ArtScience Museumに行ってきた

船が上に乗っているみたいな変な建物マリーナベイサンズ。そこに手のひらみたいな変な形のミュージアム(ArtScience Museum: http://www.marinabaysands.com/ArtScienceMuseum/)が今年の始めにオープンした。名前からしてとりあえず押さえておきたいので本日行ってきた。よく言えば新しい試み、悪く言えばやや残念な博物館だった。率直な感想を書いておこう。国立博物館に無料で入れる(学割効果)のに、30ドル(2000円)もかかるのかと感じた。それだけのものを払うなら価格に見合った物を提供して欲しいと思うのは当然か。

4階(ArtScience Museumに関する展示)

常設展っぽい。どんな人がこの変な建物を設計したのかとか、そのコンセプトとしてバックミンスター・フラーとかレオナルド・ダ・ビンチとかいろいろ挙げて説明してた。アートとサイエンスがどうのこうの。安っぽい模型が浮いてて、映像も寄せ集めでなんだかなという感じ。この建物の設計や建設には金がかかってるかもしれないけど、この階の展示で見るべき物はないな。

3階(ダリ展)

5月14日オープン。入れず。まあ事前に知ってたけど。

地下1階(ゴッホ展)

ゴッホ展と言いながら絵の一つも置かずにこの値段取るとは」という妻の一言に同意。大量のプロジェクタを使って広い展示室でたくさんの絵や写真を映し出すという展示。サイズとしてはルーブル美術館にある「ナポレオンの戴冠」やプラド美術館の「ゲルニカ」(これは知らない)くらいなので迫力はある。大量のビジュアルイメージを一気に表示して少しずつ切り替えていく手法というのは確かに面白い。しかし、どうにもこうにも2次元の絵というのは安っぽい。ゴッホなんだから筆のタッチとか絵の具の盛り上がりとかを期待するわけだが、オルセーとかメトロポリタンとかで感じたような迫力はここにはなかった。どうせデジタルデータならiPadでいいじゃないか、と思ってしまう。解説文とかwikipediaから持ってくればいいんだし。ゴッホの絵のデジタルデータなんて著作権が切れてるから、やっぱり金かかってないなあと思った。工夫により最小限の投資でいかに最大限の利益を上げるかを目指している雰囲気。
でもよく考えてみると、これはシンガポールなりの取り組み方なのかなと思った。美術館というのは先入観なのかもしれない。デジタル時代の絵の見せ方の新しい試みなのかもしれない。いろんな国で同時に展示ができるし金も手間もかからない。ノウハウも大して必要ない。今後中国とかインドとかアフリカとかで絵画のニーズが出てきたときに、これまでの美術館の手法は輸出できないけどシンガポールのこの手法なら輸出できる。アートの分野のfrugal innovationなのかもしれない。質は及ばないけど圧倒的に安くそこそこの満足感を与えるのが世界のマジョリティに受け入れられるという可能性を考えても良さそうだ。

地下1階(沈没船から見つかった唐時代の磁器)

これは面白かった。シルクロードが栄えていた時代に唐とアッバース朝の交易が盛んで、長安(今の西安)から船で河を下って海に出てマラッカ海峡を通って、バグダードまで行っていたとか。その船がジャワ島辺りで沈んでいたのが見つかって、そこで見つかった磁器を大量に展示してた。シルクロードと言えば唐とローマの間だと思っていたが、バグダードとも盛んに交易してたのかと感じた。あと高いからかガラガラでのんびり見られたのが良かった。あと音声は、オーディオスポットライト(http://www.holosonicjapan.com/)を使っていたのかどうか知らないけど、指向性が高い感じ。歴史的背景から船の作り方、サルベージされた磁器など非常に楽しめた。普通に店に並んでいてもおかしくないくらい保存状態が良い。銀とか金とか鏡とかもあった。漢時代の鏡に玄武、青龍、白虎、朱雀が浮き彫りにされていたり、壷に乗っている龍の彫刻が非常に凝っていたりとなかなか趣がある。ミュージアムショップはいまいちだったけど。

感想

そんなわけで一度実際に見て良かったけれども、パリやニューヨークや東京の展示と比較するとちょっとなあという感じ。沈没船は面白かったけどあとは今ひとつというのが今回の結論。安くしたら安くしたで、混雑してあまり快適に見られなくなるのかもしれない。美術館として見るのではなく、別の新たな試みとして見れば良さそうだ。ゴッホの展示を見て思ったのは、自分が勉強したいことをビジュアル化して、こんな風に広い空間で大量に映し出して一気に見れば理解が加速したりするのかなということ。物事をちょっと違った視点で見てみるのはいいかもしれない。