンチだ。1世帯目が4月13日から2週間、2世帯目が4月19日から2週間、Home quarantine状態である。エレベーターホールで遭遇すると感染ってしまうので、デリバリーのタイミングも気をつけている。5月1週目くらいまでやり過ごすことができれば、家周辺の安全は一応確保できそうである。コンドミニアムから出られなくてもいいけど、デリバリーのピックアップくらいは気軽にやりたい。

ちなみにインドでは5月1日から18歳以上全員がワクチン接種の対象となるらしい。おそらくアストラゼネカのウイルスベクターワクチン(covishield)を接種することになる。4月28日からcowin (https://dashboard.cowin.gov.in/)で登録受付を開始する。ワクチン接種のために外出すること自体が感染リスク高そうなのは気がかりである。

ひきこもり生活として玄関のドアを開けなければ空気感染することないだろうと思っている。去年修理したおかげでエアコンが問題なく動作するのでこの暑さも自宅でなんとかなりそう。本当は高原の避暑地で働きたかったのだがこういう状況になってしまって非常に残念である。

ワクチンはいつ接種できるのか

現在インドでは新型コロナウイルスのアクティブな感染者数(発症から2週間以内の人)が17万人を下回り、ありがたいことに世界で16位まで後退している。昨年9月には100万人を超えていたのでインドの検査能力は少なくともこのくらいはあり、検査が足りていないとも思えず、ある程度実際に収束しつつあると考えられる。その理由としては、単純に9月頃に感染した人々の免疫が持続しているためだろう。

現在のアクティブな感染者数のうちケララ州とマハラシュトラ州が全体の7割を占め、他の地域では非常に落ち着いた状況となっている。ちなみに私の住むグルガオンは人口約100万人に対してアクティブな感染者数が400人程度となり、一時期と比べてもはや無視できる程度の数値となっている。感染による免疫が半年程度と考えると3月くらいまではこの状態を期待できるが、6月頃にまた波がやってくるのかなと思ったりしている。

そんなインドで最近話題となっているのはワクチンである。Ministry of Health and Family Welfareのサイトに詳細な情報が公開されている。

https://www.mohfw.gov.in/covid_vaccination/vaccination/index.html

特に2020年12月28日更新のGUIDELINESという148ページあるPDFファイルが詳しい。Virus Vaccine, Viral vector vaccine, Nucleic acid vaccines, Protein based vaccineに分けてそれぞれ進捗状況を説明し、インドで候補となる9つワクチンの臨床試験の進捗状況をまとめている。

現在認可が下りているのは以下の2つである。

  • Covishield (Astra Zenecaが開発、Serum Institute of Indiaが製造)
  • Covaxin (Indian Council of Medical Researchが開発協力、Bharat Biotech Internationalが製造)

どちらも2℃〜8℃で保存可能であるため、-70℃での保存が求められるファイザーRNAワクチンと比べて効果はやや落ちるがインドで現実的に扱えるワクチンとなっている。

上記のガイドラインにあるワクチン接種証明書のサンプルによると2021年4月、7月、10月のように3ヶ月ごとに計3回接種することを想定しているようである。日本の厚生労働省の資料では28日間隔で2回接種とあるので2回で十分かもしれない。またいつどこでどのワクチンを接種したかという情報管理のため、Co-WINというアプリが使用されるとのこと。

ワクチン接種の対象者についてはフェーズ1として以下の3億人を想定している。

  • 医療従事者(1000万人)
  • 国境警備隊や警察などのフロントラインの労働者(2000万人)
  • 50歳以上の高齢者(2億6000万人)
  • 合併症を持つ者(1000万人)

高齢者や合併症を持つ者への接種を3月末までに開始し、このフェーズ1の3億人に対して2021年夏までにワクチン接種を完了させるとのことである。どう考えても2回接種を行う余裕はなさそうなので、少なくとも1回という意味だろう。

フェーズ2以降のことは何も言及していないが、2022年末までには13億人カバーできるようにするという報道も見られる。ちなみにワクチン接種は義務ではなく、自分が該当者となったタイミングで自ら登録しないと接種できないため、実際にワクチン接種される人の数は大幅に減ることも考えられる。

2021年1月16日にインドでのワクチン接種が開始されて約半月が経過し、現在約370万人のワクチン接種が完了したとのことである。このペースは他国と比較して早いが、単純計算で年間9000万回に過ぎず、インドの人口を考えるとまだまだ加速していく必要があるだろう。

