バックミンスター・フラーという人物について、正直あまりよく知らなかった。
フラーレンだか、バッキーボールだかを見つけた人?(違)
でも、この本を読めば、年表も付いてるし、比較的わかりやすい言葉で書いて
くれているので、この人の思考の断片を見ることができる。少しは。
宇宙船地球号操縦マニュアル (ちくま学芸文庫) | |
バックミンスター フラー Richard Buckminster Fuller 芹沢 高志 おすすめ平均 「宇宙船地球号(spaceship earth)」はもはや普通の言葉(household word)! ”Think global, act local ”は、フラーの言葉ではない。 新訳版に期待 既成概念から精神を解き放つ自由な思考 フラー和書のプロジェクション Amazonで詳しく見る by G-Tools |
タイトルで勝手に「環境のために立ち上がろう」みたいな
イメージを持たれると、なんかちょっと違う気がする。
自然が人間に求めたのは、全方位とはいかないまでも、幅広い適応性だった。
進化の全体のパターンとして見れば、無数の低エネルギーの出来事のなかに、一瞬、大エネルギーの出来事が起こるときがあって、その揺れ幅がかなりだと、過度に専門化した生物は、一般的な適応能力がないために死んでしまう。
こんな感じで、専門ではなく全体を見ることの大切さを説く。
どんな木でも梃子に使えるとわかりさえすれば、人間の知性は加速度的に優位に立つ。知性によって特殊ケースの迷信から自由になり、人間は生き延びる可能性を何百倍にも強めていった。ギア、滑車、トランジスタ、そこに潜んだ梃子の原理によって、文字通り「より少ないものでより多くのことをなす」ことが、物理、化学の多くの方法で可能となった。
「より少ないもので多くのことをなす」これがけっこう重要かもしれない。
自分たちの知的ノウハウを使用してテストするたびに、私たちはつねにより多くのことを学んでいく。つまり、ノウハウは増える一方なのだ。
〜中略〜
総合して考えれば、富の物質的な構成要素、つまりエネルギーはけっして減らず、超物質的な構成要素、つまりノウハウは増える一方だ。ということは、私たちの富は使うたびに、増えていくということになる。エントロピーに逆らって、富は増えるだけなのだ。
こういう考え方をしたことはなかったな。科学は、巨人の肩の上に立って進歩を続けるから
ノウハウがつねに蓄積されているので、まさしくその通りだと思う。
地球という惑星を基地とした人類は、物質的、経済的には成功し、個人的には非常に深い意味での自由になるのだろう。全ての人が全地球を満喫しながら、誰も他人に干渉せず、他人の犠牲で利益を得るものもいなくなる。自らの裁量で、起きている時間の99.9パーセントの使い方が決められるという意味で、人類は自由になるわけだ。「おまえ」とか「おれ」にかじりついて、生存のために闘う必要がないという意味での自由でもあり、だからお互いに信頼しあい、自発的に、また論理を重んじて、人は自由に協力していけるようになるだろう。
この部分を通勤電車の中で読んでいたのだが、衝撃に体が震えたのを覚えている。
前々から何となく思っていたんだけどうまくコトバにできなかったこと、
それがここに書いてあったのである。これに共感できる人とは、仲良くなれそうな気がする。
「宇宙船地球号」に積み立てられた化石燃料は、自動車でいえばバッテリーに当たるもので、メイン・エンジンのセルフスターターを始動させるためのエネルギーを貯えておかなければならないものだ。だから私たちのメイン・エンジン、つまり生命の再生プロセスは、風や潮汐や水の力、さらには直接太陽からやってくる放射エネルギーを通して、日々膨大に得られるエネルギー収入でのみ動かねばならない。
時代がフラーに追いついてきたとどこかに書いてたけど、確かにそうだ。
民族などというものは、無数の、どっか遠隔に孤立した人間たちの飛び地において、ローカルな同種交配が何世代にもわたって続けられて生まれたものだ。祖父の族長たちがたびたび近親で結婚し合ったから、遺伝子が集中して、雑種ではあるが民族としてはユニークな生理学上の特徴が生み出されていったに過ぎない。
この辺りは、別の本で得た知識があったからしっくりきた。
本の相乗効果ってのは、非常にありがたいものである。
イヴの七人の娘たち (ヴィレッジブックス) ブライアン サイクス Bryan Sykes 大野 晶子 by G-Tools |
人類のひとりひとりに高い生活水準が提供できるまで、私たちには世界の資源一ポンドあたりの性能を増していく義務がある。もはやどこの偏った政治システムが世界をとるか、そんなことを眺めて立ち止まっている暇はない。
ここまでばっさり言い切ってくれると気持ちがいい。
私はだんだん、ものを所有するのをやめつつある。
〜中略〜
単に実用的だという理由からだ。所有はしだいに負担になり、不経済になり、それゆえ時代遅れになりつつある。
どうしても共感するところをピックアップしてしまう。
世界で対立する政治家たちやイデオロギー・ドグマの危険な袋小路が加速度的に増えつつある今、いったいどうやってこれを解決したらいいのか、
〜中略〜
それはコンピューターによって解決される、と私は答える。人のコンピューターへの信頼は高まる一方だ。
googleを予言?ちなみにこの本は1969年に書かれている。
そう、だからイニシアティブをとるのはプランナーであり、建築家であり、技術者なのだ。仕事に取りかかって欲しい。とりわけ共同作業をして、互いに抑制し合ったり、他人の犠牲で得をしようなどとはしないで欲しい。そんな偏った成功は、ますます先の短いものになるだろう。
やっぱりこの辺の価値観が好き。他人の足を引っ張ったり、他人から何かをかすめ取るより
もっと全体に価値があるようなことをしようよって思う。その方が近道なんだから。
あと注釈も興味深い
正四面体を体積算法の単位に使えば、最密パッキングから得られる各種立体の体積は、全て有理数で表現できる。自分の幾何学にπを持ち込む必要はない。全てを正四面体的な座標系の上で考えていけば良いのだ。
人間は、この動的・曲線的・三角形的宇宙を、静的・直線的・四角形的直交座標の中に押し込めて理解しようとする。だから、こんがらがってしまい、無駄なことばかりしている。宇宙がやっている経済的な構造化原理を人間の技術体系にも導入すれば、もっと少ないもので、多くのことがなせるだろう。
無理矢理当てはめる必要なんてない。フラードームのコンセプトみたいなのを
なんとなくわかった気がする。もっと柔軟に物事を考える必要がありそうだな。
説明する良い機会だから書いておくけど、
僕が、手持ちのキャッシュを最大化してもしょうがないと言ったり、
発展途上国の社会起業家について本を読みあさってて共感したり、
車に乗らずに自転車に乗ったり、ものを減らそうとしたりしているのは
別にロハスとか、地球環境の問題とか、人道的な問題とかに
急激に目覚めたってわけでは全然ない。正直言ってどうでもよい。
単にこれまでと違った価値観で楽しいからやってるだけ。
バブリーな金の使い方とか、古くさく感じて性に合わないから。
だって、ずっと前からたくさんの人がやってきたことだから。
新しい価値観の方が個人的に面白いと思うだけの話。
本の感想というのは、自分が理解した範囲でしか書けない。
もっといろいろ素晴らしいことを書いているのかもしれないけど
自分の現在の理解力ではここまで。借りた本なので返します。
ありがとう。お陰で貴重な体験ができました。
バックミンスター・フラー。
さらに詳しく知りたい人物である。