スポーツを「視る」技術

ざっと読んで捨てようかと思った本だけど、
読んでみたらけっこう面白かったのでじっくり読んだ。

スポーツを「視る」技術 (講談社現代新書)
スポーツを「視る」技術 (講談社現代新書)二宮 清純

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「左フックは背中をかするだけでも意味があるんです。肝臓がグーッと腹の中で動く瞬間の恐怖といったら・・・わかりますか!?」
私は何も言い返せないばかりか、その程度の知識で記事を書いている自分を恥ずかしく思った。
〜中略〜
ではスポーツ経験者じゃなければ、スポーツの記事は書けないのか。そんなことはない。書き手には書き手の感性がある。
〜中略〜
経験者ではないからこそ、経験者以上に思索を巡らせなければならない。先入観や固定観念をはいし、顕微鏡で微生物を覗き込むがごとく、ディテールに誠実であらねばならない。

自分の場合はスポーツとは関係ないけれど、技術について広く浅く関わるので似てるかもしれない。
意識してディテールを見ていくことの大切さについて、痛感している。
結局は見えているものしか描けないし、わかっていることしか説明できない。
大切なのは、観察力としっかりとした理解である。その辺りをスポーツライターの視点で書いた本。

一世一代の勝負の日に"エンジョイもないだろう"と思ったものですよ。
〜中略〜
結局これって考え方の問題だと思うんですよ。アメリカが"野球を楽しんでいるから抑えられるんだ"という考え方だとしたら、日本は"抑えられるから野球が楽しいんだ"という考え方でしょう。どっちが正しいのかはともかく、僕は両方とも理解できるから、場面に応じてこれを使い分けるんです。スランプが少ないのは、そのせいかもしれませんね。

マリナーズの長谷川投手の言葉。使い分けは大切かも。

カーブを投げる時だけ体が緩むというクセを他球団のスコアラーに発見されてしまったのである。
普通のピッチャーなら、このクセを直そうとするところだが、長谷川は違った。ストレートを投げる時にも体を緩めるような動作を取り入れ、どれがカーブかどれがストレ−トか区別がつかないようにしたのである。
足の上げ方もそうだ。プロに入った頃、長谷川はストレートだと足を高く上げるが、カーブだと足を少ししか上げないというクセがあった。普通ならストレートを優先するため、どのボールを投げるときにも足を高く上げるフォームにかえるものだが、ここでも長谷川は常識の逆をいった。足をカーブのときの上げ方に統一することで、何を投げてくるか判別できなくしたのである。

クセというのが直そうとしてもなかなか直らないものだと、ちゃんとわかってるんだな。
クセを意識して、わざとクセを出すというカモフラージュ。何かに応用できそう。


あと、前田智徳という選手がすごい。

人間は皆、弱いからどこかで妥協するんです。でも、あの子は絶対に妥協しない。自らの理想に対してはとことん追求していく。その姿がまわりにはワガママに映るだけなんです。
〜中略〜
長いシーズン、これ以上、足が悪うならんか心配です。足さえ大丈夫やったら、あの子、イチローにも負けんとです。

タラレバを言ってもしょうがないが、それほど大げさな話でもなさそうだ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E7%94%B0%E6%99%BA%E5%BE%B3
最後の方の人物評、前田語録が強烈。

1994年にオールスターゲームに出場した際、前田との初対面を果たし、握手を交わしたイチローは満面の笑みを浮かべていた。その後も「僕なんて天才じゃない。真の天才とは前田さんの事を言うんです」と語っている。

中日ドラゴンズの監督に就任した落合は、〜中略〜「真似していいのは前田だけだ。前田だけを見習え」と語っている。

本塁打を打っても喜びを露にする事は非常に稀で、ボールを完璧にとらえ、飛距離も軌道も完璧な一打を放ったにもかかわらず、ベースを一周しながら首を傾げるなど不満そうな表情を見せたり、ベンチの出迎えに、首をすくめながら照れ臭そうにハイタッチする姿も見られる。さらに試合後のヒーローインタビューでも「当たり損ねですよ」「まぐれ。たまたまです」と話す事がある。
ただ近年はファンサービスも兼ねて「気合で打ちました」などとリップサービスする事もある。

ここまで面白い選手だとは全然知らなかった。


シドニーオリンピックのマラソンの話もなかなか面白かった。

35キロ地点でのスパートは、もちろん競技場での勝負を避けたい気持ちからきたものだった。
レース後、小出はこんな秘策を明かした。
「私たちね、32キロのところに宿舎をとっていたの。ここで毎日、朝夕二回、(アップダウンが続く)32キロから37キロ地点の5キロをスパートする練習をしてたんだ。「ここが勝負だよ、ここが勝負だよ」と言いながらね。」

終わったから言えることかもしれないけど、勝負所を徹底的におさえておくことは
非常に意味のあることではないかと思う。


ディテールをしっかり見ていくと、新たな楽しみ方ができそうだ。スポーツに限らず、何事も。