蛍坂
本って基本的にタイトルで手に取るかどうか決めるんだけど
小説は作家で決めるような気がする。当たり前か。
北森鴻の軽い語り口が好き。きっかけは講談社INPOCKET。
「孤拳」という短編を読んで以来、けっこう読んでいる。
ネタバレせずに紹介するのは難しいけど、
内容がわからない程度にピックアップしよう。
香菜里屋。東急田園都市線の三軒茶屋駅から路地を縫うように歩くこと5分あまり。立地条件の良い店ではないが、ここに安息を求め、いつの間にか常連となる客が少なくない。フードメニューは存在するものの、主人の工藤が勧めるがままに食を楽しみ、酔いを楽しむのがもっとも賢い流儀だと知ってから、仲河もまたこの店から離れられない一人となった。
どう不思議といわれても困るけれど、とにかく不思議な店。そこには精緻なヨークシャーテリアの刺繍を施したワインレッドのエプロンを着た店主がいて、客の持ち込むなぞなぞをいつの間にか解き明かしてくれるんだって。
なぞなぞといわれてもなあ、わたしは単なる捜し物をしているだけで。
とにかく一度いってみたら。
という不思議な店を舞台にした短編がいくつか。読みやすく心地良い。
いいかい、この世には二種類の不幸がある。百グラム8000円の最上級の牛肉ばかり食べ過ぎて、一本120円のモツ焼きの美味さを忘れてしまう不幸。120円のモツ焼きしか食べることができず、100グラム8000円の牛肉の味を知らない不幸。どちらも同じくらい不幸なんだ。もっとも幸福な人間は、双方の美味さを知りつつ臨機応変に、そして貪欲に美味を追求する。
己の死を悲しむな。けれど忘れて欲しくもない。
「二つの思いを両立させるために?」
「あくまでもわたしの想像に過ぎませんが」
そういって工藤は厨房へと向かった。
やっぱり、小説の紹介というのは野暮な気がする。
螢坂 | |
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