ちなみにこれらのワクチンはインド国外へも提供されている。バングラデシュブータンモルディブ、モンゴル、ミャンマー、ネパール、バーレーン、ブラジル、モーリシャス、モロッコオマーンセーシェルスリランカの13カ国に出荷されたそうだ。インドは中国を凌ぐ世界最大のワクチン製造国であり、Covishildは月間5000万回分製造され、その製造能力は3月までに30%増強されるとのことである。そう考えると、インドのワクチン接種プロセスで今後想定されるボトルネックは、製造というよりは現場オペレーションも含めたロジスティクス側なんだろうかと想像している。

最後に自分がいつワクチン接種を受けられるかと考えたとき、フェーズ2の内容次第であるが、フェーズ1が予定通り2021年夏で完了したならば、2021年末~2022年初め頃が現実的なところだろうか。ワクチン接種証明書がないと入国できないとか飛行機に乗れないとか、そういう具体的な不便に直面する前にワクチンを接種しておきたいものである。

2020年のアウトプット一覧

改めて数えてみたら今年後半だけで10回もウェビナーをしていた。10分だけのもあれば1時間話すのもあるが、内容もほとんど重なっていないのでひたすら資料を作っていた気がする。そういえば記事もたくさん書いたなあと思ったのでアウトプットをリストにしてみた。タイトル並べて見てみると「アジア新興国、テクノロジー、法律」の3つのキーワードの間で行ったり来たりするのが今の自分に合っているのかなとなんとなく思った。

○2020年記事

2019年度インドIPG特許商標ワーキンググループ報告書
2020年3月 バングラデシュ知財概況
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/in_ipg_report_202003.pdf

AW Alert
5月3日 India 8: インド・COVID-19追跡モバイルアプリ「Aarogya Setu」
https://www.asiawise.legal/blog/aw-alert-india-8-covid-19-aarogya-setu-2020-5-3?categoryId=175771
5月19日 India 9: COVID-19とインドの遠隔医療
https://www.asiawise.legal/blog/aw-alert-india-9-covid-19-2020-5-16?categoryId=175771
6月1日 Asia 2:COVID-19感染拡大防止と個人の位置情報(シンガポール・TraceTogetherとインド・Aarogya Setu)
https://www.asiawise.legal/blog/aw-alert-asia-2-covid-19-tracetogether-aarogya-setu?categoryId=175771
6月8日 India 11:COVID-19とオープンソースソフトウェア
https://www.asiawise.legal/blog/aw-alert-india-11-covid-19?categoryId=175771

AW Letter
1月31日 vol.18 インドネシア最新知財情報
https://www.asiawise.legal/blog/aw-letter-vol-18?categoryId=175724
5月22日 vol.19 インド特許発明の国内実施報告書(Form 27)について
https://www.asiawise.legal/blog/aw-letter-vol-19?categoryId=175724
7月2日 vol.20 デジタルトランスフォーメーション(DX)時代の知財部の役割
https://www.asiawise.legal/blog/aw-letter-vol-20?categoryId=175724

Business Law Journal「アジア法務の思考回路」
8月21日 デジタル・トランスフォーメーション(DX)化における法律サポート
http://www.businesslaw.jp/contents/202010.html
12月にもう一つ公開予定

スタートアップのインド戦略(法律面からのアドバイスを担当)
8月10日 Vol.003 : 激動のインドヘルスケア市場(①遠隔医療編)
https://g-japan.in/news/start-up-vol-003/
8月30日 Vol.004 : 激動のインドヘルスケア市場(②オンライン薬局編)
https://g-japan.in/news/start-up-vol-004/
10月2日 Vol.05 : インドオンラインフードデリバリー市場(②食料品デリバリー編)
https://g-japan.in/news/start-up-vol-005/
10月31日 Vol.07 : 激動のインドヘルスケア市場(③医療ロボット編)
https://g-japan.in/news/start-up-vol-007/
12月にもう一つ公開予定

○2020年ウェビナー

AW Webinar 実務シリーズ
#2 「デジタル時代のプライバシー 個人データ保護の実務はどうなるか」
7月22日 接触確認アプリの諸問題
https://asiawisewebinar2.peatix.com/view
#3 「日本企業×アジア クロスボーダーDXの実務」
8月19日 DXを推進するために法務・知財部門は何をする必要があるのか
https://asiawisewebinar3.peatix.com/view

