暗号解読

大学生のときに生協の本屋で見かけて気になってたんだけど、
そんなにどんどん読めないなあと思ってペンディングにしてて
今回文庫になったので買って読んだ本。非常に面白かった。
フェルマーの最終定理も面白かったし、元々けっこうパズル好きだったから
まあ当然と言えば当然か。期待以上に楽しめたので、既に数人に勧めている。

暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号までサイモン シン Simon Singh 青木 薫

おすすめ平均
stars正確性に不満
stars裏の世界の、そのまた裏の物語。
starsサイモン・シンの魔法 難解なものを平易にする術炸裂
stars現代の暗号が何故存在しているのか?
stars歴史を縦軸に、技術を横軸に

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暗号の歴史、エニグマエニグマの解読、古代文字の解読、公開鍵暗号PGP、量子暗号
という感じの流れ。全部知ってる人には退屈かもしれないけど、個人的に公開鍵の仕組み
くらいしか知らなかったんで、暗号作成者と暗号解読者のいたちごっこがかなり面白かった。

「年上の男の子たちが暗号を作るんだが、二、三の言葉がわかりさえすれば、私にはたいてい解けてしまった。この才能のせいで、痛い思いをしたこともある。暗号を破られたやつが、自分の頭が悪いのを棚に上げて私を殴ったのだ。」殴られたぐらいでへこたれるはずもなく、バベッジはあいかわらず暗号解読に夢中だった。「私に言わせてもらえば、あらゆる学問の中でもっとも魅力的なのは暗号解読だ」
まもなくバベッジは、暗号ならなんでもござれの暗号解読者としてロンドンの社交界で名を知られるようになり、暗号がらみの問題を抱えた人たちがバベッッジに接触してくるようになった。

頻度分析とか規則性とか見極めて、いろいろと仮説を立てて解いていくのが非常に興味深い。
暗号解読や暗号作成が、当時から非常に重要な意味を持っているのがわかる。
あと、エニグマの解読が面白すぎる。
ドイツ軍が使った当時解読不能の暗号機エニグマをポーランド、イギリスあたりが
手探りをしながら解読をしていくのだが、そのプロセスが非常に感動的。

シリーはエニグマ機の弱点ではなく、エニグマ機の使い方の弱点である。もっと上部の人間が犯す人的ミスもまたエニグマの安全性を脅かした。

スクランブラーの位置を必ず変更するというこの戦略は、一見すると理にかなっているようにみえる。ところがこの規則に律儀にしたがえば、逆に暗号解読者を利することになってしまうのだ。スクランブラーが同じ位置に来るのを避けるためにどれかの配列を除外することは、スクランブラーの可能な配置を半減させることだからである。

すぐに気付かれそうな文字の交換は避けるという方針は理屈の上ではもっともだが、この規則に律儀に従えば、またしても可能な鍵の数を激減させてしまうのである。

部分的に最適なことでも、律儀に従うという規則性があるとそこが弱点になる。
単純化してしまうのは楽だけど、弱点を見せないためにはランダムじゃないといけない。

たとえばドイツ人は、毎日午前六時過ぎに、気象情報を暗号化して送信することが経験的にわかっていた。そこで午前六時五分に暗号化されたメッセージが傍受されれば、そこにはドイツ語で”天候”を意味するwetterという言葉が含まれているとみてほぼ間違いない。軍隊というものは厳格な規則に従おうとするものだから、こうしたメッセージも判で押したようになりがちだ。そんなわけでチューリングは、wetterという言葉が、暗号化されたメッセージのどこにあるかまでほぼ確信することができたのだった。

こんなのも弱点になるというのが面白い。高度な駆け引きを伴う知的ゲームかな。
不謹慎な言い方かもしれないけど、人が死なないなら戦争って素晴らしいと思う。
人が必死になって相手の裏をよんだりして、いろいろ戦略立てるから。

何人かの暗号解読者と会ったチャーチルは、かくも価値ある情報を提供してくれているのが、何とも異様な面々であることに驚かされた。そこには数学者や言語学者のみならず、焼き物の名人、元プラハ美術館の学芸員、全英チェス大会のチャンピオン、トランプのブリッジの名人などがいたからである。チャーチルは、秘密検察局の局長であったサー・スチュワート・メンジーズに向かってつぶやくようにこう言った。「八方手を尽くせとは言ったが、ここまで文字通りにやるとはな」そうは言ったものの、チャーチルは寄せ集めのこの集団が大いに気に入り、彼らを「金の卵を生む、鳴かないガチョウたち」と呼んだ。

これだから面白い。こういうチームでなにかやりたいとは常々思っている。
そのためには自分が何かに秀でていないと難しいけど、これだけは
誰にも負けないと言えるような何かを手に入れたい。
あとPGPがかなり面白かった。pretty good privacyという意味とは知らなかった。
フィル・ジマーマンがすごい。

それに対してジマーマンは、RSA暗号を使ってプライバシーを守ることは万人の権利だと考え、その政治的情熱を一般大衆向けのRSA製品を開発することに向けたのだった。ジマーマンはコンピューター科学の知識を生かし、経済性と効率を考えて、普通のパソコンに搭載できる製品を設計しようとした。また彼は、自分の作るRSAのバージョンでは、とくにインターフェースを使いやすいものにしたかった。そうすれば専門家でなくてもRSA暗号を使うことができる。

当初PGPを商品化して売り出すつもりだったジマーマンだが、こうなってはのんびりしてはいられない。政府がPGPを禁止するのを指をくわえて待つのではなく、手遅れになる前に万人に配布すべきだとジマーマンは考えた。1991年6月、ジマーマンは友人に頼んで、USENETの掲示板にPGPを出してもらった。PGPは単なるソフトウェアにすぎないから、誰でも無料で掲示板からダウンロードできる。こうしてPGPはインターネットに流れ出した。

この後武器の非合法輸出としてFBIに取り調べを受けたりしてる。
この人の思想が非常に興味深いと思った。

続きはあとで書く
追記
人間関係も暗号解読みたいなものかなと思った。
相手の思ってることと、相手の言葉は一致するとは限らない。
何かをしたときに何らかの反応をするのはブラックボックスみたい。
正確なことはわからないかもしれないけど、情報量が増えたら
ある程度平文でわかるようになるのかもしれない。
ある程度入出力の関係がわかるようになるのかもしれない。


知らない人の考えていることを知るというのは、
ほとんど手がかりのない古代文字を解読するようなもの。
場合によってはヒントがもらえそうってのが違うけど。
暗号化する気がないのに、暗号化されてるのは困る。
一つ、また一つとブログを書くことで、
手がかりと言うか情報量を増やして、誤解が減ればいいけど
逆に誤解が助長されている面もあるような気がする。