雇用の流動化と技術流出

東京大学の渡部俊也氏が面白いことを書いていたので、
ちょっと取り上げてみる。(週刊エコノミスト2005年3月15日より)

青色LED訴訟の対象となった404号特許も、薄膜製造方法の高度なノウハウに近い発明だった。もしこのとき特許を出願せず、営業秘密として管理される知的財産になっていたとしたら、発明者になんらの報奨金を請求する権利はなかった。

こういう視点はなかったけど、言われてみれば確かにそうだ。
特許になっていただけまだマシだったのかもしれない。
しかし404号特許を撤回し、今後もノウハウを特許申請しない方針にした
日亜化学では発明者が請求する権利もなくなってしまったんだな。
それも一つのやり方ではあるけれども、秘密主義ってなんか悲しい。
と思ったら、白色LEDについてなんかやってるみたいだな。よくわからない。

企業に評価されてこなかったと考えている技術者は、企業に相当の対価請求を提起するのではなくノウハウなどの技術情報を高く評価してくれる(買ってくれる)別の企業などに漏洩する可能性が高い。

そういう流れになるのはまあやむを得ない。どっちのリスクを取るのか
企業が選択を迫られているんだろうな。どっちのリスクも考えてない
会社も少なくなさそうな気がするけど。

もう一つ忘れてはならないのは技術者の生み出す知的財産の質の変化が挙げられる。
実用化に関わる可能性が高い知識を権利化した内容だったが、現在では最先端のパイオニア技術に関するものだ。いずれも小さな発明と異なり、簡単な産業化は難しい。何年もの間続けられる応用研究開発や、まったく新しい製品のマーケティングなどを経てようやく製品化できる。

これだけでなく研究そのものの質が変化していると言えると思う。
複雑化しすぎるとパーツ一つ作るだけで精一杯になるので
全体に何をやってるかよくわからなくてあまり面白くないように
感じてしまう。個人的な意見に過ぎないんだけど。
一人でもある程度なんとかできることってけっこう大事じゃないだろうか。

転職する研究者、技術者に長年勤めた企業で見聞きしたこと、考えた内容を一切使うなというのは事実上ありえない。そうであればその知識のどこまでが企業のものであり、どこまでが個人のものなのかを明確にしない限り企業と技術者がともに困る。

これは非常に気になる問題である。独立した場合には

ベンチャーであれば資本関係を結んだり、ライセンスするのであれば共同で技術移転をして互いにロイヤルティー収入を得るなど様々なオプションがあるだろう

このようにいろいろとオプションがあるみたい。しかし、転職した場合
こういうことはどう対処するんだろうかと気になっていた。


雑誌の内容はここまで。これに関連して先日のツアーネタを少々。
シリコンバレーでは日本よりはるかに雇用が流動化しているから、
こういう問題に対するノウハウがいろいろとあるんだろうなと思って、
先日のツアーで聞いてみた。英語でなんていうかよくわからなかったので
通訳してもらったけど。そうしたらシリコンバレーらしいオプティミス
ティックな答えが返ってきた。目からうろこが落ちた気がする。
守秘義務には当然サインするという。でも、前の会社のとき以上に
良いものを作ればいいじゃないかとのこと。単純に前の会社の技術を
買うためにその人を雇うわけじゃなくて、さらに上の仕事をして欲しいから
雇うわけで、前の会社でやっていた過去の遺産を食い潰していくような
人はいらないんだそうだ。常に前向きに向上心をもってやろう。


パテントというのは独占排他権であるが、イノベーションの妨げに
ならないのかという質問があったが、それに対する答えも興味深い。
スタートアップ企業はイノベーションにより成り立っているため
パテントは障害にはならないそうだ。既にあるアイデアを守る
パテントがあるからこそ、圧倒的に違うものを作るインセンティブが
生まれてきて、イノベーションが起きるという。
世の中なかなかうまくできているものだと思った
そんな簡単にできるとは思えないけど、物事をポジティブに
とらえていくというのはなかなか気持ちの良いものである。