フリーソフトウェアと自由な社会

借りていた本をようやく読み終わった。リチャード・M・ストールマンのサイン本。Thanks, id:shiumachi

フリーソフトウェアと自由な社会 ―Richard M. Stallmanエッセイ集
フリーソフトウェアと自由な社会 ―Richard M. Stallmanエッセイ集リチャード・M・ストールマン Richard M. Stallman 長尾 高弘

おすすめ平均
starsフリーソフトウェアは自由か
stars自由を守る戦いの目撃者となる
stars経済面とは直結しなくても色あせることのない意義を知るには最適
stars無料というFREEから自由というFREEへの誘い
starsフリーソフトウェアと自由な社会

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どんなに極端なことが書いてあるんだろう、と思って読んでみたら
案外自分と似通った考え方だった。基本的に同意という感じ。

ソフトウェアに関しての、この問題への解答は、実は他のもの創りの人々には既に知られている。昼間の仕事というやつだ。この言葉はミュージシャンの間から始まった。彼らは夜に演奏するからだ。より一般的に言えば、金のために一つの仕事を、愛のためにもう一つの仕事をするということだ。
ほとんど全ての、ものを創る人達は、駆け出しの頃には昼間の仕事を持っていた。画家と小説家は特にそうだ。運が良ければ、本当の仕事と関係が深い昼間の仕事を見付けることができるだろう。ミュージシャンはよくレコード店で働いている。プログラミング言語やOSをハックしているハッカーは、それらを使う昼間の仕事を見付けることができるかもしれない[1]。

Hackers and Painters

これはポール・グラハムの言葉だけど、そもそもソフトウェアに関わる仕事って
こういうものだと思ってたから、フリーソフトウェアの考え方が非常に自然に感じられる。
ちなみにフリーソフトウェアの定義は、こうなっている。

  • 目的を問わず、プログラムを実行する自由 (第 0 の自由)。
  • プログラムがどのように動作しているか研究し、そのプログラムに あなたの必要に応じて修正を加え、採り入れる自由 (第 1 の自由)。 ソースコードが入手可能であることはこの前提条件となります。
  • 身近な人を助けられるよう、コピーを再頒布する自由 (第 2 の自由)。
  • プログラムを改良し、コミュニティ全体がその恩恵を受けられるよう あなたの改良点を公衆に発表する自由 (第 3 の自由)。 ソースコードが入手可能であることはここでも前提条件となります。
自由ソフトウェアとは? - GNUプロジェクト - フリーソフトウェアファウンデーション

オープンソースではない。そこは明確に区別しなければならない。LinuxではなくGNU/Linuxだ。

一切の留保抜きで、とにかくソフトウェアは自由であるべきだ、と考えるのがフリーソフトウェアである。そして、ソフトウェアを自由にしたほうがこれこれこういう理由で便利だ、だからそういう場合はオープンソースにしよう、と考えるのがオープンソースだ。

Separated And Not Equal - 八田真行のオープンソース考現学 - ZDNet Japan

コピーレフト or Notというわけではないけど、コピーレフトも代表的な特徴かも。

そこで、GNU ソフトウェアをパブリックドメインに置く代わりに、私たちはそれに著作権(コピーライト)ならぬ「コピーレフト」を主張することにしました。コピーレフトでは、そのソフトウェアを再頒布する人は変更の有無を問わず、頒布される人にも彼らがそれをさらに複製し変更を加える自由を与えなければならないということを主張します。コピーレフトによって、すべてのユーザが自由を持つことが保証されるのです。

コピーレフトって何? - GNUプロジェクト - フリーソフトウェアファウンデーション

要は、フリーソフトウェアプログラマーは、非フリーのソフトウェアを売る会社のために
タダ働きしたいわけじゃないから、フリーソフトウェアのコードを使うなら、あんたも公開しろって話。
著作権がとか、特許がとか、いろいろガチガチに制限するものはあるけど、
そもそもそれらの権利は、著作権者とか特許権者のためにあるわけじゃない。
社会をよりよくしていくために、たまたまそれらの人に与えられた権利に過ぎないから
制限することで社会が良くならないなら、そんな権利こそ制限されるべきって話。
法律というのは一部の産業や企業を守るためにあるんじゃなくて、社会のためにあるということ。
別に著作権、特許権を全て否定したいわけじゃなくて、対象によってやり方変えてもいいんじゃないってこと。


多少間違ってるかもしれないけど、著者はこんな感じのことを言いたかったのかな、と推測した。
それに対する、自分の感想も述べておこう。印象論に過ぎないんだけど。
手元にあるものを自由に操作できないってのは、個人的にすごく気持ち悪い。
技術的に簡単にコピーできるのに、人が作った変なルールにより行動が制限されるのはおかしいと思う。
簡単にコピーされたら会社が潰れるってのは会社の都合なわけで、ビジネスモデルが間違ってると思う。
P2Pとかを目の当たりにした自分にとって、最初から今に至るまでずっと感じているのは、
インターネットの力を阻害するような制限なんて極力減らさなくちゃいけないということだ。