大阪発明協会会員向け勉強会 インド知財研究会2020 On Line
8月27日 第1回 インドで特許を取る意味があるのか
http://www.jiiiosaka.jp/indiaIP2020-1.pdf
9月24日 第2回 インドの審査官はしっかりと審査しているのか
http://www.jiiiosaka.jp/indiaIP2020-2.pdf
10月15日 第3回 インドの特許庁が十分にデジタル化しているのか
http://www.jiiiosaka.jp/indiaIP2020-3.pdf
11月12日 第4回 インドの代理人はなぜ聞く人ごとに違う答えが返ってくるのか
http://www.jiiiosaka.jp/indiaIP2020-4.pdf
12月10日 第5回 インドの知財調査会社をどのように活用する事ができるのか
http://www.jiiiosaka.jp/indiaIP2020-5.pdf

JETRO主催バングラデシュ知財セミナー
10月8日 バングラデシュ知財概況
https://zoom.us/webinar/register/WN_2482g5pNSeWe6Pur0C6-iw

デジタル化する新興国 出版記念トーク
10月17日 インドのデジタル化とデジタルエコノミーのフィールドワーク
https://note.com/takasu/n/n5fbb12776d19

関西特許研究会 国際部会オンライン会合
12月17日 インド特許実務の最近の動向 (資料はできた)
http://ktk-ip.com/kaigou/2020/12/20201217.html

COVID-19とオープンソースソフトウェア

インドの接触追跡アプリAarogya Setu2020527日よりオープンソースソフトウェアとなりました。アプリのソースコードgithub上に公開され、Apache2.0のライセンス条項に従う限り、商用利用や改変、再配布も可能となります。既に多くの人々がソースコードに目を通し、github上で活発に修正依頼や機能追加提案が行われています。本稿ではオープンソースソフトウェアの特徴を解説するとともに、接触追跡アプリにおいてソースコードを開示する意義について考えていきたいと思います。

1. オープンソースソフトウェアとは

ソフトウェアは、一般に何らかのプログラミング言語で書かれたソースコードを、コンピュータが処理できる機械語で書かれた実行可能プログラムに変換したものです。このため、ソースコードのことをソフトウェアの設計図と呼ぶこともあります。このようなソースコードを秘匿せずに公開した方が様々なメリットがあるという考え方が広がり、現在では様々なソフトウェアのソースコードが公開され、所属を問わず多くの人々が開発に関わるようになっています。

単にソースコードを公開するだけでは、そのソースコードをどのように利用すれば良いかがわかりません。例えば機能を追加するような改変を行って再配布したいと思ったとき、そのような行為が許可されているか不明です。そこで重要となるのが利用条件を定めたライセンスです。オープンソースの定義に合致するライセンスでソースコードが開示されたソフトウェアをオープンソースソフトウェアと呼びます。Aarogya SetuApache2.0というオープンソースの定義に合致するライセンスでソースコードが開示されたオープンソースソフトウェアとなりました。

https://github.com/nic-delhi/AarogyaSetu_Android

2. 接触追跡アプリのソースコードを開示するメリット

ソースコードを公開するメリットの一つとして品質の向上が挙げられます。注目されているOSSでは、一企業や一組織が動員可能な人員とは比較にならないほど多くの人々がソフトウェアの開発や検証に関わります。様々な角度からソースコードが検証されると、プログラムの不具合や設計上の欠陥による脆弱性が指摘され、ソフトウェアアップデートにより脆弱性が解消されます。Aarogya Setuもこのような脆弱性の解消によるセキュリティの向上を期待して、オープンソースソフトウェアとなりました。インド政府は更にプログラムの不具合を見つけた人に報奨金を出すことにより、ソフトウェアのセキュリティを向上させようとしています。

ソースコードを公開するもう一つのメリットとして、ソフトウェアの透明性を高めて、信用を得ることが挙げられます。ソースコードが公開されていないソフトウェアでは、どのようなデータが取得され、取得されたデータがどのように処理され、どこに保存されるのかがわかりません。ソフトウェアの開発元がプライバシーを侵害するような挙動をしていないと説明しても、実際にどのような動作をしているかわからないため信用を得られません。しかしながら、ソースコードが公開されて誰もが挙動を検証できる状態になり、そのソフトウェアが特に不審な挙動をしていないと確認されると、信用を得ることができます。他人との接触情報や個人の位置情報のようなデリケートなデータを扱うソフトウェアでは特に、適切にデータを扱っていると示すためにソースコードを開示することが信頼につながります。

3. 最後に

公開されたソースコードに基づいて、ソフトウェアによる個人情報の取り扱いを誰もが監視できるようになったことは、Aarogya Setuがインドの国民からの信用を得る上で大きな前進です。このように透明性を高めて信用を得ることは、組織や企業の垣根を超えたクロスボーダーの協業、そしてオープンイノベーションにも通じるものがあります。