フィリピン旅行の帰りの飛行機で読み始めて、一気に読み切ってしまった。「マネーボール」で知られるマイケル・ルイスの本だからきっと面白いだろうと思って買ったわけだが、期待以上の面白さだ。リーマンショックなどの一連の出来事がなんだったのか非常によくわかる。
低所得者向けの住宅ローン(サブプライムローン)をまとめて金融商品にして売りさばいていたらいろいろ破綻したというあいまいな認識だったが、この本を読めばキーワード一つ一つが一気に繋がった。そんな住宅ローンは無茶だろうと思って、破綻する側に掛けた3つのグループの動向が中心となって話が進んでいく。
現状においておかしな点を見つける、それによって近い将来起きることを予測する、予測に基づいて掛ける、掛け金をきちんと回収する、という基本が非常に丁寧に描かれているのがいい。これはお金に限った話ではないし、自分で物事を考えて行動する人間にとって非常に大切な視点だろうと思った。予測するだけではどうにもならないし、掛ける手段が現状において用意されてなければ作るしかないし、掛けたとしても回収するまで話は終らない。
低所得者向けのローンが、最初の2年間は低利子だけど、その後の利子は跳ね上がるということに気づくのは、非常に重要な第一歩だが、この本の登場人物たちはそこから先に行く。2年後にそんなゴミばかり集めた金融商品が無価値になるとしたら、そうなるように掛けられないか考え、現状そんな商品がなかったら作るように売り込む。実に研究熱心だ。そこに出てきたのがクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という具合に話が繋がって面白い。債券を空売りできないから、保険のようなものを買って、それによって空売りの効果を出すというアイデア。2年間淡々と保険料を支払い、サブプライムローンが破綻したらきっちりお金を回収するという目論みだ。
でもまだ話は終らない。賭けの相手に払ってもらわないといけないわけで、投資銀行が非公開市場なのを良いことに恣意的な値付けをしていたり、都合が悪くなると担当者が出てこなくなったりと厄介。そもそも賭けの相手が潰れてしまうとお金を回収できなくなってしまう。それに国に救済されて金融商品の価値が跳ね上がったりすると大変。タイミングが非常に重要であり、あらゆることを想定しておくことが大切なんだと感じた。
ジョン・ポールソンはこの本の登場人物の一人なのだが、この本を読んで、以前読んだFaceValueの記事を思い出した。
http://www.economist.com/node/13277415
こうして話がつながると非常に面白い。もう一つつなげようとするならば、知的財産市場IPXIだろう。特許を金融商品として取引する市場だ。S&Pやムーディーズに相当する格付け機関はOcean Tomoだろう。IPXIの役回りは、投資銀行の仲介業務に相当しそうだ。特許を出品する側も最初の段階ではIPXI側ばかりなので、これらみんなくっついているのがよくわかる。そんな市場で損しないように、カモにされないように、裏をかく、逆を張るにはどうしたらいいか考えて見るのもいいかもしれない。低所得者が住宅ローンを払えなくなることに相当する何かが見つかると、もう一歩前に進めるかもしれない。いずれにしても非常に面白い本だった。
「世紀の空売り」から何を学び取るか
世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)
posted with amazlet at 13.06.01