「だからマイクロソフトが全部悪い」というつもりはない。

これはメインフレームの世界であってホビースト達は自分たちでパソコンを組み立てプログラムを共有していた。
さて、当時のハッカー倫理ではプログラムをコピーすることは犯罪でもなんでもなかったが、パソコン向けのソフトウェアを書いたビル・ゲイツがそれに噛み付いた。彼はMITSという会社が作ったパソコン向けにBASICのインタプリタを書いたのだが、それをホビースト達が勝手にコピーしていると文句を言った。
それが、ビル・ゲイツの「ホビーストへの公開書簡」である。英語版のWikipediaにその写しがよめる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Open_Letter_to_Hobbyists

このおかげで、ソフトウェアという産業が起こり、非常に多くの人が参加し、
急速に発展して、今こうして自分がブログを書くことができているんだから。
物事を急速に発展させるために、ビジネスという手法は非常に有効だと思う。
産業ができて、たくさんの人がいろんなことをやるのは、楽しいからいいと思う。
落としどころとしては、コピーレフトを骨抜きにするしかないのかもな。

コピーレフトが実質的に機能しなくなると、どういうことになるだろうか。おそらく、ソフトウェアのブラックボックス化が、今までとはやや違った形でゆっくりと進んでいくだろう。手元に実行形式があるのに、プロプライエタリだからソースが見られない、のではない。そもそも何も頒布しないからソースが見られないのだ。しかしソフトウェアを実行した結果はユーザーに手に入る。そんな世界である。これはコピーレフトが実質的に無化された世界と言っても良い。

Magi's View:さよならコピーレフト - ITmedia エンタープライズ

ローカルの方は全部フリーソフトウェアで、サーバサイドは非フリーのブラックボックス。
手元にあるものは、自分で使いやすいようにカスタマイズすることができて、
隣人を助けることができるけど、サーバサイドは、データ投げたらなんか返ってくるって感じ。
それを前提として、リテラシーのない人にフリーソフトウェアをインストールしてあげたり、
サーバ側で価値を提供するようなビジネスモデルが自然なのかなあと何となく感じた。

これまたポール・グラハムが書いてましたが、「その人がハッカーかどうかを見分ける簡単なインタビュー方法がある。仕事から帰ってきて、あるいは週末に、趣味でどんなコードを書いているか?と聞いてみればいいのだ。趣味でコードを書いてないやつはハッカーじゃないからだ。」(一部うろ覚え)というのは本当にその通りだと思います。本当に心から好きでやってることじゃないと、偉大なものって創れないよねと。ハッカーがオープンソースに群がるのは、そういうことなんだから。

イケてるプロジェクト「Sumibi」:Kenn's Clairvoyance - CNET Japan

仕事=趣味の人はいいんだけど、やっぱり趣味でやることが好きなことだと思う。
そして、好きなことをやってるから、最大限に力が発揮できるし、それが大事だろう。
フリーがいいけど、それじゃあ生活に困るとか、そういうことに悩みたくなかったんで
自分はソフトウェアとはほとんど関係のない仕事を選んだってことを思い出した。


ちなみに、避けた方がよい用語のところに「知的財産権(intellectual property)」があった。
自分の名刺というか所属部門そのものが、避けた方がよい用語。かなり大々的に使ってる用語だけど。
自分の考え方と対極にある部門なんだけど、あんまりジレンマは感じてない。
今の仕事をしてるのは、別に発明者の権利を守りたかったからでも、審査官に反論したかったからでもない。
技術に近いポジションで、技術を広く見て、現在キャッシュを生み出している場所だからである。
この業界は全然好きになれないけど、自分の会社、所属部門は非常に好き。道具と割り切ってるからかも。
趣味でやってるみたいに新しい技術を見て、嫌でも発明の本質を理解せざるを得なくて、
英文を読む習慣が嫌でも身について、国際的な金儲けを見られて、残業が少なめなんだから
昼間の仕事として文句を言ってはいけないだろ、と個人的に思ってる。
それに、何かを変えたいと思ったら、外からだけじゃなくて中からも力を加えないといけないし、
そのために業界の中を知っておくということも大事かと。敵が強すぎたら逃げればいいし。
ルールを変えるためには、現行のルールを知ることも大事だと思って、今に至る。


ふと疑問に思ったが、コピーレフトって何年存続するんだろう。コピーライトと一緒かな。
死後50年経ったら、パブリックドメインになって商用利用できるのかな。どこにも触れてないから気になった。
このブログ書くためにハッカーと画家を読み返したりして、数時間かかってる。完全に趣味だ。
趣味でやるほど好きなこと。金積まれたってやらないけど、好きだからやる。ただそれだけのこと。