プロの論理力

4396612508プロの論理力!―トップ弁護士に学ぶ、相手を納得させる技術
荒井 裕樹
祥伝社 2005-09

by G-Tools

アマゾンのレビューでは意見が二つにわれているが、個人的な感想を言わせてもらうと
この本は去年読んだ本の中で5本の指に入る。5本の指のあと三冊は近々書く予定。
まあ三冊ともレビュー済みなのでピックアップするだけなんだけど。レビューに

本書は10・20代の若者、または職歴が5年未満の方向けだと思います。

という意見があってなるほどと思った。意見がわれた理由がなんとなくわかる。
著者は東大法学部卒業の弁護士で、青色発光ダイオード中村裁判などに携わり、
28歳で年収1億を実現したそうだ。別になんとも思わないが、世の中には
癇に障る人も少なくないんだろう。その著者が自分の弁護士としての仕事術
みたいなのや論理的にどう考えるのか、交渉をどうやってやるかについて
書いている本。非常に参考になった。

大学在学中に司法試験を受けたのも弁護士になるためではない
資格をもっていれば失業保険程度にはなるだろうし法律がわかるという
肩書きを手に入れればどんなビジネスを手がけるにしても自分にとって
大きな武器になるだろうと考えたからだ。

まずこのスタンスがいいと思う。法律に関わることが人生そのものだと
思っているより、単なる道具に過ぎないと割り切っているのがいい。
この人はその後青色発光ダイオードの裁判で有名になる東京永和法律事務所へ
行くことになるのだが、そのきっかけとなったのはその事務所の代表弁護士
である升永氏の準備書面をみたことだという。

何よりすごいと衝撃を受けたのはその準備書面が最高裁の判例を覆そうとしていたことだ
法律という枠組みでガチガチに縛られているように見える弁護士の仕事だが
精密な論理の力によってこうした厚い壁を切り崩し、新しい地平を切り開くこともできるのだ
おもしろいじゃないかと思った。

近頃法律の本を読み始めているのだが、なんとなくこの気持ちがわかった。
非常に高度な駆け引きの世界のようである。面白そうだからはやく一人前に
なりたいと思った。升永弁護士に言われた言葉が次のようなものだったそうだ。

ここでは一年目の新人だろうがなんだろうが実績さえ上げれば
年齢と関係なく評価します。10年かけて一流の弁護士になりましょうという考え方はしません。
一年目でも能力さえあれば10年選手よりも上にいくチャンスがあるんですよ。
西武ライオンズの松坂は18歳で日本一の投手になった。それに対して君はもう23歳。
5年も遅れています

これを読んで他の人はどう思うか知らないけど、正直まずいと思った。6年も
遅れているんだから。でも同時に、ここ数年で自分の中から失われていたと
感じていた負けず嫌いの性格がまだ健在であることを確認できて安心した。

地位や年齢とは関係なく強い論理力を持った人間が個人として生き残るようになるのだと思う。
裁判のうち7割は審理を開始する前に訴状と答弁書を見た段階でどちらが勝つかわかっている
高い目標を持たなければそれをクリアするために必要な情報は手に入らない。
そういう野心のある人間とない人間とでは手にする情報の量や質に無限大とゼロの差が生じると
いっても過言ではない。

読んでいくうちに弁理士だろうが弁護士だろうがやってやれないことはないと
根拠のない自信を持ち始めた自分が相変わらず面白いやつだと自分で感じた。

自分でコントロールできることとコントロールできないことをきちんと
区別し、自分がコントロールできることに集中するのが大事。

これはヤンキースの松井選手の言葉らしい。ピッチャーがどんなボールを
投げてくるのかはコントロールできないのでかまわず、自分がコントロール
できるものすなわち自分のバッティングに集中するんだとか。
変えられないものを一生懸命変えようとするより、自分が変えられるものに
集中してみようというのは当たり前のことかもしれないけど、非常に示唆に
富む言葉だと思う。まあ、一見変えられない無意味な慣例とかは変えた方が
いいんだろうけど、ここではそういうことをさしてないか。

十分な交渉力と論理力を持った代理人として個人をサポートしていくのが我々弁護士の役目だろう
個人が組織に勝つには強い論理こそが武器になるのだ
論理は目標を見据えて構築されるものだからまずは全体の状況を把握し、それを前提に目標を
設定することが必要だ。情報収集では有利な情報ばかりでなく不利な情報の収集把握にも
つとめなければならない。収集した情報を元に鳥瞰図を作っていく。

新人である私が持っている唯一の武器は時間だった。時間の量が圧倒的に多いということは情報
収集に多くの時間を割けるということだ。私にしか集められない情報、私しか知らない情報という
武器を持つことができる。ある特定の分野の仕事についてはスペシャリストになることができる。

このあと具体的にどう交渉するのかとか、どのようなロジックを組み立てて
いくのかとか詳しく書いてあり、非常に参考になる。外資系企業は給料を含めて
すべてが交渉によって成り立っていると別の本で読んだので、ここに書かれている
ことをはじめとしていろいろと交渉についての能力を身につけていきたい。